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EP05.父王と子


ナイト領を発ちしばらく、鮮やかな緑葉が小窓に満ちる頃、到着の報せと謁見の申請書をもたせ、先触れを出す。まずは国王陛下に会わないとな。


次第に見えてくるシビルズ王城。陽の光に照らされた荘厳な姿が、嫌に懐かしい。



「ルイス殿下、無事のご帰還、お慶び申し上げます」

「ヒューゴ、出迎えご苦労。国王陛下にも到着したと伝えて欲しい」

「かしこまりました。謁見の準備も進めて参りますので、今しばらくお待ちください」

「ああ、それまで休んでいるよ」




コーディを伴い、自室に戻り着替えを済ませ一心地。まだ揺れ残る腰がとろけるようだ。


「ルイス王子、お茶をお持ちしました」

「ああ、ありがとう」

芳しい香りが鼻を抜け、体の芯から癒やされる。自然と頬が緩む。

ふと、気遣わしげにコーディが声をかけてくる。


「大分お疲れのようですね」

「国内とは言え、馬車旅は堪えたようだ。それに、色々あったからな」

「ええ、そうですね……」

「わかっているとは思うが、あれは私的な訪問だ。他言無用だぞ」

「心得ております」

辺境伯の真意と、ワイルズ国王子ギデオンの登場。極めて政治的な案件。おいそれと口外できる内容ではない。あの場にいた側近達にも厳命してはいるが。


それと、フローラの思い。あれは私達だけの――


忍ばせた古風なハンカチに触れた時、扉からノックが鳴った。入室を許可すると、ヒューゴが現れた。


「ルイス殿下、謁見の準備が整いました。王の間へお越しください」

思ったより早い。気を引き締めて立ち上がり、自室を後にする。




優雅に、かつ威厳を保ちつつと思いながらも気が逸る。

城内を彩る綺羅びやかな装飾は、目を癒す間もなく過ぎていく。


「ルイス殿下がお戻りになられました」


ヒューゴの声と共に、大仰な扉がゆるりと開く。

真紅のカーペットが示す先は、玉座の下。

中央に王を頂き、側に控える重臣達。

一斉に注がれる、いくつもの視線。


ずきりと胸が跳ねる。


この謁見は公式の場。周りにいる王の側近は、ヒューゴだけではない。一時は辺境伯の制裁を訴えた者もいる。

私の一挙手一投足を逃がさんとしているのだろう。ええい、忌々しい。


国王陛下の御前に跪き、頭を垂れる。

間を置き、朗々とした声が王の間に響き渡る。


「よくぞ無事戻った。大儀であった」

「とんでもございません。遠出の許可を頂き、心より感謝申し上げます」

「うむ ――それで、アラスター・ナイト辺境伯は、どうであった?」

国王の声に重みが増し、空気に緊張が走る。

落ち着け、ただ真実を伝えるだけだ。


「変わりなく。丁重かつ贅を凝らした、大変素晴らしい歓待を受けました」

「ほう、それだけか?」

「帰還の際、献上品をもたらされました」

「なるほど、用意が良い」

「仰るとおりで」

「品は後で改めさせよう。長旅で疲れているだろうしな、下がって良いぞ」

張り詰めた空気が、徐々に凪いでいく。

だが、まだ終わりじゃない。


「畏れながら国王陛下、お願い申し上げたい儀がございます」

「なんだ、申してみよ」

「二人きりで話しとうございます ――父上」

ざわりと交わる異口同音。


「殿下、僭越ですぞ」

「いくら殿下とはいえ、勝手が過ぎますな」

「まったくもって」

重臣達が昂る中、割って入る国王の声。


「良いだろう。執務室に来なさい」

「陛下!」

「これからは父と子の時間だ ――なあ、ルイス」


優しげな声が、ずしりと圧しかかる。

ぞくりと冷える背中、頬を伝う汗。

御礼の言葉を絞り出す。


「……はっ、ご厚意感謝いたします」


渋々とした表情を隠さない重臣達に見送られながら、王の間を後にする。




父上の後を随行し、王の執務室へ。


本当に二人きりだ。ヒューゴやコーディもいない。子どもの時以来じゃないだろうか。あまりの新鮮な状況に、逆に緊張してくる。


「では、聞こうか」

「はい、先程申しました通り、歓待はとても素晴らしいものでした」

父上はゆっくりと頷き、視線で先を促す。


「ですが夜会の途中、ワイルズ国第一王子ギデオン殿下が見えました」

「……なん、だと?」

大きく見開いた目が、ゆるりとこちらを睨めつける。


「しかし、辺境伯は明らかに動揺しておりました」

「……それで?」

「辺境伯からは、『全てギデオン殿下の独断であり、ワイルズ国王からの認められてない』と」

「信じたのか?」

「はい ――アラスター・ナイト辺境伯は、『シビルズの旗は降ろしていない』と断言しました」


じっと見つめる琥珀の目と、引き結んだ口。

じりりと肌に感じる威圧感。

たじろぎそうになるのを堪える ――自分を保て。



ふと思い出すのは、彼女の姿。


この国一番美しく揺れる、カーテシー。


花のように可憐な笑み。


そして、私を捕らえる美しいブルーの瞳。


フローラが見てくれているだけで、私は、私らしくいられる。




父上の前に出て、膝を折り頭を垂れる。


「ルイス! 何を――」


「国王陛下、辺境伯の忠義は変わりないと存じます。ですが、一度結んだちぎりを破ったのも事実。陛下の御心により、いかようにも出来ましょう」


「シビルズ国の王として、成さねばならぬ責があると、重々承知しております」


「故に、陛下が王としての判断を下されましても、私は異を唱えません」


流れる沈黙。

どれくらい経っただろうか。

優しげな父上の声が、ふわりと降りかかる。


「お前の気持ちはよくわかった。今日はもう下がって休みなさい」

「……ありがとうございます。父上」


今エピソードもお読みいただき、ありがとうございます。

国王と王子、父と子というそれぞれの関係性を意識してみました。


さて、今エピソードから更新頻度が変わり、週二回になります。

次回投降予定日は2/11(水曜)で、内容は幕間回です。

今回のエピソードに深く関わる内容になってます。

引き続き、よろしくお願いします。

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