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Elfing  作者: ドライマンゴ
第1章:elfing
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第5話:授業~浮遊力~

生徒はあらかじめ用意するように言われていた掌サイズの石を机の上に置いていた。


始まりの鐘が鳴ると皆は席に着く。


「さぁ、今日は石を浮かせる事ができるようにしましょう!」


教師はやる気満々で教室に入ってきた。


「では前みたく、目を閉じて呼吸を整えましょう」


教室は静かになった。


「さぁ、心を鎮めて石が浮く画を思い浮かべて…」


早速サファイアは石に集中した。


(石が浮く…石が浮く…浮く……)


しかし簡単にはできず、何も起こらない。


「浮かない…」


そう肩を落として言うサファイアにナディーは、


「大丈夫、もう一度」


そう言ってサファイアの両肩に手を置いた。


その手の温もりは、サファイアの中に少なからずあった焦りを和らげていた。


「うん」


サファイアは落ち着いてもう一度集中した。


周りのみんなはワイワイと騒いでいたが、サファイアは自分の石にだけ集中した。


目を閉じて周りの音を遮断する。


今サファイアの聴覚は何の雑音も捕えず、意識は石が浮く事だけに向いている。


(浮け…浮け…浮け…浮け浮け…浮け…浮け…浮けぇ!!)


そしてサファイアの集中が頂点に達した時だった。


甲高い音を立て、まるで釘でも打ったかのように石に亀裂が入った。


「いけない、お待ち下さい!」


すかさずナディーがサファイアを止めた。


「どうしたの、ナディー?」


サファイアは訳が分からずナディーを見る。


「石に亀裂が…」


ナディーは石を手に取りサファイアに渡した。


受け取った石を見てみる。


「ほんと、石が…」


石には小さな亀裂が入っていた。


「新しい石を探して来るので、待っていてください」


そう言ってナディーは教室から出ていった。


「…」


サファイアはナディーの背中を見送ると石を机の上に置いた。


1人席に残ったサファイア。


それを見た周囲はここぞと思い思いの言葉をぶつけ始めた。


「おい。いなくなったぞ、あいつの主精」


「嫌気がさしたんじゃないか?」


「だなー」


「ハハハハ…」


大半がサファイアを笑った。


それを見たアイビーは黙っていなかった。


「ビー!」


サファイアの足下から飛び出して、笑った生徒の腕に噛みついた。


「うわっ!」


噛まれた生徒が大きな声を出したので皆が注目した。


「痛ってー!」


アイビーは生徒から距離を取り、威嚇した。


「大丈夫か?」


噛まれた生徒に皆が集まる。


そしてその火の粉はサファイアに向かった。


「おいお前、お前の創精だろ!ちゃんと躾してんのか?」


「うさぎの癖に…」


「生意気なんだよ!」


サファイアはクラス中の生徒の非難を浴びた。


「コワーイ」


「ねー…」


陰でこそこそと話す生徒もいる。


生徒の主精も黙ってはいなかった。


「しっかりと、落とし前つけてもらおうか…」


まるでその筋のようなセリフを吐いて、サファイアに近付く主精。


そんな時だった。


「こら!止めなさい!?」


騒ぎに気付いた教師がやって来て、サファイアに近付いた主精の主を見た。


しかし生徒は、


「すいません、先生。サファイアの創精に腕を噛まれてしまって。そしたらこいつが俺を守ろうとして…」


噛まれた生徒は急に縮こまり、態度を変えた。


「…サファイア、あなたの創精が噛んだのですか?」


生徒の傷を見て教師はサファイアに尋ねた。


「…はい」


サファイアはそれ以外に答えようがない。


表面上良い子ぶる生徒。


この状況では教師もその生徒につくのは当たり前だ。


それにその生徒は学園に多額の寄付をしている家の子なので、教師は邪険には扱えない面倒な存在だ。


「…ごめんなさい」


サファイアは生徒に謝るしかない。


「そうですね。まずは謝らないといけない」


それから教師は生徒を見た。


「サファイアは謝った。君はどうしますか?」


「謝ってもらったのでこれでいいです」とあたかも聞き分けの良い子の様に納得する生徒。


「そうですか、君は優しい子ですね。傷は保健室に行って消毒を…」


「いえ、大したことはないので大丈夫です」


生徒は断った。


「先生!」


教師は少し戸惑ったが他の生徒に呼ばれ、そちらに向かって行ってしまった。


教師が離れると生徒から笑顔は消えた。


そして声を低めて言う。


「…足りないなぁ、土下座しろ」


「そうだな」と周囲も同調した。


流石のサファイアもそれには躊躇した。


「ビー!!」


それにもアイビーは怒りまた噛みつきに行くが、今度はその生徒の主精に止められた。


「ビッ!」


アイビーはその生徒の主精に寝首を摘ままれ、床に投げつけられた。


「アイビー!」


サファイアはアイビーの元に駆け寄った。


「土下座だ。土下座しろ!」


先程までの良い子ちゃんはどこへ行ったのやら…。


「…」


サファイアはゆっくりと地面に両手をついた。


「ビー!!」


アイビーはそれを見てもう一度生徒に飛び付こうとしたので、


「あ、アイビー。だめ!」


サファイアは飛び上がったアイビーを抱き締めた。


「その創精を差し出せ!」


生徒は怒りの籠った声で言った。


「い、嫌…」


サファイアはアイビーを抱え込み、抵抗した。


「いいから出せ!」


生徒はサファイアの体からはみ出ているアイビーの耳を引っ張った。


「ビー!?」


アイビーが痛がったので、サファイアはそれに気付いた。


「止めて…アイビーに乱暴しないで!」


サファイアに怒りの感情が芽生えた。


目の隅に先程の石が移る。


「止めて!」


そして一時の怒りが頂点に達した。


その時。


割れ目ができた時の甲高い音以上の音が辺りに響きわたり、同時に割れ目が一気に広がり、粉々に砕け散った。


「キャッ!」


机の近くにいた生徒が悲鳴を上げて、離れた。


「え、何?何が起こったの?」


「石が…」


周りにいた生徒は更に机から離れた。


「何が起こったのですか?」


そこに教師が来て、地面に座り込むサファイアを見る。


アイビーの耳を掴んでいた生徒はいつの間にか離れていて、姿は無かった。


「あ…えっと、石が…」


慌てて説明しようとするが、サファイア自身もわけが分からない事なので、上手くできない。


そこに、代わりの石を取りに行っていたナディーが帰ってきた。


ナディーが帰ってきたことで、更にクラスは静かになる。


「…ん、どうかしましたか?」


しかし教室は静まったままだ。


「サファイア?」


ナディーは座り込むサファイアを不振に思い、手を差しのべて立たせた。


そしてもう一度尋ねた。


「サファイア、どうかしたのですか?」


「ナディー、あのね石が…石が砕けたの」


ナディーは砕けている机の上の石を見た。


それからナディーはサファイアを見る。


「待っていてくださいと、言ったではありませんか…」


微かだが、ナディーの声は怒っているようだった。


「…はい」


サファイアは固まった。


ナディーとはずっと一緒にいるが、いつも優しく怒った事など一度もなかった。


そのためサファイアには、今のナディーがとても恐ろしく映った。


「待って!」


するとそこへ、一部始終を見ていた紲がサファイアを助けに入った。


「ナディー、聞いて。サファイアは何もしてないよ!」


「紲ちゃん…」


サファイアは紲を見た。


「サファイアは石を浮かそうとはしていなかったの」


紲の言葉にナディーの表情は元に戻った。


眼差しも変わった気がする。


「…そう、でしたか」


ナディーはサファイアを見た。


サファイアは下を向いている。


「…すみません、サファイア。新しく石を持ってきましたので練習を再開しましょう」


そう言ってナディーは石を差し出した。


「…うん」


サファイアは石を受け取った。


「怪我はありませんか?」


「大丈夫」


ナディーは返事を聞くと、サファイアの頭を撫でた。


するとサファイアにも笑顔が戻った。


「さあ、皆も席に戻って続きを」


紲の掛け声で生徒は席に戻った。


教師も安堵の溜め息をつき、教えていた子の元に戻った。


席に戻ろうとする紲を呼び止めるサファイア。


「紲ちゃん、ありがとう」


「どういたしまして」


紲は微笑み、「私たちも練習に戻りましょ?」と促した。


「うん」


さっきの騒動など無かったかのように、再び賑わう教室。


そのいつもの風景に、サファイアは安堵したのだった。

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