幕間:幼馴染とのひととき
全体会議が終わり数日、再び送った使者を待ち、騒動は一旦の落ち着きを取り戻している。あとはナイト辺境伯が、どのように動くのか見守るしかない。
当事者なんだが、私から離れた所での影響が大きく、我ながらどうも他人事のようだ。
執務室にて、午前の学習が終わった頃、コーディが改まって話かけてきた。
「ルイス王子、少々よろしいでしょうか」
「なんだ、コーディ」
「後日ですが、我々に歓待の機会をいただけないでしょうか」
「どうした、急に」
「ここ最近ご多忙でしょう。お疲れかと思いまして、休息のひとときをと」
ふと心が軽くなる。筆頭文官ではなく、幼い頃からの友人としての優しさを感じる。
「わかった。予定を確保しておいてくれ」
「ええ、既に」
「早いな」
「ルイス王子の予定は、全て把握してますからね」
「……そうだったな」
「では、失礼いたします」
用が済んだと言わんばかりに、私の筆頭文官は軽く会釈して去って行った。
なにはともあれ、久しぶりの息抜きだ。
コーディは文系だから、剣術や狩猟ではないだろう。乗馬はありそうだが。
それともやはりチェスかな。そう言えば、東方からの交易品に新しいボードゲームがあったな。
うん、何をしてくれるのか、楽しみだな。
* * *
――数日後、シビルズ王城ティールーム
「本日はお越しいただき、感謝申し上げますわ、ルイス殿下」
オレンジの長髪がさらりと流れ、翠色のカーテシーが揺れる。
歓待の挨拶をしたのは、侯爵令嬢グレース・シートン。コーディの婚約者だ。
ティールームに漂う華やかな香り。可憐な茶器に揺れる琥珀色の紅茶。テーブルを挟んだ正面には、うきうきと上機嫌なグーレス。その一方、コーディは私の右隣りで、なんともいえない顔をしている。
これは予想外の展開だな。
「まさかお茶会だったとは、な」
「……あら、殿下にしっかり伝えてなかったのかしら?」
グレースの視線がコーディに刺さる。ふるふると首を振るコーディ。
ああこの感じ、懐かしいな。
「久しぶりに友人達とゆっくりできて、嬉しいよ」
「お喜びいただき、なによりですわ」
グレースの快活な声が、心地よく響く。
「先日珍しい茶葉が手に入りましたので、殿下にもご賞味いただければと思いましたの」
「ああ、良い香りだ」
社交界シーズンも終わりかけとはいえ、わざわざ時間をとってくれた友人達に感謝だな。
「時にグレース嬢。これは私的な場だ。いつも通りで良い」
「まあ、承知いたしましたわ、ルイス王子」
“ふふっ”と笑みを浮かべるグレース。
「ルイス王子、それはさすがに」
横から口を挟むコーディ。まったく、こいつは。
「彼女は私の友人で、お前の婚約者だ。少しは融通を利かせてもいいじゃないか」
「コーディは少し堅すぎるのよ」
「いつもこんな感じなんだ。未来の妻として、教育してやってくれ」
「お任せ下さいませ!」
胸に手を当て、自信に満ちた表情を浮かべるグレース。
今日は援軍がいる。めったにない優位性。ニヤケが止まらん。あ、コーディが呆れている。
和やかなお茶会を堪能してしばらく、余韻を楽しんでいると、ふと気になった事がある。
「そういえばこの茶葉と菓子はどこから?」
「陸路交易ですわ」
さらりと答えるグレース。
シートン家は海路交易を管理する侯爵家。外海のものを国内へ。国内のものを外海へ。そのため陸路交易――ナイト領への繋がりは、必然と強くなる。
もしかすると、このお茶会は……
「王都からナイト領まで、滞りなくあると?」
「今の所問題ありませんわ、ルイス王子」
グレースの言葉に、ぴくりとコーディが反応する。
「人の出入りが減ったと聞いたけど」
「それは衛兵の増員と、検問が少々厳しくなったからですわ」
「……その情報はどこから?」
「茶葉やお菓子を取り扱う者達から、そのような報告が上がっておりますわ」
唸るコーディ。私も唸りたい。
継続される交易と、強化された警備。敵対していないというポーズともとれるが……
グレースはコーディーを見つめ、強い口調で話を続けた。
「フローラ様は、決して悪い人ではありませんわ。何かお考えがあるのよ」
令嬢らしい凛としたグレースの佇まい。だが瞳は潤み、声は微かに震えている。
そういえば彼女は、フローラととても仲良くしていたな。
「グレース、そうは言っても現状を見れば――」
「まあ、コーディったら! 子どもの頃からのお友達を、信じられませんの?」
「それとこれとは」
「どう違うのかしら?」
「ぐっ……」
グレースの勢いに、たじろぐコーディ。
二人の話が脱線してきたな。だが、微笑ましくも思う。
胸がじんわりと温かくなる。ただ、どこか満たされない。
心の真ん中に、空虚が残る。
私も二人のように、フローラと――
「ルイス王子、どうされました?」
コーディがおもむろに声をかけてきた。グレースも気遣わしげに見ている。
どうやら上の空だったようだ。ああ、ダメだな。何か言わないと。
「夫婦喧嘩なら、よそでやってくれないか?」
「なっ?!」
ことさらに照れるコーディと、頬を染めて嬉しそうなグレース。
幼い頃からの友人達との楽しいひととき。
だが、一抹の寂しさを感じざるを得なかった。
本エピソードをお読みいただき、ありがとうございます。
本編補完としての幕間回でしたが、いかがでしたでしょうか。
ルイスを案じる友や、全体像を見る兄を意識してみました。
明日は本編に戻り、EP03を投降します。
引き続き、よろしくお願いします。




