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第50回:執行者本部

 電話の呼び出し音が鳴り響く。

 とあるビルの一室。観葉植物が一株とディスクが二つある他はほとんど何もなく、デッドスペースが広すぎて寂しい印象を受ける部屋だ。

 その部屋に三人いる。秘書風の女性と、スーツ姿の中年の男性、そして白衣に身を包んだ男だ。

 女性は、ひっきりなしにかかってくる電話の応対をしている。スーツ姿の男はそれを眺めるのに飽きると、頭を抱えてため息を吐く。

 葛城市の人間が妖怪化する事件が急増していた。報告だけでこの七日間だけで三五六件。従来の発生率は交通事故より少ないというのに、潜在的な数を考えると、頭がくらむ。葛城市近辺に現住している執行者は十三人しかいない。その内、一人は離反、二人は音信不通、一人は拘束中。更に巫女の監視にも人員を割かねばならないだろう。

「どうしてこう面倒ばかり起きるんだ。私は平凡に生きていたいだけなのに」

「それは君の平凡だろう、竹中君」

 独り言を聞きつけて、白衣の男が口を出してきた。男が同時に煙草を取り出すのを見て、嫌煙家の竹中は苦い顔をした。

「兆候はいくらでもあったんだよねぇ。でも、君たちはわからなかったんだろうねぇ。いつだって。自分たちの平凡にかまけて、他人の苦悩なんて書類の向こうの出来事。実に、実に君たちらしい」

「我々を非難しているのか」

「いや、なに一般論さ。資産家は労働者の気持ちは考えないし、王族は農民の気持ちを考えない。政治家は国民の気持ちを考えない。そういうものさ」

「そんなことはない」

 白衣の男は床の一点を見つめ、煙草を咥えたまま身動き一つしない。竹中は、檜垣というこの男を扱いづらいと思って苦手にしていた。竹中と檜垣は従兄弟同士に当たる。初めて顔をあわせたのは元服の日で、それから時折行事で顔をあわせたが、当時から檜垣はなにを考えているのか読めないところがある。今も檜垣は竹中がどんなに顔を曇らせようがお構いなしで、器用に煙草を落とさないで話しかけてきた。

「出雲からはなんだって?」

「……現場の判断は委任すると。他は予定通りだ」

「なるほどねぇ。さて、それで巫女はどこにいるんだね」

「……それを聞いてどうする」

「教えてくれないのかい? ははぁ、さては、君、疑っているね。違うよぉ。かわいい子に会って鬱屈した気分を晴らしたいだけだよぉ。君もそうだろう。娘さん、来年中学だっけ。思春期だよねぇ。扱いが難しい。君も手を焼いていないかい?」

「……なにを」

「世間では父親の入った風呂に入るのを嫌がる子もいるらしいよ。辛いねぇ。最近、父親の威厳ってものがなくなっていると思わないかい。まぁ、君の家では、まだましだね。仕事が忙しくてすれ違いが多いみたいだけど。奥さんが不倫しているくらいか」

「たちの悪い冗談だ」

 相手のペースに乗せられたら負けだ。取り合わないことが最善だ。

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