1mgしか生成できない生成魔法使いの戦い方
生成魔法。それは無から有を創り出す、神の御業。
だが、転生者である俺の限界値は、わずか「1mg」だった。
騎士団からもギルドからも「無能」と見捨てられた男が、現代知識という名の『禁忌』を解禁する。
反物質、ブラックホール、ストレンジレット。
砂粒ほどの魔法が、世界の理を無慈悲に塗り替えていく。
「剣と魔法」が支配するこのファンタジー世界において、『生成魔法』は神の業にも等しい。無から有を生み出すその力は、熟練者ともなれば一国を支えるほどの資産を築く。
だが、転生者である俺に与えられた生成魔法の限界値は、たったの「1mg」だった。
「1mgって……アリの体重より軽いじゃないか」
幸い、生成する「個数」に制限はなく、鉄だろうが金だろうが1mgずつなら無限に出せる。だが、一度に作れる大きさが砂粒にも満たない俺は、周囲から「無能な砂出し」「歩く粗大ゴミ」と揶揄される日々を送っていた。
俺は細々と、1mgの希少金属を鍛冶職人に売ったり、精密なピンセットを生成してギルドの雑用(薬草の選別)をこなしたりして食いつないでいた。
(いつかはこの『1mg』で、あっと言わせるような戦闘がしたいんだけどな……)
そんなことを考えながらギルドへ向かっていたある日、街に緊急警報の鐘が鳴り響いた。
報告によれば、魔物の群れが接近中。その数、およそ100万。
この街は険しい山々に囲まれた天然の要塞だが、唯一の進入路である「北の門」に敵が集中すれば、物量差で押し切られるのは目に見えていた。
「おい、砂出し! お前も門へ行け。1mgだろうが生成魔法使いだ、資材の補修くらいはできるだろ!」
皮肉なことに、絶望的な戦力不足のせいで無能な俺まで最前線へ駆り出された。
門へと向かう道中、俺は前世で得た知識を反芻していた。ずっと試したかった「禁じ手」がある。
それは、反物質の生成だ。
理論上、反物質は通常の物質(正物質)と接触した瞬間、質量を100%エネルギーに変換して消滅する。いわゆる『対消滅』。1mgの対消滅で発生するエネルギーは、TNT換算で約43トン。現代知識によれば、それは小さな戦術核にも匹敵する。
俺は自作の真空ポンプを使い、保存用のガラス瓶の中を極限まで減圧した。
さらに、生成魔法の真骨頂をここで使う。1mgの強磁性体を瓶の内側に薄く生成し、そこに「斥力」の付与魔法を重ねることで、中心に磁場を形成した。
「1mgの反物質……生成」
瓶の中心に、針の先ほどの光が灯る。
空気に触れれば即自爆。だが、俺の「精密すぎる1mgの魔法操作」が、磁気閉じ込めを成功させていた。ボトルがわずかに熱を持ち、手のひらにじりじりと振動が伝わる。
俺は誰にも気づかれないよう、魔物の進軍ルートにある地面へ、その「最悪の地雷」を設置した。あとは魔物が瓶を踏み抜き、真空状態が解けて反物質が空気に触れるのを待つだけだ。
「おい! 最前線で何をモタモタしている!」
結局、ギルド長に見つかって首根っこを掴まれ、後方の陣地まで引きずり戻されて説教を食らう羽目になったが……俺の耳には、怒号よりも先に「パリン」という小さな割れる音が聞こえた。
直後。
視界が真っ白に染まった。
爆音すら遅れてやってくるほどの、絶対的な破壊。
空気が一瞬でプラズマ化し、巨大な火球が天を衝いた。
爆風が収まった後、俺が目にしたのは、街の外に広がっていた深い森が跡形もなく消失し、巨大なクレーターに変わった光景だった。
推定威力は、前世の記録で見た広島型原爆の3倍は下らないだろう。
魔物100万体は、戦うどころか「蒸発」していた。
「……やりすぎた」
幸い、放射線等の事後処理は「周囲の凄腕魔法使いが結界で抑え込んだ(と俺は思い込んでいる)」ことにして、俺はこの未曾有の大惨事の責任からどう逃げるべきか、冷や汗を流しながら考え始めていた。




