第6話:校外学習
沢山の車が行き交う国道で、とあるバスから愉快な歌が聞こえてきます。
『あるこー あるこー わたしはー元気♪』
今、サファイアのクラスはバスで移動中。
行き先は王宮。
今日は校外学習の日です。
「ねぇサファイア、今日はとっても楽しみね」
校外学習が本当に楽しみな紲は、満面の笑みで隣に座るサファイアに話しかけた。
「うん…」
しかしサファイアはあまりノリ気ではない。
サファイアの脳裏には、昨日の光景が浮かんでいた。
――昨日
校外学習を前日に控えた昨日のHRでは、明日の班決めをすることになっていた。
「皆さん、このクラスの明日の校外学習先は"王宮"に決まりました。これから明日一緒に行動する班を決めましょう。皆で仲良く、自由に決めてください」
教師のその言葉に、生徒たちのテンションは最高潮に達した。
そして各々、好きな子同士で集まり始めた。
そこで問題になるのが紲が入る班だ。
当然、紲の周りには男女問わず沢山の生徒が押し寄せる。
「紲ちゃん、同じ班になろう?」
「いや僕と!」
「私とよ!!」
遠足の浮かれた気分から、誰が紲と同じ班になるのかの争奪戦が幕を開けた。
そんな中、離れたところでサファイアはナディーとアイビーだけで固まって静かに席に座っていた。
「大変そうですね、紲さん」
そうナディーが話しかけると、「そうだね」とサファイアは遠い目で人混みの中にいる紲を見た。
「…サファイアはどなたと組むのですか?」
ふとナディーは尋ねた。
「別に。…どうせ、独りになるよ」
肘をつくサファイア。
「そうでしょうか?」
「?」
ナディーが意味深な笑みを浮かべたので、サファイアは不思議そうにナディーを見る。
しかしナディーは笑みを浮かべているだけだった。
するとその時、教師が班の条件を告げた。
「ひとつの班の人数は、5人にしてください」
その言葉には、辺りからブーイングが起こった。
「仕方ないよ。とりあえず、この中で5人で固まってみよう?」
紲の言葉で、集まっていた沢山の生徒は5人ずつに分かれた。
丁度5人に分かれる事ができたグループは、渋々紲から離れていく。
そして最後には、紲を含む女子が7人残った。
6人とも紲を強く崇拝する子達で、気が強い。
「えー、7人だよ…どうする?」
「私、分かれるのイヤー!」
すると紲は教師に尋ねた。
「先生、7人じゃダメですか?」
「駄目です」と即答する教師。
「じゃあ、6人はダメですか?」
「う〜ん、そうですね…6人なら…いいでしょう」
「ありがとうございます」
紲は笑みを浮かべて皆の所に戻った。
「紲ちゃん、どうするの?」
6人は心配そうに周りに押し寄せた。
「…私が抜けるから、人数は合うでしょ?」
そう紲が言うと、「えー紲ちゃんが抜けるの!?」「私、紲ちゃんとがいい!」「私も〜」と6人全員がグズッた。
しかしすぐに、「…アンタが抜けてよ!」と6人の中でも特に気の強そうな子が、その中では気の弱い子を爪弾きにし始めたのだ。
「そーよ、そーよ」
他の5人も同調する。
「え…!?」
急に友人から弾かれた子は驚いて助けを求める視線を送るが、誰も助け様とはしない。
所詮はこの程度の友達だったという事だ。
「皆だめよ、やめて!私が抜ければいい事なの…」
紲は止めさせようとするが、もう遅い。
その言葉は女子たちに届いていない。
孤立した子の目には涙が溜まっている。
「ちょっと!皆は友達でしょ?こんな事でケンカしないで」
様子を見ていた紲は珍しく大きな声を上げた。
すると6人は目を見開いて驚き紲を見た。
「ケンカ、したらだめよ。せっかくの遠足なんだから」
「…」
紲の言葉が届いたのか、6人は俯いた。
「…だって紲ちゃんと同じ班になりたいんだもん」
6人は口々に言う。
しかし紲は、「ありがとう、でもごめんね。私、別の子と班を組むわ」と言ってサファイアを見た。
「?」
呆れた様子で見ていたサファイアと目が合う。
それから紲はサファイアの元に向かって言った。
「サファイア、同じ班になろうよ!」
「へ!?」
目を見開き驚くサファイア。
「だめ?」
また上目遣いでサファイアを見る紲。
「な…何で?」
サファイアは思わず尋ねた。
「何でって…理由が必要?友達じゃない。私、サファイアと同じ班になりたいの」と正直に答える紲。
「いい?」
「うん…」
サファイアは頷いた。
すると紲は孤立した子を見て、「…レベも、一緒の班になろうよ!」と手を差しのべた。
「紲ちゃん…。いいの?」
その子は涙目になりながら、紲に尋ねた。
「もちろん。ね、サファイアもいいよね?」
「え?…う、うん」
サファイアが頷くと、紲はその子をサファイアとの輪に引き入れた。
「決まりね、レベ!」
「うん、ありがとう」
彼女はレベ。レベッカ・プリオ。
「あと2人ね」と紲は言う。
その後他のメンバーが決まらずまた騒ぎになったことは言うまでもない。
とまあ、こういう成り行きでサファイアは紲と同じ班になった。
女子3人と男子2人の班だ。
そんな昨日の出来事で、サファイアは十分疲れていた。
「サファイア?」
そんな事には気づいていない紲は、サファイアに何度も話をふる。
しかしサファイアは「うん」と頷くだけだった。