表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/26

EP09.心の置き場


山間から差し込む柔らかな日差しに、瑞々しい新緑の葉が、きらきらと映えている。

朝食を堪能し、客間にて食後の紅茶を一口。ほどよい温度と芳しい香りが心地よい。


――こんな事をしていて、良いのだろうか。


ナイト辺境伯領に到着してから五日が過ぎようとしている。

見舞いの使者としての準備は万端だが、今のままでは入国どころか接近する外交的理由がない。

先触れの使者として、ヒューゴがワイルズ国に向かっている。

待つしかない。わかってはいるが、気が急いてしまう。


「ルイス殿下」

控えていたコーディが、気遣わしげに声をかけてきた。


「どうした?」

「いえ、今朝は何度もため息をつかれていたので」

「そうか、気づかなかったな」

「焦られるでしょうが、気疲れしてしまいますよ」

「……そうだな」


考えないようにしても、心配事は尽きない。


本当にワイルズ入国の許可は下りるのだろうか。

そして、私は国王の名代として、務めを果たせるのだろうか。

それに、フローラは無事でいるのだろうか、と。


――このままではダメだな。

ため息を飲み込み、コーディを見据える。


「少し体を動かす。辺境伯に訓練場の使用許可を頼んでくれ」

「……かしこまりました」

王族たるもの、堂々としていなければならないのは解っているが、どうも余計な事を考えてしまう。こういう時は、剣でも振るうのが一番だ。馬で駆るのもいいな。


久しくない心の弾みを感じていると、部屋に響くノックの音。

“入れ”と入室を促すと、現れたのは辺境伯だった。



「ルイス殿下、失礼いたします――バトラー閣下がお戻りになりました」


どきりと跳ねる胸。浮ついていた心が一気に冷え込む。


「……わかった、部屋を用意してくれ」

「かしこまりました」

辺境伯の声は重く響き、ぐっと身が引き締まる。



✽  ✽



「ご無沙汰しております、ルイス殿下」


案内された辺境伯の執務室には、既にヒューゴが控えていた。そして、手ずから渡される書簡。


「こちらでございます」

「確かに。ヒューゴ、よくやってくれた」

間違いない。ワイルズ国の印の入った入国証だ。これでようやく動く事ができると思うと、少々心が浮つく。


「さすがに拒否されなかったようだな」

「同盟国として断る道理はありませんので……」

するりと出た軽口に、ヒューゴの鉄面皮が揺れる。

嗜めるように、こほんと咳払いをするコーディ。

わかっている。見舞いの使者を拒否するならば、それは外交不可と同義。国として、対処せざるを得なくなる。



「時にヒューゴ、かの国の様子はどうだった」

「やはりハロルド国王陛下の謁見にはならず、ギデオン殿下による対応でした」

「陛下の体調が優れない、という事か」

「そのようです」


先触れの使者相手ではそれも許されよう。しかし私は国王の名代としての見舞いの使者。臥床の上だろうが一目だけでも、その身を現すのが外交儀礼だが……果たしてどうなる事やら。


「それと、こちらの要件を伝えた所、警戒が強まったように感じました」

「同盟国とは言え、他国の部隊が接近するんだ、面白くはないだろう」

「仰る通りでございますが……大切な御身です。くれぐれもお気をつけた方が、よろしいかと」

「十分注意しよう。ご苦労だったな、ヒューゴ」

「ありがとうございます」

「疲れている所すまないが、明日からシビルズ王都へ向かい、国王にも伝えてくれ」

「心得ております。お任せくださいませ」


会釈するヒューゴを横目に見える辺境伯。自然と重なる視線。


「辺境伯、明日我らも出るぞ」

「はっ、かしこまりました」




✽  ✽  ✽




ナイト辺境伯領を出発し、緩やかな山道を抜け一日。国境に降り立つと、春とは思えない寒風が吹き、刺々しい葉をつけた木々が揺れる。


「当たり前だが、シビルズとは景色が全く違うな」

「ここよりさらに北上しますと、木々の無い土地もあるようです」

ナイト辺境伯が指差す先には、緑に萌えた無骨な山肌だけが広がっていた。

本当に他国に来たのだと実感する。


そうこうしている内に、複数の人影がこちらに向かってくる。おそらく取り次ぎを願っていたワイルズ国西方辺境伯だろう。



「ルイス殿下、大変お待たせいたしました」

「こちらこそ、急な願いを受け入れていただき、感謝申し上げる」

ワイルズ国西方辺境伯は軽く会釈すると、やや困り顔で口を開く。


「ただ、なにぶん山奥の土地でございます。歓待の準備も難しく……」

「構わない。明日経つ故、それまで滞在できる場所があれば十分だ」

「左様でございますか。では、こちらへどうぞ」



案内されたのは、豪奢な造りと上等な調度品で飾られた迎賓館。上位貴族が滞在するには十分だろう。それに使用人の教育も行き届いている。


「では、ごゆるりとお過ごしくださいませ」

冷ややかな視線と、やけに遠い距離感。他国の王族対応と考えれば問題はないだろう。ただ私は、“同盟国の国王を見舞いに来た使者”でもある。拭えきれない違和感がある。


ふと思い出す西方辺境伯の姿。貴族然とした応対の中、微かに感じた厳しい視線。

あれは、警戒? 当然といえば、当然なのだろうか。


「ルイス王子。明日も移動になりますので、今日は早めにお休みくださいませ」

「……ああ、そうだな」

コーディの言う通りだ。明日にはここを出るんだ、さっさと休んでしまおう。


楽しむ間もなく夕餉を済ませ、用意された上等な客間に下がる。

まとわりつく居心地の悪さを、やり過ごすようにワイルズの朝を迎えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ