第4話:授業~妖精レベル~
――翌日
サファイアはいつものように登校し、いつものように教室に入った。
だが、教室の雰囲気はいつもと違った。
「おはよう、サファイアさん」
紲が誰よりも真っ先にサファイアに挨拶をしてきたのだ。
教室内は鎮まり返った。
「あ…お、おはよう…ごさいます。海野さん」
なぜかサファイアの返事は敬語だった。
「ふふ、何で敬語?フツーでいいよ。友達でしょ?」
「あ…はい…あ、…うん」
サファイアはただ頷くだけしかできなかった。
「それと紲。私の事は紲って呼んで?今すぐに」
一瞬、空気が針積めた気がした。
「えっと…き、紲…ちゃん?」
サファイアが恐る恐る名前を呼ぶと、紲はとても嬉しそうに笑顔を溢した。
「うん。私もサファイアさんの事、サファイアって言うね」
「…うん」
あまりにも自然に話す紲に接し、いつの間にかサファイアの口角も上がっていた。
やがて授業始まりの鐘が鳴り、教師が入ってきた。
「おはようございます、皆さん」
「「「おはようございます、先生」」」
挨拶を済ませると、教師は教卓に立った。
「起立…礼!」
いつもの様に授業始まりの挨拶も済ませた。
「今日は昨日教えた妖力よりも大切な事を教えるので、聞き逃す事のないように!」
教師は厳しい口調で注意を促し、本題に入った。
「今日教えるのは、"妖精レベル"というものです」
「妖精レベル?」
ほとんどの生徒が初めて聞く言葉で、生徒たちの頭上にハテナが飛び交った。
「妖精レベルとは、その名の通り、妖精のランク付けをするためのレベルです。
…誰か妖精レベルを言える人はいますか?」
だが誰も挙手しようとしない。
「順番通りじゃなくてもいいので知っているのを言ってください」
そう言い直すと、数人の手が上がった。
「じゃあ、君!」
教師は手をあげた生徒1人を指差した。
当たった生徒はその場に立ち上がり、「はい、SOILです」と答えた。
「よし、他には?」
教師は他の答えを尋ねた。
その質問にその生徒の表情が歪む。
「………sky?」
自信がないのか、さっきより小さな声で答えた生徒。
「はい、良くできました!」
だがそんな答えにも教師はきちんと誉めた。
するとその生徒は答えれたことに安心したのかホッと息をつき、席に座った。
「他に知っている人はいますか?」
教師は顔を上げ、他の生徒に答えを尋ねる。
すると今度は紲が手を挙げた。
「はい、海野さん」
「"DEPTH"です」と迷い無く堂々と答える紲。
「良くできました…他の全てを知っているなら、発表してくれますか?」と教師は紲に更なる答えを求めた。
「わかりました。"STAR"そして"LUNAR"それから"SHINE"です」
最初から分かっていたのか紲は嫌がらず、しっかりと発表した。
「はい、良くできました」
教師が手を叩くと生徒も手を叩き、紲を賞賛した。
流石は紲だと誰もが思うだろう。
紲は拍手の中皆に笑顔を見せて、席に座った。
「正しい順は下から…"DEPTH"、"SOIL"、"SKY"、"STAR"、"LUNAR"、"SHINE"です」
続けて教師は1つ1つの"妖精レベル"の説明を始めた。
「まずは、"DEPTH"の説明から始めます」
教師は黒板に"DEPTH"の文字を書いた。
「"DEPTH"。そのレベル名は、妖精界で過ごす妖精にだけ与えられています。
余談になりますが…彼らの事を総称して"民精"と言います。民精の中には一生を妖精界で過ごす"永民精"と、主精の期間を終えて後の人生を妖精界で暮らす"帰還精"と呼ばれる妖精に分類されます。
そしてDEPTHにあたるのは永民精です。
DEPTHは妖精界で誕生した妖精に最初に与えられる称号ですが、そこから人間界へ行く妖精は基本的なテストを受けてSOILにレベルアップします。
しかしここでのレベルアップは能力がどうのでは無く、人間界で生活するのに必要な教養や常識を身に付けているかどうかの確認になります。
この段階でのDEPTHとSOILの能力的違いはほぼありません」
すると紲は手を挙げた。
「先生、では何故にレベル分けをするのですか?」
「良い質問ですね、海野さん。
理由の一つとしては、人間界への通行書みたいな物です。SOILにレベルアップした妖精には証明書が与えられます。それを人間界へ繋がるゲートで見せなければいけません。
そして二つ目は長年DEPTHで生活する永民精にしか現れない特殊な能力がある事です。
彼等は限られた場所での生活に特化した能力を手に入れます」
するとまたもや紲は手を挙げた。
「その能力は何ですか?」
「…それは地域によって異なる様です。例えば極変の地域だと自身の体温を調節する能力が身に付いたり、水の多い地域では水中で呼吸ができる能力であるとか…千差万別、全てを証明するには多すぎるのです。
そしてその能力を持つ妖精は人間にはあまり友好的な感情を持っていません。
彼らには世界大戦の記憶が強く受け継がれていくので、それ故に帰還精との間に壁が生じます。
しかしそこから争いが生まれないのは、妖精同士がお互いの能力を尊重し合っているからだと言われています」
すると教師は紲に「他に質問はありますか?」と尋ねた。
「…最初に戻りますが、主精の期間が終えるって、どういう事ですか?」
紲はノートを捲ってメモを見返し、疑問点を尋ねた。
「それはパートナーである人間の人生が終えるという事です。妖精は人間の何倍もの寿命を持つので主精としての最後の役目…パートナーである人間の死を見送ると、新たなパートナーを探すか妖精界に戻って帰還精になるかの選択をしなければならないのです」
「妖精の寿命はどのくらいですか?」
これは別の生徒の質問だ。
「寿命ですから各々変わってくると思うのですが…大体、300年〜500年位が一般の主精の年齢でしょう」
「長生きなんだね〜」と質問した生徒が自身の主精に言う。
しかし主精は、
「いいえ。そのくらいでは長生きとは言えませんね」
「どうして?」
その生徒は主精に尋ねる。
「精王様に比べたら私なんて早死にするようなものですから…」
その主精の言葉を聞き、生徒たちは教師を見て口々に思い思いの質問をした。
「精王様って?」
「精王様の寿命を教えて!」
「精王様ってどんな人?」
「何する人?」
生徒達の質問がいっきに来たので教師は驚いた一面、困ったと表情に出ていた。
その時、パンッ!パンッ!!と手を叩く音で制したのは紲だ。
「みんな、一編に聞いても答えれないよ」
紲が口を開くと教室は静まった。
「ありがとう、海野さん」
教師は礼を言い、ひとつずつ質問に答え始めた。
「精王様と言うのは妖精界を治める王様です。しかし精王様は厳重な警備の城の中で暮らされていて滅多に姿を見せないので、詳しいこと分からないのです…」
「そんなすごい人もいるんだ…」
「お城に住んでる王様?かっこいい!」
生徒たちは思い思いの精王のイメージを頭の中で繰り広げ語ったのだった。
それを聞いてナディーは少し悲しそうな表情を浮かべたが、誰も気付く事はなかった。
サファイアでさえも。
それから教師は黒板の文字を消して、新たに"SOIL"の文字を書いた。
「次に"SOIL"です。"DEPTH"の上のレベルです。そして"SOIL"以上の妖精は、"DEPTH"の妖精にはない力があります。それは"浮遊力"という力です」
教師はポケットから石を取り出した。
「昨日皆さんが習った妖力のコントロール…あれが"浮遊力"です。しかし厳密に言うと、浮遊力の基礎なのですが…」
教師は石を浮かした。
「基礎を終えると、自分自身を浮かす応用を習います。この応用により、妖精とより絆を深めてもらいます。まぁ、その話はまた追追に…今の話は人間の場合です。実際の妖精の"浮遊力"は、ほとんど人間の場合と変わりませんが、その力の基は皆無。無限なのです」
そして教師は説明を付け足した。
「そしてこのレベルの妖精は、主に創精に多いです」
教師がそう言うと生徒は皆アイビーを見た。
クラスで唯一の創精だからだ。
「アイビーは"SOIL"なの?」
サファイアが尋ねると、「ビー!」とアイビーは頷いた。
「さて次は"SKY"の説明ですが、今日はここまでですね」
教師が浮かしていた石をポケットに入れると、丁度授業終了の鐘が鳴った。
「起立…礼」
紲の終わりの挨拶で、休み時間に入った。
次の授業は教室での妖力のコントロールだ。