不審者情報
私は結婚するはずだった。
静かな住宅街にある喫茶店の窓辺に座り、一杯1500円のコーヒーをすすりながら清美は思う。
部下のOL達に陰口を叩かれ、同僚の男達は私を腫れ物でも扱う様に接してきて、まるで居場所がなかった。
会社では気丈にふるまっていても、一歩外に出れば寂しさが襲ってくる。
窓の外を髪の毛をまっ茶に染めた若い主婦がおそらく2、3歳であろう、子供の手をとりながら歩いてゆく。
「清美は美人だから、私達の中で一番結婚が早そうよね」
そう言っていたコギャル仲間だった友達も、今や子供が小学校4年生。
もう5年会っていない。
黒いコーヒーに写った端整な清美の顔が、テーブルに肘をついた瞬間、酷くゆがむ。
私は結婚するはずだったのよ。
妻持ちの上司との関係。
最初は会社での都合を良くする為、遊びだったはずなのに、いつのまにか奥さんが疎ましくなってきた。
「妻とは冷めきっている。君と結婚するのに慰謝料を払うのは馬鹿げている。妻から離婚を言い出すようしむけるから待っていてくれ」
その言葉をずっと信じてきた。
会えない時間、胸をかきむしられる様な想像を乗り越えて。
でも、彼はもう会社にも自分の家にも居ない。
奥さんが旅行にでかけるというので、彼の家に行った事がある。
奥さんと住むこの家を正直めちゃくちゃにしてやりたかったが、静かに抱かれた。
その時私は魔がさした、というか、どうでもよくなった。
今思えば馬鹿げている。
いいえ、今思わなくても馬鹿げていた。
何も考えず、まるでそこにボールがあるから投げたかの様に、自分の下着をベットの下へ投げ入れた。
なぜあんな事をしたのだろう。
今考えてもさっぱり分からない。
次の日彼は突然会社を休み、もう一週間も来ていない。
私にも連絡はない。
おいそれと携帯へメールもできないし、怖かった。
彼が会社へこなくなってから三日目に一つの噂が流れた。
浮気を勘ぐられ家を飛び出したまま帰ってこないらしい、その浮気相手が会社に居るハズだと奥さんから電話があった、きっとその相手は清美に違いない。
なぜ私の名前がでるのか。
会社でも私達仲が良かったものね。
でもそんな事はどうでもいいの。
それより重要なのは、彼はやっぱり奥さんが好きだったって事よ。
下着がみつかって何があったのか知らないけれど、私に連絡もせずに消えるだなんて。
黒い液体に写る自分の顔をみつめる。
かすかな振動でゆらゆらと揺れ、微笑んでる様にも怒っている様にもみえた。
腕時計を見た。
11時25分。
私は毎日早めの昼休憩をとり、ここで彼を待っていた。
こんな所に会社の人間はこないだろ?と、彼が教えてくれた喫茶店だ。
昼食を上司と部下が一緒にとるなんて普通だし意味あるの?と尋ねた私に、彼はまぁ、いいじゃないかと笑っていただけだった。
11時30分。
彼が喫茶店の窓越しに笑顔をみせながら手を振ってくる時間だ。
一週間、毎日待っている私は本当に健気だと思う。
窓越しの歩道をじっとみつめる。
あの笑顔に会いたい、そう願った時・・
窓越しに坊主頭の男が現れた。
真っ黒に日焼けをして真っ白な目で私を見ている。
次に飛び込んできたのは、裸の上半身につけられたピンクのブラジャー。
そして勃起した黒いモノがズボンから飛び出している。
何がなんだか分からなかった。
みつめていると男の表情が微笑みに変わった。
見覚えがある、その笑顔にも、ブラジャーにも、ズボンから飛び出している黒いモノにも。
コーヒーに写った私の顔に、表情はない。
ゆっくり携帯のボタンを押す。
110と。
「○○市 不審者情報」
飲食店において成人女性が飲食中、店舗の外でブラジャーをつけた男が下半身を露出しているのを目撃したもの。
男の特徴:30歳代 170センチくらい 細身 坊主頭
これを題材に書いてみました(笑
もっと主人公の描写を細かく描けばばよかったのですが、根気がなかったです><
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