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第16回:落ち込みブルー

 翌日から、はずれは一層ぼんやりとするようになった。

 テストも終わり、当面の目標を失ったからであろうか。中休みを迎えても自分の席から一歩も動かず、授業に備えて机上の教科書を換えるだけで出歩きもしない。それでもどうやら授業の予習復習を欠かしていないらしいのは、身についた習慣とでもいうものだった。

 そんなはずれを見て、誠司と与一が軽口を叩く。

「どうしたんだ。最近元気がないな」

「ああ、元気がないでござるよ」

「あの子となにかあったとか。というか、本当に知り合いなのか」

「さあ、初日以来話もしてないようでござるよ」

「誠司、もしかして俺のこと馬鹿にしているだろ?」

「んー、そうでもないでござるよ……お、立ったぞ」

 はずれはのたのたと和羽に近づいていく。

 転入生の目新しさも落ち着きを見せ始めた頃、和羽はその人形のように整った容貌で繰り出すストイックな態度で近寄りがたい雰囲気を作っていた。怜悧で冷涼な双眸と目が合うと、心の中を見透かされているような気持ちに襲われる。だから、級友たちは和羽のことを触れてはいけない高嶺の花であるかのように遠巻きにしていた。

 はずれは和羽の話しかけづらい空気など意に介さず、なにごとか言ったようであったが、すぐにすごすごと自分の席に戻る。心なしか落ち込んでいるようにも思える。

「どうしたんだ。はずれ。なんて言ったんだ」

 与一は心配する。

「『もう学校には慣れましたか』と訊いた」

「なんて言われた」

「『微生物が僕に話しかけないでください』と言われた」

「ま、まじで?」

「……微生物扱いか」

「そして『存在自体がうざい。気持ち悪い目で見るな。臭い。死ね。死ね。死ね』と」

「……む、むごい」

 誠司は思わずつぶやいた。汚い言葉とは無縁とも思えるあのかわいらしい唇から、そんな言葉がつむがれるとは、ギャップのせいでダメージもひとしおだろう。少なくとも誠司は、美少女にそんなせりふを叩きつけられては精神的に大打撃を受けることだろう。幸いにも、彼は女性に邪険にされたことは一度もないのであるが。

 はずれはじっと虚空を見つめて言う。

「なんで俺って生きているんだろう」

 誠司は目を見張る。はずれがこれほど落ち込んでいるのは、携帯育成ゲームのペットに拒絶されたときか、去年の文化祭で漫才に引っ張り出されて総ブーイングされて以来だろう。とにかく珍しいことで、誠司は興味深く思った。

 はずれが落ち込んでいることには与一も気づいた様子で、はずれの落ち込み具合と反比例しているかのように溌剌としている。はずれの肩をバシバシと叩いて、

「いいよ、いいよ。わかった。そういう気分のときにはな、やけ食いがいいんだよ。栄町通りにうまいラーメン屋見つけたんだ。でも、俺、今日甘いもの食べたい気分だからパフェ食べに行こうぜ」

「じゃあラーメンの前振りいらないだろ」

 誠司は冷静につっこみをした。

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