第59回:ツェツィたちの理由
「お前はなんでここに?」
ユニスは感情的だが、対照的にツェツィは人形のように冷静だ。まるで交戦中の和羽のように。はずれはこの少女についてほとんど知らないが、第一印象からユニスと同じように裏切ったようには思えなかった。
「妖怪と同じだ」
ツェツィは言葉の足らない部分を淡々と説明し始めた。
「お前が昏倒した後、ツェツィたちは大量発生した妖怪たちを駆除していたが、一匹の赤い目をした人型の妖怪に敗北した。死亡する危機だったが、そこを根本冬実に助けられた」
屍山血河。地獄に成り果てた都会の隙間で、ツェツィたちは死にかけていた。血に秘められる自己再生能力も肉体的損害に追いついていなかった。
薄れ行く意識の中、誰のものかわからない悲鳴を聞いた。涙声を聞いた。怒声を聞いた。
「彼女は不思議だ。妖怪なのにツェツィたちを助けた。それだけでなく目の前の命すべてを助けようとしていた。妖怪は、自分よがりで、思いやりがなく、妄執に捕らわれた、同情に値しない人間だと教えられ、ツェツィもそう信じて疑問を持たず駆除してきた。だが、そうではないんじゃないかと、思えた」
はずれはなんとなく頷いた。
「一度そう思ったら、尋ねずにはいられなかった。だけど、支部長とは連絡がつかず、代わりに檜垣に言われた」
檜垣はベッドの上で女を抱きながら酷薄な笑みを浮かべて言った。
『なんでもかんでも聞いてどうするんですか? 真実くらい自分で見極めやがりなさい』と。
ツェツィは執行者を休職することにした。自分がしていること、妖怪とはなにか、知ろうと思った。今まで自分が信じてきた世界がどんな形をしているか見てやろうと思った。そして、全部が済んだら絶対に笑ってやろうと心に決めた。
「だから、ツェツィはここにいる。妖怪に協力するためではなく、妖怪がなにをしているのか知るために」
ツェツィは言い終えるとはずれの言葉を待たずに部屋を出た。油断なく規則的な足取りは、妖怪という存在をすべて認めたわけではないという意思表示のようにも思えた。
「ユニスー、待つのだぁ。あまり遠くに行くんじゃないのだ」
「……のだ?」
ツェツィがこれまでの印象を覆す不可思議な語尾を使ったような気がしたが、はずれは空耳だと思うことにした。朝香がはずれの背後から声をかけた。
「なにか飲む? 飲むなら部屋に持ってくよ」