幕間:国王の独り言(シビルズ国王視点)
時系列はEP05直後です。
「失礼いたします、父上」
ブルネットの髪が揺れ、たくましい背が扉の先へ行ってしまう。どこか晴れやかな声で下がったのは、第二王子ルイス。余の息子。
突然の婚約破棄からしばらく、苦しみ悩み抜き、自分なりの答えを出したのだろう。余を見据える茶の眼は、自信に満ちていた。ここまで成長するものかと、関心する。
「 『シビルズ国の王として、成さねばならぬ責がある』、か」
腰深くかけたイスが、ぎしりと鳴る。
ルイスの言葉を噛み締めた時、ふと旧友の顔がよぎった。
「……その通りだな、アラスターよ」
アラスター・ナイト辺境伯。代々シビルズ国境最前線を守るナイト家の現当主。共に戦場を駆けた、古くからの友。お互いに良く知った仲だと思っていたが ――今、何を考えている?
あやつの娘の暴走から始まったこの件。
国内の安定を選び承認したが、お前は謝罪に現れなかったな。
それどころか余の息子を私的に呼び出すとは……誠に僭越ながら戦略的。
加えて夜会に現れたのは、ワイルズ国の王子だと? 実に頭が痛い。
他国に通じたとしか見えないこの状況。
だがお前は、そんな男だったか?
『シビルズの旗は降ろしていない』それが真意だと、信じたいが――
何か見落としている?
最後にあいつと会ったのは、いつだったか。
そうだ、婚約破棄より前、貴族たちとの会食。
あの時あいつは、何を話していた?
「……まさか、ワイルズが既に侵攻を?」
* *
――冬季 シビルズ王城にて
「ワイルズ国への交易品が、“兵站” ……ですと?」
「なかなか面白い事をおっしゃいますな、辺境伯殿は」
「国王陛下も、そう思われませんか?」
同意を求めるように、貴族たちの視線が集まる。
近年我が国は、隣国ワイルズとの交易により、多くの利を得ている。この者達はその管理者だ。交易品が争いの火種となっては、利を失いかねない。
阿漕。だが今はそれが力だ。
「そうだな」
有力貴族達に迎合する事しかできない自分に、嫌気が差す。
これではどちらが王かわからんな。
「ですが、加工食品だけでなく、外海製の武具も例年より多く――」
「では、辺境伯は、ワイルズ国が侵攻作戦でも計画していると、そう仰るのですか」
辺境伯が押し黙ると、交易貴族達は笑みを浮かべ、口々に物を言う。
「さすがに飛躍し過ぎではないですか?」
「それに、かの国の王ハロルドは、剣を文に持ち替えて久しい。恐れる事はありません」
「ええ、まったくもって」
上品な笑い声が響き渡る。
「……皆様の仰る通り、私の杞憂のようです」
同意の声が上がる中、辺境伯の顔には、ぎこちない笑顔が張り付いていた。
* *
あいつのあの顔、諦めていなかったのか?
それとも、既に何か掴んでいたのか?
「アラスターめ……また一人で解決しようとしているのか? 余をなんだと思っているのだ」
乾いた笑いが執務室に響く。
「いや、“国王”だからこそ、できない事もあるのか」
『お前は王なんだから、玉座でどしっと構えてれば良いんだよ!』
はるか昔に聞いた友の声が、ぎりりと胸を締め付ける。
昔日の戦場に思いを馳せていると、執務室にノックが響いた。
入室を許可すると、ヒューゴが現れた。
「失礼いたします。国王陛下、本日の公務がございます」
「……そうだな」
「どうかなされましたか?」
気遣わしげに尋ねてくるヒューゴ。さすがに聡い。
さてどうするか。余にもできる事が、まだあるはずだ。
足りないのは情報。あいつが掴んでいるはずの物を手に入れる。
判断はそれからでも遅くはない。
「ヒューゴ、頼みたい事がある」
穏やかなヒューゴの顔が微かに強張る。
「ワイルズ国までの、陸路交易を調べて欲しい」
「……ワイルズ国まで、でございますか?」
「ああ、静かにな。気取られるなよ。なにやらきな臭い」
「その、情報元を伺っても」
「アラスターだ。 ――そうだな、余の密命を受けていたとでも、しておこうか」
「……かしこまりました」
静かに響き渡るヒューゴの声。
それは、久しくなかった滾りを鎮めるには、十分だった。
今エピソードもお読みいただき、ありがとうございます。
本日は夜にもう一話幕間を投降予定です。
引き続きよろしくお願いします。




