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幕間:忠臣の帰還(バーナード・ノックス視点)

時系列は、ルイス部隊とオースティン部隊がワイルズ王都に入る前からです。

今回人物名が多めなので、以下国別人物紹介です。


[シビルズ国]

ルイス・フェアバンクス第二王子:本編主人公


[ワイルズ国]

ギデオン・バーグマン第一王子

バーナード・ノックス侯爵:王都貴族

チェスター・クレイグ辺境伯:西方辺境領主

レイバン・オースティン伯爵:北方領主


山間から覗く白んだ朝日。ひやりとする風の中、北東領の東門前に、ずらりと揃った混成部隊。シビルズ部隊の指揮をとる王子に頭を垂れる。


「それでは、ルイス殿下。お先に参ります」

「健闘を祈っている」

「はっ」

他国とは言え同盟国の王族。期待されるとは良いものだ。年甲斐もなく弾む気持ちを抑えつつ馬車へと乗り込んでいく。


「準備はいいな?」

「ああ、出してくれ」

同乗するチェスターの合図で、ワイルズ先行部隊が動き出した。

ゆるりと抜ける東門。小刻みに聞こえる蹄。車輪から伝う振動。久しくなかった昂ぶりに心地よく響いてくる……いかんな。少々冷静にならねば。



✽  ✽



北東領を出てしばらく、道程は問題なく順調ではある。だが、どうも座りが悪い。気づいたのか、チェスターが苦笑を浮かべている。

「落ち着かないな」

「まあな。私は馬でも良かったんだが……」

「辺境伯が馬車で侯爵様が馬では、格好がつかんだろう」

「貴族というものは面倒なものだな」

「まったくだ」


これからの事を思うと、雰囲気はやけに明るい。チェスターにも緊張は見られない。少々浮ついている気もするが――


「バーナード、着いたようだ」

ぐっと引き締まったチェスターの声。

小窓を覗くと、遠目に見えて来たのはワイルズ王都門。どしりとしたその姿に、頼もしさを覚えていたが、いつもと様相が違う。何か阻まれているような、威圧感すら感じる。



馬車の速度が落ち、王都門が近づいてくる。合わせるような集まって来る衛兵達。

指先に触れる冷たいガラス。“きぃ”と鳴る窓枠。どきりと打つ鼓動。


「これはノックス侯爵殿。先触れよりクレイグ辺境伯殿もご一緒とお伺いしましたが?」

「……ああ」

衛兵の視線が逸れ、車内を確認している。


「それと、これより後続もある」

「後続ですか。家名をお伺いしても?」

「オースティン伯爵だ。北方勢力を率いている。失礼のないように」

「はっ、かしこまりました」

にわかにざわめく王都門が遠ざかっていく。

思わずため息が漏れ出る。ふと見合わせたチェスターの顔からは、苦味が消えてなかった。



そのまま王都の街を抜け、王城門に差し掛かる。城兵が現れ検問を受けるが、止められる事はなかった。

城門を過ぎた頃、チェスターが静かに口を開いた。

「やはり上官兵が見えないな」

「ああ、おそらく王の間だ」

「近臣と兵力で威厳を示すか……最大戦力の集結だな」

「なに、その分後続が楽になるというもの」

「そうだったな」

和らぐ表情。程よい緊張が漂う中、馬車は止まり、王城正門が見えてきた。



「バーナード、戻ったな!」

王城内に響く野太い声。ワイルズ東方に走った同志達だ。


「遅くなった」

「なに、我々も今しがた到着したところだ」

「首尾は……聞くまでもないな」

「ああ、お互いに順調で、何よりだ」

にやりと浮かぶ、いくつもの笑み。


「よくぞ参られた、クレイグ辺境伯」

「いえ、旧い友にねだられましてな」

悪い顔がこちらを向く。合わせるように上がる野太い声。

「良き友をもったな、バーナード! 無事終わった暁には、ねぎらってやらんとバチが当たるぞ?」

「あ、ああ、もちろんだ」

じろりと睨むも、悪びれもなく肩をすくめるチェスター。まったく……

すっかり和んでしまった空気を感じながら、呼吸を整える。


「では良いな同志諸君――ギデオン殿下の下へ参ろう」

「応っ!!」



✽  ✽



重厚な扉が開き、真っ赤なカーペットが出迎える。左右に控えた近臣と、これでもかと備えられた兵士達……やはり上官位の者が揃っているな。


同志達と共に一歩、また一歩と踏み出し、今の主の下へ跪き頭を垂れる。

「バーナード・ノックス。ただいま帰還し、チェスター・クレイグ西方辺境伯をお連れいたしました」


一呼吸置き、降りかかる声。

「顔をあげよ」


ぎらりと光る青の瞳。

「よくやってくれた。ノックス侯」

「はっ、ありがたく存じます」


ギデオン殿下の視線が、右隣に逸れる。

「よくぞ参られたな、クレイグ辺境伯」

「はっ、このように出迎えられ、恐縮至極に存じます」

「準備は万全であると、一目瞭然であろう」

「仰る通りでございます」


満足そうな表情が、再びこちらを向く。

「他にどれほど集まった?」

「オースティン伯を筆頭に、北方の勢力を集めて参りました」

「ほう、それは良い」

獰猛な笑み。まさに強者の顔。

ぞくりとしたものが背筋を走り、不安がよぎる。

いや、策は十分に講じた。盤面も揃っている。後は事が起こるのを待つだけだが……



「よくぞ参られた――」

次々と挨拶が交わされ、王の間がにわかに沸き立っていく。控えた近臣達からも伝わる静かな熱気に、ただただ焦りが増していく。


途端、“どん”と開け放たれる扉。皆の視線は、飛び込んで来た兵士に注がれた。

「し、失礼致します! 緊急の報せがございます!」

「貴様……無礼にも程があるぞ!!」

睨みを効かす近臣に、ギデオン殿下が制止する。


「良い――何があった?」

「はっ、オースティン伯を筆頭に北方領の皆様が来訪されたのですが……」

「ああ、それならばそのまま通せば良い」

「それが、シビルズ国の馬車も同行していると」

「なんだと?」

驚きを隠せない様子のギデオン殿下。どよめく近臣達をよそに兵士は続ける。

「さらに部隊は、王城に向かわず、離宮の方へ向かったようでして……」


「り、離宮だと?!」

「誰が許可した!!」

「今すぐ止めろ!」

「い、いえ、馬車はもう既に離宮庭内に……」


――来たな。

だが既に離宮に向かっているとは、速いな……レイバンめ、無茶しおって。

思わず気が緩んだ時、高座から声が降ってきた。


「ノックス侯、貴様か?」


息を呑む。たじろぎそうになる……耐えろ。頭を垂れるんだ。

「ご明察の通りでございます」


どよめきが一層大きくなる王の間。

「どういうことだ!?」

「なんてことを……」

「ノックス侯! 答えられよ!!」


轟々と声を上げる近臣達から怒気が溢れ、敵意までも混じる。対するように高まる同志の警戒――逸るなよ。


背後から、ごおんと大扉が開く音。ざわめきが一つずつ消えていく。

ただ、ギデオン殿下の声だけが響き渡った。


「父上……」



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