表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

幕間:兄の思い

時系列は貴族の全体会議前です。



「はあああっ!」

高く乾いた音が訓練場に響き、若いシビルズ訓練兵が膝をつく。


「ま、参りました……」

「お前達、手加減してないだろうな」

「滅相もございません、ルイス殿下」

慌てて手を振り否定する若い兵士達。


「だったら尚更悪い。部隊長、もっとみっちり鍛えてやれ」

「はっ、かしこまりました」

ガタイの良いシビルズ兵士の顔に苦笑が浮かぶ。

訓練兵といえど、二人も膝をつかせてしまった。なんとも釈然としないが、少しは気が紛れる。やはり体を動かすのは良い。



「凄まじい勢いですね、ルイス王子」

訓練場の入口から、コーディの声が近づいてくる。


「どういう意味だ?」

「特に深い意味はございません」

「お前は私をからかいに来たのか?」

「いえ、全体会議の予定をお知らせに来ました――明日の午前中に行います」


社交界シーズンも終わりを迎え、土地持ちの貴族たちは領地へと帰還する。そんな時期の招集だ。それなりに時間がかかると思ったのだが……


「早くないか?」

「どうやら察知していたようで」

「耳ざとい連中だ、忌々しい」

「ルイス王子、お控えください ――どこで聞かれているか、わかりませんからね」

「……かわいくないやつだな、お前」

「失礼いたしました」

コーディの形式ばった態度は、逸らした顔の向こうへ追いやった。


思わず向けた視線の先、伴を連れた御人が現れた。


国王によく似た琥珀の目と、王妃によく似た長めのブロンド。


「フレデリック、兄上?」

「やあ、ルイス。こんな所にいたんだね」

優しげな笑みを浮かべるのは、シビルズ国第一王子フレデリック・フェアバンクス――私の兄上だ。


「失礼いたしました、フレデリック殿下」

慌てて跪く。後方からも同様の動きを感じる。


「顔を上げてルイス、ここに玉座はないよ。皆も楽にしてくれ」

「はっ、仰せのままに」

「ふふっ、これで話せるね」

あどけないな声に雰囲気が和らいでいく。控えているコーディと兵士達の緊張も、ほぐれているようだ。

我が兄フレデリック――“魅惑の君” そう呼ばれているのを聞いたことがある。


兄上はぐるりと訓練場を見渡すと、何か気付いたように口を開く。


「剣術の特訓かい? 次は私が相手をしようか」

「あ、ありがたいお誘いですが、御身に何かあられては、臣民に不安が広まりましょう」

「そうか、では馬で駆けようか」

「……はっ、それならば喜んでお供いたします」

「うん」

ニコリとした屈託のない笑み。ホントにこの人は……



*  *




芽吹きの葉が視界を彩る平原。馬の駆け足が小気味良く響き渡る。春になったばかりのせいか、肌を撫でる風は、まだひやりとしている。


開けた場所に着いた頃、兄上は護衛隊長を呼び寄せた。


「すまないが、少し二人きりにさせてくれないか」

「フレデリック殿下それは……」

「たまには兄弟水入らずで話しをしたいんだが、ダメか?」

「わ、わかりました。ですが、見える範囲でお守りさせてください」

「ああ、頼りにしているよ」

すごすごと下がる護衛隊長。歴戦の猛者のような体格をしているけど、兄上には敵わないのか。


「フレデリック殿下、よろしいのですか」

「ルイス、堅苦しいのは無しだ。降りて話そう」

「……はい、兄上」

兄上に合わせあぶみを外し、若草に足を下ろした。



手綱を握りながら横に並ぶと、兄上はゆっくりと口を開いた。


「父上から聞いたよ。まさかフローラ嬢から別れを切り出すなんてね」

珍しく憂いを帯びた兄上の表情に、胸がずきりと痛む。


「端から見ていると、そんな予兆はなかったんだけどね」

「それはどういう意味ですか?」

兄上はぐっと視線を合わせ、不思議そうな顔をしている。

まるで、“お前は何を言ってる?” とでも言われているみたいだ。


「お前たちが揃うと、一帯が甘い雰囲気に包まれるんだよ」

「……は?」

「道行く者は足を止め、見入り、頬を赤く染め上げていく。それはまるで“恋の息吹”……いや、“咲き誇る愛”――どうやら自覚はなかったようだね」

茹だるほど顔が熱い。まさかそんな風になっていたとは。


「だからこそ不思議でならない。フローラ嬢から婚約破棄を宣言したなんて」

とんだ理論だけど、なぜか反論できない。ただ、兄上から見ても、違和感があるという事なのか。



ふと冷たい風が吹き抜け、草木がざわめく。

兄上は風を追うように山間を見やり、口をつぐんだ。


「兄上?」

「ルイス、この一件、もっと別の疑念が浮かんでこないか」

「と、言いますと?」

「アラスター・ナイト辺境伯。父上の戦友とは聞いていたが、なかなかどうして、食えない御仁なのかもしれないね」


兄上が、ゆっくりとこちらを向く。

ブロンドの髪が、さらりと流れる。


「本当に、何も聞いていないのだね?」


ぞくりと背筋をなでる、冷たい声。

心を見透かすような、琥珀の眼。

抗えない、威圧感。


たじろいだその時、不意に手綱が締まる。

耳をつんざくいななき。棹立さおだつ馬体。


「うおっと! どうどう!」

慌てて馬体を抑えつつ、そのまま答える事しかできない。


「……私は、何も聞いていません」

「そうか、だったら待つしかないようだね」



手がかりらしきものはある。それはフローラの古風なハンカチ。本当に忘れただけなのか、それとも置いていったのか。兄上だったら、お分かりになるだろうか?


「兄上、実は――」

「すまない、ルイス。答えづらい事を聞いてしまったね」

「あ、兄上?」

「そろそろ戻ろう。皆心配している」

振り返る事のない兄の背を見つつ、地を蹴り鞍に腰を落とした。


蹄の音が散る中、護衛と合流するまで会話はない。ほんの数十秒、こんなに長く感じる事があろうか。



「皆、待たせたな。お陰で良い語らいができた」

朗らかな雰囲気が漂う。まるで別世界のよう。

くるりとこちらを向く琥珀の瞳。

そこには、いつもの優しい兄上がいた。


「ルイス、また私と遊んでくれないか?」

「ええ、喜んで ――兄上」


ホントにこの人は……



本エピソードをお読みいただき、ありがとうございます。

本日夜にもう一話幕間を投稿しますので

引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ