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第14回:妖怪のこと

 妖怪とは人間の範疇を逸脱した超常の存在のこと。

 言葉のイメージから和風の、それも日本古来の妖しい化け物……たとえば、河童、鬼、雪女……を連想しがちだが、広く吸血鬼や竜、目には見えない小さきものたちをも含む。

 言い換えれば、妖精、モンスター、フリークス。呼び方は数あれど、それらは本来すべて同じものを指す。

 人でないものたち。人を超えた脅威の力を振るうものたち。

 妖怪。

 それらは、有史以来確実に存在し続け、同時にそれらが一般社会に危害を与えないよう監視し必要とあれば存在を抹消する役割を担う者たちも存在する。

 妖怪駆除執行者。

 和羽は自分はその一員だと言った。

 簡単な説明は、既に八日前のときにしてあったが、改めて聴くにつけて、はずれは逐一頷いている。

「この学校にきたのは、仕事。この地域で妖怪の発生件数が急増していて、なにかの原因が考えられている。それを探るために僕は派遣されてきたんだ。でも、いいかい。託宣部とプロファイリングを総合してリストの上位に挙げられたから、ここを中心に活動するってだけで、別に君がいるからこの学校にきたわけじゃないんだからね」

「ん。にわかには信じられないようなことであるが、そうなのか」

「敬語」

「そうなのでございますか」

「……」

「……」

「君の推測通り、僕たちには無関係の一般人の記憶を隠蔽する用意がある。これまでも隠し通してきた以上、今更知られても不要な混乱を招くだけだし、上層の人にもなにかと都合があるのだろうね。なのに、なぜ君の記憶はそのままにされているのか。それは……」

「……」

「それは、君が悪魔の子だからだよ」

 悪魔の子。それは言葉通り悪魔の子供という意味だ。。

 妖怪の中でも最上級の能力を有するものを悪魔と呼び、他の妖怪と区別している。それは単純に、他の妖怪と同じ勘定では対処しきれないからだ。強大な能力ゆえに、他の妖怪でありながら悪魔に分類されることもある。いわば、悪魔とは強い妖怪の代名詞だ。妖怪は繁殖能力を失ってはおらず、同種もしくは人間との交配が可能である。また古くから、世界各地に妖怪と人間とが子をなす民話が語り継がれているように、しばしば妖怪と人間との間に子供……半妖……は生まれている。

「……そうか」

 はずれは、感慨も無くそう言った。

「なんだ、驚かないんだ」

「……驚くことじゃない、です。誰しもなにかの子であるのですから」

「それはそうだけど、普通は、なかなかそう受け入れられないと思うよ。……まぁ、君がそれでいいなら、いいけど。それで、なんで悪魔の子だと記憶操作ができないのかというと、単純に君が強いから。並の半妖なら別に問題はないのだけど、悪魔の子の場合、基本的な精神力が強すぎて、上手くいかない。だから、君の記憶は残っている」

「もしかして、もう試みた後か」

「さあ、どうだろうね」

 和羽は冷たく笑う。

「どちらにしろ、今の君の中にある記憶は、誰にも話さないほうがいいよ。でないと色々面倒なことになる」

「……わかっています」

 はずれは静かに続けた。

「しかし、もう遅いのでした」

「えっ……正気?」

 和羽は取り乱した。

「ええ。つい、うっかり」

「ついうっかりで済まないよ。なにしているのさ。誰? 誰にどの程度話したの? 広まらないうちに口封じをっ」

「まぁまぁ、落ち着いて」

「このことは他言無用だってあれほど言ったじゃないか。ああ、もしもう学校中に広まっていたらどうしよう。大変な事態じゃないか」

「慌てているなぁ」

「そうに決まっているだろう。なんで秘密にしていると思っているの。人が突発的に妖怪なんていう、超人的な、危険な存在になると知れたら、下手をすると中世に起きた魔女狩りに近い事態になる可能性すらあるんだよ」

 魔女狩りとは、主として十五世紀から十八世紀にかけて盛んであった偏見や不正に基づいて行われた悪質な糾弾行為のことである。全ヨーロッパでは最大で四万人に及ぶ人間が、魔女もしくは悪魔の手先として処刑された。その多くが濡れ衣を着せられただけであった。

 魔女狩りが本質的になんであったのかということには諸説あるが、社会的な変動が人々を精神的な不安をかきたて、庶民の勢いと権力者の意向が一致したことで、この不当な惨劇が起きたことはまず間違いがない。

 のであるが。

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