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Elfing  作者: ドライマンゴ
第1章:elfing
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第1話:ロバート学園

ここは妖精という概念が存在する世界。


かつて妖精と人間は同じ世界で暮らしていた。


人は物心がつく頃に、生涯を共に過ごす妖精と契約を結ぶ。


契約を結んだ妖精は主精(しゅせい)と呼ばれ、それによって人間は新たな力、妖力が与えられる。


物を操り、空を飛び、己を守る盾ともなる力だ。


更にその妖力から新たな妖精を生み出すことが出来た。


その妖精は創精(そうせい)と呼ばれた。


妖力によって人間の暮らしは豊かになった。


しかし時にその力は人間同士に亀裂を生み、争いに発展する。


小さな火種はやがて世界中を巻き込む大戦争となった。


そんな荒れ果てた世界に、とある人間と妖精のパートナーが現れた。


彼らは争いを止めない者たちに新たな競技"elfing"を作り出し、人間への攻撃を繰り返す妖精を統制する為に新たな別世界"妖精界"を創り出した。


競技は公式な物となり、争い事はルールに則った闘いによって解決するようになった。


そして別世界を創り出した妖精は"精王(せいおう)"と呼ばれ、契約を結ばない妖精が暮らす妖精界の王に選ばれた。


人間界でも新たな役職"英雄(ハーロック)"が作られ、平和の記念として10年に1度、その年の1番の強い人間がその役職に就いた。


こうして人間と妖精は別の世界で暮らすようになり世界は平穏な日常を取り戻した。





今では何千年も前のお話。





ここはプロガリー王国の辺境の街、グラスストリート。‬


緑溢れる平穏な街。


午前8時10分。


「サファイア、行きますよ!」


とあるアパートの玄関先で、腰まで伸びた桃色のストレートヘアーを靡かせながら、室内に声をかける女性がいた。


「うん」


室内からはリュックを背負った、まだ眠たげな少女が目を擦りながら出てきた。


少女の名は、サファイア。


小柄で茶髪、青い瞳の持ち主。10歳。


「もう、サファイア。シャキッとしてください…」


少女の寝癖を手櫛で整える桃色の髪の女性はナディー。サファイアの主精。


「ビー!」


サファイアに続いて白い兎が部屋から出てきた。


額に青い宝石があるこの兎はアイビー。サファイアの創精だ。


主精(しゅせい)とは人間と契約を結んだ妖精を示し、主精との間に生まれた力によって創られた妖精を創精(そうせい)と言う。


アイビーは軽々とサファイアの肩に飛び乗った。


「それでは、行きましょうか」


手櫛を終えたナディーは「よし!」とサファイアの背を押す。


「ありがと、ナディー」


サファイアは誰もいない室内に向かって「行ってきます」と声をかけ、ドアを閉めた。


サファイアはロバート学園(通称:elf学園)に通う初等部3年生。


ロバート学園は創立600年と古くからある学園で、創設者ハイデ・ラン・ロバートの意向により妖精関連の突き詰めた教育を行う専門の学園。


そんなロバート学園には毎年冬の季節になると、およそ1000人以上の入学希望者が世界中から集まり、壮大な入学試験が行われる。


そして選ばれた100人のみが入学できるのだ。


教室に近付いていくと、中からは沢山の生徒の楽しそうな話し声が聞こえてきた。


しかしそれはサファイアの足取りを重くする。


「どうしました、サファイア?」


ドアの前で立ち止まったサファイアの異変に気付くナディー。


だが、「何でもない」と首を横に振る。


ナディーに心配をかけたくない。


それからサファイアは大きく深呼吸をして、ドアの取手に手を掛けた。


ドアを開け、教室に入る。


すると話し声で騒がしかった教室は、一気に鎮まり返った。


そしてまるで異物でも見るかのような酷い視線がサファイアに注がれた。


何時もの事だ。


「…」


サファイアは気にせずドアを閉め、席に向かった。


そして沈黙の中、着席した。


筆箱を取り出してリュックを机の横にかけていると、何処からか1人の男子生徒が心ない言葉を発した。


「また来たよ…」


それに乗じて色んな所からそれと同様な、いやそれ以上の言葉が飛んできた。


「ほんと、辞めちゃえばいいのに…」


「来てる意味あるの?」


「落ちこぼれのくせに…」


1人1人の鋭い言葉がサファイアを襲う。


そんな中サファイアは平常を保ち、ただ静かに座っていた。


サファイアは分かっている。


この人たちに何を言っても無駄だということを。


もう諦めに近いのかもしれない。


しかしナディーは「失礼ではありませんか!」と耐えきれずサファイアを守るように前に立った。


「ビー!」


アイビーも威嚇している。


主精のナディーが出てくると、他の生徒の主精も黙ってはいなかった。


前に出てきてナディーとの睨み合いが始まる。


「ナディー、やめて」


最初に止めたのはサファイアだ。


他の生徒は止めようともしていない。


「いいえ、サファイア」


納得がいかないナディーはやめようとしない。


「サファイアを傷付ける事はこの私が許しませんよ!」


「やりますか?」


ナディーは最初に対抗して出てきた主精と戦闘体勢に入った。


今にも戦いが始まりそうな雰囲気だ。


周りも笑ってそれを望んでいる。


「ナディー、やめて!」


サファイアは先程よりも大きな声で叫ぶように言った。


「しかしサファイア…」


「お願い。私は大丈夫だから……ね?」


サファイアは優しく宥めるようにそう言って、ナディーに笑みを見せた。


それを見てナディーは拳を堪え、パートナーであるサファイアの願いに従った。


「…はい」


ナディーが下がると、他の生徒の主精も下がった。


人間と契約を結んだ妖精は、パートナーの命令に従わなければならない。命令は絶対だ。


一方、主精が下がっても他の生徒は下がらなかった。


むしろ非難の声はパワーアップしていた。


「主精に守られてやんの…」


「ダッセー」


「なんだ、戦わないのか…」


「てか主精も腰抜けー!」


「パートナーの人間も人間なら、妖精も妖精だな!」


覚えたての言葉なのか、誇らしげに開く口。


サファイアもそれくらいなら我慢ができた。


しかし次の言葉にサファイアは目を見開く。


「妖精も落ちこぼれー!」


「!」


サファイアは立ち上がり、それを言った子の前に立った。


一瞬で針積める教室の空気。


しかしそこへ、


「はい、おしまい!もうすぐ鐘が鳴るから、席についてよね」


学級委員長の海野(うみの) (きずな)が割って入った。


紲が来たことで、教室の空気は一変した。


サファイアが入る以前と同じ様に教室内に話し声が戻った。


それでもまだしぶとくサファイアの周囲に集まっていた生徒たちを、紲は手をパンパンと叩いて席に戻らせた。


サファイアも落ち着きを取り戻して席に戻る。


その後すぐに授業の始まりの鐘が鳴り、他で話していた生徒たちも渋々席についた。


「?」


その時サファイアは、自分の事を見ている紲の視線に気付いた。


紲は目が合うとニコッと微笑み、自分の席に戻って行った。

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