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第63回:おとり

 日没の時刻になって、四班に分かれたメンバーは同時に行動を開始した。向こうの側についている執行者の中には探査索敵能力に優れる人物がいるため、作戦は迅速に行われる必要があった。

 はずれと他二人のメンバーは人目につきにくい路地を利用して陸路で目的地に向かっていた。目的地とは出雲の支配下にあるビルである。そこには葛城支部の本部が置かれていて、ビル屋上の祭殿では今夜土地神交代の儀式が行われるはずである。

 ビジネス街に近くなってきた。視界に入るビル群に明りは見えない。ほとんどの妖怪たちは仕事を放棄したし、ビルに隠れているような至極まっとうな被害者たちは明りなどつけずに息を潜めているのだろう。自我を失った妖怪たちがなにやら大喜びで通りを走っていくのをやり過ごしてからは、死んだ町のように人気を感じられなかった。

はずれたちは慎重に先に進み、細長い駐輪スペースがあるビルの谷間にさしかかったとき、一斉に周囲のビルの窓という窓が光りだした。途端にざわざわと気配が現れる。スポットライトがあてられて、浮き上がったはずれたちを見下すように、窓という窓から人影がのぞく。妖怪たちの中から逆光を背負って、一人の女性が進み出てきた。

「こんな時間にどこに行くのかなぁ。良い子はもう寝る時間よぉ、悪い子はもう死ぬ時間。あんたたちはどっちになりたい?」

 占い師のステロタイプのイメージそのままの格好をしたその女は、余裕のある生地の下にある豊満な肉体をなぞりながら言った。

 執行者の小島美弥子だ。美弥子の後ろには、時代劇に見る浪人姿のような服装をした執行者、立浪六郎の姿もあった。

「あんたたちのことはずっとモニターしていたの。アジトから十二人全員出てきたところも確認したわ、あんたたちの動きはバレバレよ。バレバレなのよ。折角だからみんなで迎えにきてあげたわ。嬉しいでしょう。どこにも逃げ場はないわ。絶景でしょう」

「それ、絶望的な景色ってことですか?」

 はずれが惚けて言うと、はずれの右側にいる細目のメンバーが肩をすくめておどけてみせた。もう一人のメンバーが笑った。

「随分余裕ね。ヤケになっちゃったのかしら」

「まぁまぁ、それより美弥子さん。妹さんの具合はどうですか。病気、治りました?」

 はずれの言葉に美弥子はそれまでの艶然とした笑みを消し去って、石像のような無表情になり、ついで鬼の首をとったかのように狂喜した。

「あの子はもうじき死ぬわ。ようやく死ぬのよ。今日はなんて最高の日なのかしら。運がいいわ……まぁ、それは置いといて」

 美弥子は、今度は射精を終えたように醒めた顔になった。

「あんた、悪魔じゃないね。なにもの?」

 周りを取り囲む者たちがざわめくのをさも楽しそうにうかがっていたはずれは、くるりと一回転をして顔を上げた。

「その悪魔っていうのはこんな顔ですか?」

 目も鼻も口も耳もなかった。つるんとした顔で周囲をきょろきょろ見回しながら、そののっぺらぼうは顔がないのに確かに笑っていた。

「菊間クン……てめえ、たばかりやがったな」

「はい。演技上手くできましたか? 誠司先輩に変なところは指導してもらったんですけど。そう、ついでにあなたたちが確認したっていうメンバーも全部偽者ですよ。ねえ?」

 菊間の言葉に頷くと細目の男は正体を現した。体のあちこちから唐突に炎が噴き出して、瞬く間に全身を包み、火達磨になった男は平然と立っている。もう一人のメンバーは体内から燃え上がるように形を崩して小さな火の玉になり、火達磨男の体に吸い込まれていった。かと思えば数個の火の玉が転げ出てくる。

「化け火です。人に化けられます。僕のライバルです」

「あたしたちを化かしたところで」

 美弥子はすごみを利かせて言った。

「あんたたちが死ぬことには変わりない。確かあんたは人間の姿にしか化けられないはずだったね? お得意の能力でもこの包囲網からは逃げられないよ。はっ。結局、お前らちんけな虫けらがどんだけもがこうが、あの方の手のひらの上でお遊びしてるのにすぎないんだよ。すぐに他の連中も見つけ出して、体の隅々までぶっ殺してやる。あんたは先に、地獄で鬼に掘られながら待っているんだね」

 菊間は周囲を見回して、圧倒的に数で劣ることを改めて確認し、

(確かに、これは死ぬかも。今度こそ誰の助けも期待できないし、でも……)

「まさか。あの人があんたらなんかに負けるはずないでしょう」

 菊間はきっぱり言った。

「だいたい、あの人は悪魔なんかじゃない。あの人はヒーローなんだ。正義の味方なんだよ。負けるはずがない。檜垣先生も妖怪たちのための国を作ると言っていたけど、違うんだ。俺を救ってくれるのは指導者でも革命家でもなく、ヒーローなんだ」

 場が白けた。妖怪たちは笑えばいいのかどうか、そのあまりの稚拙さに判断がつかないでいる。美弥子は疲れたように息を吐いた。

「……そう。あんたら、病んだ脳味噌の集まりだったね。てめえらっ」

 美弥子の声を合図に、妖怪たちが構えた。

「やっちまいな」

 一斉に踊りかかってくる有象無象の妖怪たちを見すえて、菊間は「これだけいれば、二億円分はあるよね」とつぶやいた。

 これは間違いなく、菊間自身があげた成果だ。がんばって稼いだ利益だ。今度は胸を張って受け取ってもらえるに違いない。

(むしろ、お釣りがくるかも。そうしたら、今度は先輩がお礼する番ですよ)

 怖くないわけではなかった。妖怪となってからも、恐怖という感情は忘れられず、むしろ余計につきまとわれている。でも、今はなんだか嬉しい。

 菊間ははずれからのお礼はなにかあれこれ空想しながら、ちらりと暗い空を見て、妖怪たちの一群に立ち向かっていく。

 お礼に欲しいものは、本当はとっくにわかっていた。

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