僕にとっての
壊れていく心。
誰かに助けてもらいたい。
ヒーローってほんとにいるんでしょうか。
ヒーローは遅れてやってくる
今にも雨が降りそうなどんよりとした雲。
汚れきった体操服を着て、片手には通学用バックを引きづりながら、空を見上げる。
足取りは今日も重い。いつもと同じ景色なはずなのに、全てが濁って見える。
いつもは何も考えないようにしてるけれど、今日という日に限って、無駄なことを考えてしまう。
『《《ヒーローは遅れてやってくる》》』って言葉が大嫌いだ。なんで、ピンチになった後に来るのか。みんながボロボロになってから助けに来るのか、僕には分からなかった。もっと早く来て、ことが大きくなる前に助けることができたんじゃないかって。そう思ってた。けれど、ヒーローが助けてくれるだけで幸せなのかもしれない。現実には、そんな都合よくピンチに駆けつけてくれるような人は居ない。いてくれたらどれだけ、嬉しかったことか。
ふと両の手を見ると、皮膚が荒れている。
あぁ、あいつらが机を汚くしたせいだ。
綺麗にした時に強く擦りすぎちゃったのかな。
いじめられている僕の元に誰も来ない。見て見ぬふり。僕にとっちゃみんなが悪者に見えて仕方がない。周りを見ても、僕を嘲笑ってるかのように。なんで生まれてきたんだろう。諦めよう。体も心もボロボロで、限界らしい。
そう。こんな僕にとって、生きる理由をひとつ探すより10個のこの世から消える理由を探す方が容易いなんだ。
何も意識せず、公園の屋根のあるベンチに座り込んだ。どっと力が抜けた。歩くことに労力を使わないことで、思考することにいっそう拍車がかかった。何も考えないようにしたいけど、やはり考える。
どうやって死のうかと意識がそっちばかりに行ってしまう。首吊り、飛び降り、はたまた線路に落ちようか。毒?練炭?刺殺?考えるだけで、なんだか楽しくなってくる。でも、死にたいわけじゃない。消えてしまいだけだ。
矛盾だらけの僕の人生。
ポツポツと雨が降っていた雨も次第に強くなっていき、ザーッと音を立て周りの生活音をかき消していく。思考しても思考しても雨に流されていくような。考えがまとまらない。だから余計に今の僕には分からない。
何人かの僕が僕に問いかける。
『いじめられている方が悪いのか、いじめる方が悪いのか。』
『自殺するのは弱いからか。』
『自傷はただの自己満なのか。』
『逃げるというのは卑怯なのか。卑怯だから悪なのか。』
この世に絶対的な正義があるならば、僕は悪者になってやる。
気付いたら手を強く握っていた。爪が皮膚を刺し、少し紅くなっていた。痛いような痛くないような分からない。もう分からない。
本当に――本当にいいのか?
僕が悪になったら家族は悲しむだろう。
「今日も遅くなるからご飯は適当に食べときな」
いや、そんな訳ない。僕に興味なんてない。
どうせ他の男と遊んでる。
いっその事、全部壊してやる。
楽になれるのなら、悪にでもなんでもなってやる。だから…だから、ヒーローよ。僕を殺してくれ。死ぬ勇気すらない僕に、勇気を与えてくれ。それが無理ならいっその事殺してくれ。さっきまで、雨音が鼓膜の奥にまで響くようなうるささだったが、それか嘘みたいに無くなった。僕以外の人や物。何もかもが消えてしまったような。なんとも言えないこの気持ちはなんだろう。心地良ささえも覚えていく。
はぁ、最後くらいヒーローに助けて貰いたかったなぁ。
――――もうどうでもいいか。
そして、ある考えが僕の中を支配した。
……そっか。僕をいじめるやつに仕返しをしてやればいいんだ。そしたら僕もスッキリするし、きっとヒーローが僕を止めに来る。簡単な事だったんだ。そうしたらきっといじめられなくもなる。この地獄よりも、刑務所内の方が楽に決まってる。
僕をいじめたやつがのうのうと生きてるなんて、幸せになろうなんて許せない。壊されたんだ。僕にも壊す権利はあるよね。
悪を滅するのはまた別の悪でなければならないんだ。
いままで考えてたものが吹っ切れた。
そうなった僕はただ気持ちが良かった。雨なんて気にしてなんかいられない。雨に打たれて笑った、はしゃいだ。泥だらけの体操服もさらに汚れた。いつぶりだろうか、何もかもを忘れ、純粋に笑ったの。
ははは!おかしいのはこの世界か、はたまた僕なのか。まぁ、知ったこっちゃない。
笑いが止まらない。楽しいって、幸せってこのことか。
僕の人生だ、僕のやることが正しい。好き勝手やってもいいじゃないか!!
そうか、そうだよな!ヒーローがいるってことは、悪者がいるんだ。悪者がいないとヒーローなんてやってこないんだもんな!
なにか壊われる前に、早く来いよヒーロー。
でもさぁ、ヒーローは遅れてやってくるんだっけか。
遅れてきたら、間に合わなくなるぞ。
僕は、僕はここにいるぞ!早く来いよ!
お前たちが無視してきたこの僕が壊してやる。あの教室も全部、何もかも!
もう手遅れだ。
僕は気付いてたけど気付かないフリをしてた。僕はとっくの昔に壊れていたことに。後戻りはできない。
僕は狂ってた。最初からそうだったのかもしれない。
「僕ってば、天才だなぁ…《《悪》》になるのも悪くないな。」
もう誰もいない公園で雨音だけが大きくなっていく、何かを隠すように。
これって小説って言えるんでしょうか。




