表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

幕間:幼馴染とのひととき


全体会議が終わり数日、再び送った使者を待ち、騒動は一旦の落ち着きを取り戻している。あとはナイト辺境伯が、どのように動くのか見守るしかない。

当事者なんだが、私から離れた所での影響が大きく、我ながらどうも他人事のようだ。



執務室にて、午前の学習が終わった頃、コーディが改まって話かけてきた。


「ルイス王子、少々よろしいでしょうか」

「なんだ、コーディ」

「後日ですが、我々に歓待の機会をいただけないでしょうか」

「どうした、急に」

「ここ最近ご多忙でしょう。お疲れかと思いまして、休息のひとときをと」

ふと心が軽くなる。筆頭文官ではなく、幼い頃からの友人としての優しさを感じる。


「わかった。予定を確保しておいてくれ」

「ええ、既に」

「早いな」

「ルイス王子の予定は、全て把握してますからね」

「……そうだったな」

「では、失礼いたします」

用が済んだと言わんばかりに、私の筆頭文官は軽く会釈して去って行った。



なにはともあれ、久しぶりの息抜きだ。

コーディは文系だから、剣術や狩猟ではないだろう。乗馬はありそうだが。

それともやはりチェスかな。そう言えば、東方からの交易品に新しいボードゲームがあったな。

うん、何をしてくれるのか、楽しみだな。



*  *  *



――数日後、シビルズ王城ティールーム



「本日はお越しいただき、感謝申し上げますわ、ルイス殿下」


オレンジの長髪がさらりと流れ、翠色すいしょくのカーテシーが揺れる。

歓待の挨拶をしたのは、侯爵令嬢グレース・シートン。コーディの婚約者だ。



ティールームに漂う華やかな香り。可憐な茶器に揺れる琥珀色の紅茶。テーブルを挟んだ正面には、うきうきと上機嫌なグーレス。その一方、コーディは私の右隣りで、なんともいえない顔をしている。


これは予想外の展開だな。


「まさかお茶会だったとは、な」

「……あら、殿下にしっかり伝えてなかったのかしら?」

グレースの視線がコーディに刺さる。ふるふると首を振るコーディ。

ああこの感じ、懐かしいな。


「久しぶりに友人達とゆっくりできて、嬉しいよ」

「お喜びいただき、なによりですわ」

グレースの快活な声が、心地よく響く。


「先日珍しい茶葉が手に入りましたので、殿下にもご賞味いただければと思いましたの」

「ああ、良い香りだ」

社交界シーズンも終わりかけとはいえ、わざわざ時間をとってくれた友人達に感謝だな。


「時にグレース嬢。これは私的な場だ。いつも通りで良い」

「まあ、承知いたしましたわ、ルイス王子」

“ふふっ”と笑みを浮かべるグレース。


「ルイス王子、それはさすがに」

横から口を挟むコーディ。まったく、こいつは。


「彼女は私の友人で、お前の婚約者だ。少しは融通を利かせてもいいじゃないか」

「コーディは少し堅すぎるのよ」

「いつもこんな感じなんだ。未来の妻として、教育してやってくれ」

「お任せ下さいませ!」

胸に手を当て、自信に満ちた表情を浮かべるグレース。

今日は援軍がいる。めったにない優位性。ニヤケが止まらん。あ、コーディが呆れている。



和やかなお茶会を堪能してしばらく、余韻を楽しんでいると、ふと気になった事がある。


「そういえばこの茶葉と菓子はどこから?」

「陸路交易ですわ」

さらりと答えるグレース。

シートン家は海路交易を管理する侯爵家。外海そとうみのものを国内へ。国内のものを外海へ。そのため陸路交易――ナイト領への繋がりは、必然と強くなる。

もしかすると、このお茶会は……


「王都からナイト領まで、滞りなくあると?」

「今の所問題ありませんわ、ルイス王子」

グレースの言葉に、ぴくりとコーディが反応する。


「人の出入りが減ったと聞いたけど」

「それは衛兵の増員と、検問が少々厳しくなったからですわ」

「……その情報はどこから?」

「茶葉やお菓子を取り扱う者達から、そのような報告が上がっておりますわ」

唸るコーディ。私も唸りたい。

継続される交易と、強化された警備。敵対していないというポーズともとれるが……


グレースはコーディーを見つめ、強い口調で話を続けた。


「フローラ様は、決して悪い人ではありませんわ。何かお考えがあるのよ」

令嬢らしい凛としたグレースの佇まい。だが瞳は潤み、声は微かに震えている。

そういえば彼女は、フローラととても仲良くしていたな。


「グレース、そうは言っても現状を見れば――」

「まあ、コーディったら! 子どもの頃からのお友達を、信じられませんの?」

「それとこれとは」

「どう違うのかしら?」

「ぐっ……」

グレースの勢いに、たじろぐコーディ。


二人の話が脱線してきたな。だが、微笑ましくも思う。

胸がじんわりと温かくなる。ただ、どこか満たされない。

心の真ん中に、空虚が残る。


私も二人のように、フローラと――



「ルイス王子、どうされました?」

コーディがおもむろに声をかけてきた。グレースも気遣わしげに見ている。

どうやら上の空だったようだ。ああ、ダメだな。何か言わないと。


「夫婦喧嘩なら、よそでやってくれないか?」

「なっ?!」

ことさらに照れるコーディと、頬を染めて嬉しそうなグレース。


幼い頃からの友人達との楽しいひととき。

だが、一抹の寂しさを感じざるを得なかった。



本エピソードをお読みいただき、ありがとうございます。

本編補完としての幕間回でしたが、いかがでしたでしょうか。

ルイスを案じる友や、全体像を見る兄を意識してみました。


明日は本編に戻り、EP03を投降します。

引き続き、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ