表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

EP03.予期せぬ来訪者


全体会議から二週間になろうというも、辺境伯家は沈黙を保ち、情勢は変わらないまま時が流れた。


調査によるとナイト辺境伯領は閉じられず、王都との交易は継続している。ただ、領内の衛兵は増員され、監視と検問は厳しくなっている。二領地間を行き来する行商人の声もある。信憑性は高い。


“物流に影響はあれど、誤差の範囲内” というのが現状。そのせいか周辺貴族達も落ち着きを取り戻し、ナイト家に対しては慎重派が主流となった。


フローラの事を思えば、良い方向ではあるが……



執務室で報告書を読み返していると、扉からノックの音。入室を促すと、どことなく緊張の面持ちのコーディが現れた。


「どうしたコーディ、険しい顔をして」

「ルイス殿下、使者が書簡を持って参りました」

「私に?」

どこの使者か聞こうとした時、封蝋が目に入る。盾を模した封印――ナイト家か。

道理でコーディの様子がいつもと違うわけだな。


嫌な予感を飲み込みながら、書簡に目を通す。

まずは先の嘆願書に対する御礼と謝罪。これは良い。

重なる一枚を見た瞬間、息が止まる。


深い溜息。張り詰める空気。口を開くのが億劫だ。


「国王陛下……いや、父上に急ぎお話があると伝えてくれ」

「かしこまりました」


ひどく冷えた筆頭文官の声は、瞬く間に扉の向こうへ消えていった。




――国王の執務室にて


「『ルイス殿下に直接謝罪させて頂きたく、我が領地にお越しください』だと? アラスター・ナイトめ……やってくれる!!」


父上が怒号を上げながら、拳を天板に打ち付けた。

獰猛な笑み。唸る吐息。室内に緊張が走る。


「陛下、人払い済みとは言え、お控え下さい」

「ヒューゴよ、これが落ち着いていられるか?」

ヒューゴは口を閉じ視線を落とす。それを見た父上は、“ふん”と荒らく鼻を鳴らした。


婚約破棄からの一騒動。本来であれば、謝罪に出向くのはナイト辺境伯の方だ。父上の怒りは当然だろう。だが――


「父上、その書簡は私に宛てられたもの。私は息子として、ナイト領まで遠出する許可を得に来たのです」

「行くつもりか?」

「行かざるを得ないでしょう」

父上は眉間に寄せ、口を引き結んだ。


不快だというのは、痛いほど伝わる。

でもこれは認めて貰わなければならない。


真実を確かめるためにも。




*  *  *




どうにか父上の許可を得て、ナイト辺境伯領へ赴く準備が整った。


コーディを伴い馬車に揺られ数日。日を重ねるごとに草木の様相が変わり、肌寒さを感じてくる。

シビルズ王都より高所に向かっているせいなのか、それとも――



「ルイス様、そろそろ領内です」

幌の小窓を覗くと、ナイト辺境伯領の検問が過ぎていく。

険しい顔の衛兵。好奇の目を向ける領民。

色褪せた空に、はためくシビルズの国旗が見えた頃、馬の歩みが遅くなる。


幌から降りると、美しく整えられた石畳が続く。

開け放たれた城門。居城前にて跪くナイト辺境伯――そして、フローラ。


「お待ちしておりました。ルイス殿下」

「出迎えご苦労。此度は卿の招待を受け入れ、参上した次第」

「ご足労頂き、感謝の念に堪えません。ご滞在の間、歓待いたします」



客間にて束の間の休息を得てしばらく、とっぷりと夜も更けた頃、辺境伯から声がかかる。

ごくりと喉を鳴らすコーディ。いつもの軽口は引っ込んでいるようだ。こういう時にこそ欲しいと願うのは、ワガママだろうか。


「ただの食事だ。楽にしろ」

「ルイス王子……」



食卓には惜しげもなく置かれた燭台。蜜蝋に灯した明かりが、銀食器をきらりと照らす。贅を凝らした食事には、シビルズ港で取引される食材ばかり。

ちらりと見える辺境伯には、とろけるような笑顔が浮かぶ。


「お気に召されましたかな」

「ああ、卿はなかなかの演出家だな」

「お褒めに預かり光栄です」



和やかな食事が終わり、水がワインに変わる頃、辺境伯が態度を改める。

突然の婚約破棄と嘆願書。受諾に対する謝罪と御礼。書簡だけでは伝わらなかった熱を感じる。国と国王への敬意と忠誠。この会食と話だけを聞いていれば、疑う余地はない。


だからこそ、解せない。


ああ、形式ばった問答はもういい。そろそろ “こちらの” 本題に入ろうか。



「ところで、婚約破棄の理由を聞いても?」

「……申し訳ありません。領内の事ですので、お答えしかねます」

「そうか」

あくまで私的な訪問とするか。仕方ない。

一呼吸置き、意を決して口を開く。


「フローラ、変わりないか?」

「……ええ」

ぎこちない笑顔。表情が陰る。

令嬢らしく取り繕っているつもりだろうが、私にはわかる。


「私の事が、嫌いか?」

「っ! そんな事は――」

フローラは身をよじり、言葉を紡ぎかける。


「フローラ。淑女たるもの、常に冷静にありなさい」

間髪入れず辺境伯の声が刺さる。


「申し訳ありません、ルイス殿下。フローラは少々体調が優れないようで……今、下がらせます」

「いや、構わない。私も無粋な真似をした」

うつむいたフローラの顔。きらりと光る睫毛。潤む瞳。


ずきんと締め付けられるような胸の痛みに、手を添える。


そうだ、彼女のハンカチを返さなければ――




「お待ち下さい!!」

沈黙を破る使用人の声と共に、どんと荒らげに開かれる扉。

現れたのは、ぞろぞろと伴を引き連れた青年。燃えるような赤い髪と、黒を基調とした正装。どこぞの貴族か?


視界の端、辺境伯がおもむろに立ち上がると、口を開いた。


「……本日は、お約束されていないはずですが、何用でございましょう」

辺境伯の顔は強張り、声も微かに震えている。

フローラの表情も、見る見る内に血の気を失っていく。


赤髪の青年は悪びれる事もなく、愉悦に緩んだ口を開く。


「婚約者の屋敷に赴いて、何か不都合でも?」

「ギデオン王子殿下!!」

赤髪の青年は、辺境伯の怒号をするりと躱し、こちらを向いた。


「おや、そちらはもしかすると、シビルズ国第二王子殿下ではないか?」

「……そうだが、貴殿は?」

「これは申し遅れた。俺はワイルズ国第一王子ギデオン・バーグマン。以後、お見知り置きを」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ