幕間:囚われの者達
時系列はEP16にて、王都作戦会議後です。
いよいよ明日ワイルズ王都へと向かう。各々の役目を確認し準備は万全だ。空も既に真っ暗になっている。明日に備え、お開きにした方がいいだろう。
「では、明朝。皆、頼むぞ」
そっと手が上がる。ノックス侯だ。
「ルイス殿下、少々よろしいでしょうか」
「なんだ?」
「一つご留意いただきたい点がございます」
じっと見つめる視線。言い知れぬ圧に思わず息を呑む。
「聞こうか」
「はっ、ワイルズ国第二王子殿下の事です」
「第二王子だと?」
思わぬ存在に緊張が走る。
「ハロルド国王が退けられてから間もなくの事です。ギデオン殿下により、実弟である第二王子殿下も同様に囚われております」
「なんと……」
当時の状況を考えれば、政権はまだ不安定。別の勢力に担がれないためだろうか。それとも――
「第二王子殿下は私室にて監視下にあるだけですが、十にも満たぬ身。心身共に疲弊されているのではと……」
「ふむ」
「万一の場合ですが、シビルズ国治癒師の力をお借りしたく存じます」
頭を垂れるノックス侯。白髪がはらりと垂れ、その切実さが伝わる。
ちらりと見たナイト辺境伯は頷いている。どうあれまだ見舞いの使者だ。その対象が王子が含まれても大きな問題にはならないだろう。
「わかった、覚えておこう」
「おお、感謝申し上げます」
ギデオン・バーグマン第一王子か。本当に抜かりの無い男だ。囚われの身にあるものが、まだ居るとはな。
ふと思い出すのはフローラの事。ギデオンの口約とはいえ、婚約者としてワイルズ王城にいるはずだが――
「ルイス殿下、どうかされましたかな」
「何がだ?」
「いえ、お顔の様子が優れないようでしたので」
気遣うようなノックス侯の表情。
これは機会か? フローラの事を伝えれば、救出も早まるだろう。だがどこまで伝えたものか。
「そうだな、私からも話しておく事がある――シビルズ国令嬢フローラの事だ」
視界の端、ナイト辺境伯がぴくりと動く。
ノックス侯も神妙な面持ちのまま、口を開いた。
「ええ、聞いております。ギデオン殿下と婚約されたと」
ずきりとした痛みが、胸を刺す。
「彼女は私の――」
“元婚約者だ” なんて、無意味だな。
「ルイス殿下?」
「いや、ナイト辺境伯の御息女だ」
「なんと!」
声を上げるノックス侯。クレイグ辺境伯とオースティン伯爵も目を見開いている。
「そもそも婚約だが、ギデオン殿下の口約に過ぎない」
「そうでありましたか……」
「ああ、ハロルド国王が復権されるのであれば、取り戻したい――無傷でな」
ノックス侯は眉を寄せると、クレイグ辺境伯と顔を見合わせている。オースティン伯も唸りながら頭を捻っている。
無茶な頼みだというのは、重々承知している。そもそもフローラが今どういう状況であるかもわからないのだろう――だが彼らは断れないはずだ。
「……可能な限り、尽力いたしましょう」
「よろしく頼む」
これで良い。少しでも、彼女のためになるのならば。
一段落と言った雰囲気の中、ノックス侯が口を開いた。
「ルイス殿下、一つお聞きしてもよろしいですか」
「ああ」
「フローラ嬢は、ルイス殿下にとってどのようなお方なのでしょうか」
「なんだ、やぶからぼうに」
「“取り戻したい”と仰られていたので」
「……あっ」
ぼっと顔が熱くなる。難しい顔をしていたワイルズ老臣達の表情が緩んでいく。
――落ち着け。不快を態度で示すんだ。
ノックス侯達から視線を反らし、背筋を伸ばす。
「そ、それは……内省干渉だ」
「これはこれは、失礼をいたしました」
からかうようないくつもの笑い声が、ワイルズ王都近郊の夜闇に響いていた。




