第42回:幸せの空想
「おー、すごい。今日はおかずの品数が多いな。どうしたんだ、これ」
「近所の岩井さんに卵もらっちゃったから玉子焼き作ってみたの。あと、みっちゃん先生の大好きな大福ももらったのよ。みんな、岩井さんに会ったらちゃんとお礼言ってね」
子供たちが口をそろえて返事する中で、雪菜にくっついて黙ったままの二人を見つけて、はずれは顔を近づけた。
「おい、ユニス、ツェツィ。返事は」
「……わざわざ確認しなくても、ユニはちゃんとわかっていますぅ。あんたの方こそどうなのよ。わかってる振りなんて一番ダメなんだから」
「こらこら、ユニちゃん。いけないぞ、あんたじゃなくて、はずれお兄ちゃんでしょう?」
「はずれー、かなこが牛乳こぼしたー」
「……誰もお兄ちゃんなんて呼ばないけどな。ほら、かなこ動くな。今拭いてやるから」
ばたばたと騒がしい食卓が始まる。
「それじゃ、ちょっと外出てくるから、留守番頼んだわ」
正午になると、みーちゃん先生は、そう言って子供たちと散歩に出かけた。雪菜も一緒である。それぞれ色の違うリボンのついた麦藁帽子をかぶっていた。
みーちゃん先生は、黒くて長い髪の女性で、年齢はまだ三十代と少しという、高校生の母代わりには若い人だ。
今日は、シックなコートドレスを着ていて、落ち着いた女性らしさを意識させる。はずれの記憶の中では、エプロンやジャージなど汚れてもいいラフな服装しかしない彼女であったからとても新鮮だった。
もっと色々な服を着たところを見てみたいと、はずれは思った。あの優しさを教えてくれた手が、もう二度と擦り切れたり割れたりしないことを願ったが、すぐにその考えは改めた。
智朗は縁側に近くて直接日の当たらないところにござを敷いて、いわゆる二度寝の心地よさを味わっている。
バイトはもうする必要がないので、はずれも花壇に水をやりに行った後は、智朗に倣って寝ることにしようとござを持ってきたら、智朗は幸せそうな寝顔で幸せな寝言を吐いていた。
ふとカレンダーを確認すると、一週間後の八月十二日から三日間の欄には赤い丸が描いてある。高校の友人たちが遊びにくる予定である。
「本当、なーんにもないんだなぁ」
「だから言っただろう。田舎だと」
「でも、ほら、あんなに緑がきれい。ご飯もおいしいし、昨日の夜は、あんなに真っ暗で、星が見たこともないくらいいっぱいあったわ。夜って暗いのね」
フォローから、興奮に変わった朝香を見て、与一は嬉しさを隠してわざとむくれてみたりする。誠司は二人を茶化したりする。
彼らと家族たちを引き合わせたら、どうなるだろう。悪いようには決してならない気がする。心が騒ぐ日々が一週間後に迫っているのだ。
空想を破ったのは、少女特有の甲高いソプラノだった。
「……なんだ。ユニスか。どうしたんだ。みんなと一緒に散歩に行ったんじゃなかったのか」
「知っているでしょ? あんたを殺しにきたのよ」