表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

EP04.大切なもの


視界の端、乱暴に開け放たれた扉。

食卓を挟んだ向こうには、伴を連れた青年が名を名乗った。


燃えるような赤髪はつんと立ち、黒を基調とし金糸で仕立てられた正装が、尊大さを際立たせている。


彼が、ワイルズ国ギデオン王子?


いやその前に、婚約者と言ったか?


辺境伯は知っている? フローラも?


――冷静になれ。相手は他国の第一王子だ。



「……これは失礼いたしました。私はシビルズ国第二王子ルイス・フェアバンクスと申します。以後お見知り置きを」

“ふっ”と、漏れ聞こえる呼吸。満足そうな笑みだ。


視界の端、顔に陰を落とした辺境伯が口を開いた。


「ギデオン殿下、このように我が家は、賓客の歓待中でございます。日を改めて頂きたく存じます」

「ほう?」

ギデオンの眉がひそみ、口角が上がる。この状況を、面白がっているのか? ……少々不愉快だな。


「なにやら、込み入った事情がありそうだ。私は下がらせてもらう」

コーディがイスを引き、護衛騎士がにわかに動き出す。


「お待ち下さい、ルイス殿下!!」

切迫した辺境伯の声は、いくつもの背中で遮られていった。




客間に着くと、重苦しい空気が流れる。側近達からは、気遣うような視線と、静かな怒りを感じる。

それもそのはず。婚約破棄を願われたあの日、共に居た者達だ。フローラがワイルズ国の王子に嫁ぐというのも聞いている。その上で、張本人からの“婚約者”発言。これでは――


「ナイト家がワイルズ国に通じた、という事か」

ぴきりと緊張が走り、息を呑む声が聞こえる。


「ただ、これみよがしにも見える」

「……と、言いますと?」

コーディが恐る恐る返す。


「今宵の歓待は素晴らしいものだった。それを台無しにするこの流れ、“どうぞ疑ってください”と、言わんばかりだろう」

「確かに」

「それに辺境伯の狼狽ぶりと、フローラの動揺。どうも腑に落ちない」

表面上の確信が綻び、疑念が生じていく。


「とりあえず辺境伯の弁明を待つとしよう。判断を下すには、それからでも遅くない」

「かしこまりました」



それから間もなく、辺境伯はフローラを伴い、私の下へ跪いた。

沈痛な面持ちの辺境伯と、怯えを隠せないフローラ。

ずきりと胸が痛む――ダメだ、しっかりしろ。



「……では、卿の言い分を聞こうか」

辺境伯はわずかに動き、ブルーグレイの髪が揺れる。


「今宵の夜会は、ルイス殿下のために用意させていただきました。かの御仁の乱入は、想定外でございます」

「だろうな。卿の慌て様、珍しいものを見た」

「……面目次第もございません」

辺境伯の気持ちが沈む。やはり、謀ったわけではなさそうだが……まあ良い。もう一つ、確認しなければならない事がある。


「一つ聞きたい。彼は婚約者なのか?」

「ギデオン殿下の口約に過ぎません」

「勝手に言っているだけだと?」

「ご明察の通り、ワイルズ国王陛下には、認められておりません」

「それは……」

「ルイス殿下。我らは決して、シビルズの旗を降ろしたわけではございません」

芯の通った辺境伯の声。ざわりと雰囲気が変わる。


「ああ、その言葉は、父上――いや、国王陛下が聞きたかったはずだ」

「……御心を煩わせてしまい、申し訳ございません」

押し殺すような、濡れた声。


「私も卿をいたずらに責める気はない。なにせ義父上ちちうえになったかもしれない御方だ、無碍にはできない」

「ルイス、殿下」

「今宵の歓待、誠に素晴らしいものであったと、シビルズの父上に伝えておこう」

「……ご配慮痛み入ります」


辺境伯の声に紛れ、フローラと視線が合った気がした。

憂いも怯えもない美しいブルーの瞳が、私を捉えた。



✽  ✽ 



――翌日、帰還の日



あの後は二人を下がらせ、一悶着あった歓待は幕を閉じた。


主な目的であった情報も得ることができた。後はシビルズ王都に帰還するだけなのだが、帰り際に土産をもたされそうになった。いらないと言ったのだが、何やらたんまりと積まれてしまった。

義父上ちちうえ発言が思いの外効いてしまったか? リップサービスが過ぎたかな。



「では世話になったな」

「ルイス殿下、お気をつけてお帰り下さいませ」


辺境伯とフローラに続き、使用人一同が頭を垂れていく。

一際目立つカーテシーが揺れる。

やはり、この国一番美しいな。



「そうだ、忘れる所だった」

懐に忍ばせていた、古風なハンカチ。

するりと取り出し、軽く掲げる。


「庭園に忘れ物があったんだが。フローラ、知らないか?」

フローラの表情が揺れ、何か言いたげに口を動かそうとしている。

ああ、何も言わなくていいよ。十分だ。


「知らないのであれば、持ち帰るしかないな。持ち主が現れるまで、大切に持っておくとしよう」

フローラは驚きの表情を浮かべるも次第に緩み、笑顔に覆われていく。


「ええ、わたくしには、大切なハンカチがあります」

すらりと美しい指に、ふわりとかかるハンカチ。

それには、きらびやかな刺繍が施されている。


「ほう、それは流行りのものだな」

「お詳しいですわね、ルイス殿下」

「それはもちろん」


花のように可憐な笑み。

蜜のように甘い声

ほんの僅かな会話でも、ここまで満たされる事はない。


ああ、やっぱり良いな――



「ルイス王子、お時間ですよ」

「ルイス殿下、そろそろ……」


心温まるひとときは、コーディと辺境伯の咳払いで、終わってしまった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

突然のライバル登場に、ルイスはどう対処するのか。

そしてフローラとのやりとり。

緊張感や甘い雰囲気を出せるように意識してみました。


次回更新は、一日置きまして2/7(土曜)の予定です。

引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ