第9話:忍び寄る追跡者
その頃、サファイアとマルクは長い廊下の突き当たりにある部屋に逃げ込んでいた。
幸い鍵がかかっておらず、中から鍵を掛ける事ができた。
「マ、マルクくん!何で急に走り出したの?」
「しー!僕たちの後を付いてきてる人がいる…」
マルクは小声で話した。
「え!?何…本当?」
驚くサファイア。
「ほんとだよ」
マルクはドアに方耳を引っ付けて、廊下の音に集中した。
サファイアは不安になり、後ろを振り返った。
急に走り出したため、いつもとは違って側にナディーはいない。
視線をマルクに戻すサファイア。
「…」
それからサファイアはマルクの近くに寄って、
「何か聞こえる?」
と声を潜めて尋ねた。
靴音が2人のいる部屋まで近づいてきていた。
「ん、足音が…」
サファイアもドアに耳をつけた。
息を潜める2人。
靴音は一度部屋の前で止まったが、直ぐに通り過ぎて行くのがわかった。
遠のく靴音。
「…はぁ」
靴音が聞こえなくなると、2人は安堵のため息をついた。
「もう、大丈夫そうだね」
「うん…」
2人はドアを開けて、廊下へ出た。
そして靴音が遠退いていった方を見る。
「誰だったのかな?」
「…」
黙り込むマルク。
「…ナディー、いるんでしょ?出てきて」
サファイアは空気に向かって話しかけた。
「はい、只今…」
すると少し離れた所にナディーが現れた。
「今私たちを追っていた人、誰だったかわかる?」
「はい。しっかりと確認させて貰いました」
ナディーは至って冷静に話しをする。
「誰だったの?」
「それは…」
ナディーが話そうと口を開いた時、突如目の色を変えてサファイアとマルクの背後に立ち回った。
「?」
サファイアとマルクが振り返ると、そこにはバスで見た宮警備隊の女の人がいた。
「何をしてるの?ここは一般者立ち入り禁止区域なのよ」
「あ、バスの…」
宮警備隊の人はナディーからサファイアとマルクに視線を移す。
マルクはさっきよりも更に震えてサファイアの後ろに隠れた。
「あら、あなた…その制服。たしかロバート学園の生徒ね」
「はい、サファイアです。……勝手に入ってごめんなさい。でも今、マルクくんの家族を探しているんです」
「そう、迷子なのね…。私は宮警備隊隊長のサリーよ。一緒に探してあげるわ。でもここから先はダメ、下の階を探しましょう?」
サリーは鋭い眼光を向けるナディーは気にせず、優しい笑みを2人に向けた。
「本当に!?あ、ありがとうございます!」
サファイアはナディーより前に出てサリーに近付き、頭を下げた。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい」
サファイアは安心してサリーに背を向けた。
そして階段に戻ろうとした時、サファイアに魔の手が忍び寄った。
その時。
スっとナディーがサファイアの背後に立ち、その手を弾き飛ばした。
「なっ!?」
思わず声が漏れるサリー。
振り返るサファイア。
「え…ナディー?」
サファイアは目の前の光景を理解出来なかった。
そこには構えるナディーの背中と、弾かれた手を押さえるサリーが対立するように立っていたのだ。
「…ナディー、何してるの?」
ナディーはサリーから一瞬たりとも目を逸らさず一歩、また一歩と後退りして距離を取ろうとしていた。
「ナディー…?」
その緊迫した空気を感じ取るサファイア。
「な、何をするんですか…いきなり。驚きましたよ」
突然目の前に現れたナディーに驚くサリーだったが、平然を装っている。
そんな普通の様子にサファイアの緊張は解けたのか、ナディーの服を引っ張る。
「ねぇナディー、いきなりどうしたの?突然現れたらびっくりしちゃうよ…」
それでもサリーを警戒し続けるサファイア。
「ね、行こうよ…」
先を促すサファイアだったが、それをさせまいと、隣にいたマルクがサファイアにしがみついた。
「ま、マルクくん?」
驚くサファイア。
マルクはサファイアの腕を確りと掴んで、サリーを見ようともせずに震えていた。
そんな様子を見て、サファイアはサリーとナディーに視線を戻した。
「本当に、どうしちゃったの?」
「どうもしませんよ。すいません、私が不必要に驚いてしまったから、驚かせてしまいましたね。さあ、行きましょう」とサリー。
その言葉に気を許すサファイアだったが、
「サファイア、この女から離れてください!先程から私たちの後を付いてきていたのは彼女、サリーです!」
低い声でそう告げるナディー。
「え…だって宮警備隊の隊長さんだよ?そんなわけ…」
困惑するサファイアの後ろから、覚悟を決めたマルクは飛び出し、サリーを指差して叫んだ。
「…そ、その人だよ!僕たちを追ってたのは!!」
ナディーの存在で言い出す勇気を得たのだ。