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第64回:妖怪バス

 丸っこい長方体のフォルムが空を駆ける。年代物のデザインのバスの行き先は最初冗談めかして「宇宙ステーション行き」と書いてあったが、今は「檜垣のバカ」に変わっている。

 車屋が変化した妖怪バスはタイヤから火炎を吐いて、まっすぐにビルを目指している。

 菊間と化け火が囮役として陽動する内に、他のメンバーは一気にビルまで突っ込むというのが作戦である。シンプルさに笑いがこぼれる。

 乗員は八名。メンバーの一人である化け火使いが、根本がホゼが見えるということに気づいて彼女をこの件から降ろした。ホゼとはなにか尋ねると「ホゼが見えるのは妊婦だけさ」と答えた。

「もう少し早く気づけてたら良かったんだが……。あの子、俺たちを避けているみたいだったから」

 化け火使いは「誰の子なんだろうな」と言った。はずれは別れ際に根本が寄ってきて「井上君のこともお願い。助けてあげて」と言ってきたのを思い出した。

 車内は一人席が窓側に一列ずつ縦に並んでいる。はずれはユニスの席に近づいてタロウのことを聞いた。はずれのことを散々打ちのめした男である。一人でも戦力が欲しい現状にいれば心強いのだが。

「安息日よ。ゴーレムは週休一日制なの。働き者でしょ」

 ユニスはまっすぐに前を見つめていたが、急にケンカ腰になってはずれを睨んだ。

「……タロウは、働き者だから、偉いから、有給休暇をあげたの。今頃常夏の楽園でバカンスよ。文句ある?」

 ユニスに犬であるかのように追い払われて、はずれは席に着いた。妖怪バスの乗り心地は案外に良好だ。眼下には真夜中の海のような光景が広がって、ちらちら白い光が見える。昔に見た衛星写真とはまた随分印象が違う。どちらが偽物というわけではない。これが今の本当なのだ。

 黒髪切りは瀬川となにか話している。こんなときに、ファッションセンスについて話しているようで、黒髪切りはしきりに「だから、これがここ十年の俺のポリシーなんだよ」と叫んでいる。

 状況を考えない無神経さに腹が立たないでもないが、はずれは感謝してもいた。他のことを考えようとしても頭の中に朝香の顔が浮かんでくる。朝香はまだ泣いているだろうか。朝香はさっぱりとした性格だが、強がりなところもあって、実は結構泣き虫だ。一人で大丈夫だろうか。今あいつのそばには与一さえいない。誠司、菊間、はずれ……あの仲間たちは誰もいない。泣き疲れて早く眠ってしまうといい。朝にはきっと帰ってこられるから。

 はずれは頭を振って頭の中から朝香のことを追い出そうとする。今考えるべきは和羽のことだけだ。雪菜のことだけだ。また、悔悟の涙を流す気か。

(俺はもうあいつを手放したりしない)

 はずれは声には出さず、何度もそう口を動かした。窓ガラスにつけた額が、少しだけ冷たくて気持ち良い。でも、この苦しくて熱い感覚は消えてくれそうもなかった。

「きたぞ。やつら感づきやがった」

 メンバーの一人が叫んだ。前方を指差している。その先には、なるほど、妖怪らしき異形が見える。

「板鬼、飛頭蛮に一旦木綿。なあに、大した連中じゃないさ。妖怪バスの敵じゃない。化け火、おめえ、もし木綿がとりついたら燃してくれ」

 黒髪切りは余裕で指示を飛ばした。果たしてその通りで、車屋扮する妖怪バスは猛スピードで板切れと首を吹き飛ばし、窓ガラスにはりついた一旦木綿は化け火使いの炎によって瞬く間に焼き尽くされた。

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