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EP07.点と点


一波乱の余韻が残る会議室。国王が提示したワイルズへの輸出制限は、貴族の同意を得て決まった。それからは詳細を詰めるべく、貴族達は頭を捻り、文官達が奔走している。


私は口を挟む立場にない。父上の側で見学だ。

ふと視界の端に、様子の違う文官が一人。資料も待たず、青ざめた顔をしてヒューゴに近づいて行く。


何か嫌な予感がする。


ヒューゴは顔色を変えず、父上にそっと耳打ちをした。

父上はぐっと眉を潜めると、唸るような声を出す。


「ナイト辺境伯が、王都に?」


はっ? 辺境伯? ……いや、抑えろ。

ただ、貴族達も目を見開いている。

会議室に動揺が走る中、父上の咳払いが響く。


「どうやら書簡を持参しているようだ……国家に関わる情報だと」


貴族達のどよめきが大きくなる。戸惑いだけでなく、侮りを感じる。まだ辺境伯への疑念は、完全には晴れていないようだ。


これは、まずいな……私にできる事は無いのか?


不意に感じる視線。

やわらかな琥珀の瞳。

兄上が笑みを浮かべている。


“お前の出番だ”

そう言われているようだった。



「畏れ入ります、国王陛下。私がナイト辺境伯を迎えてもよろしいでしょうか」

ゆっくりと、国王と目が合う。

じっとりと、貴族の視線を感じる。


「良いだろう。お前に任せよう」


国王に頭を垂れ、足早に会議室を後にする。



✽  ✽



――シビルズ王城 使者待合室



「久しいな、辺境伯」

「ご無沙汰しております。ルイス殿下」


軽く乱れたブルーグレイの髪。

額に薄っすらと光る汗。

急いで馬を走らせたようだな。


「早速だが、何やら重要な情報があると聞いた」

「こちらにございます」

テーブルにそっと置かれる書類、というより資料だな。手に取りざっと目を通す。


軍部隊の編成のようなものと、大陸山岳部から東部にかけての地図。

部隊の配置と……この線は、移動経路か?

「軍関係の資料のようだが、シビルズ国のものではない――山岳部にあるワイルズ国のものだな」

「お察しの通りでございます」

「これが我が国と何の関係が――」


『肥沃な平野……』

『地政学的に……』

『――ああ、狙いは東方か』


今までの記憶が巡り、一つの答えにたどり着く。

「オーディナルズ国への侵攻?」


思わず漏れ出た言葉。

いや、まさかな。


慌てて否定しようとした時、ナイト辺境伯は、何も言わず静かに頷いた。

よく見ると、先ほど父上の側で見たばかりの輸出品の記録もある。並べて見れば、まるで兵站ではないか。



それともう一枚。これは覚書のようだが……


『ワイルズ入国以降、国王の謁見なし』

『城内にて、国王のお姿見られず』

『国王の私室に見張りあれど、人の出入りなし』

『離宮にて、厳戒警備と使用人の出入りあり』


「……これらの情報は、事実か」

「ナイト家密偵による情報でございます」

代々辺境伯家はシビルズ国を守っている。それは、優秀な兵士だけでは成し得ない。諜報部隊も凄腕が揃っていると聞く。


「国王陛下に急ぎ伝えよう」




✽  ✽



「ルイス、殿下……」


会議室に戻ると、貴族達がぎょっとした顔で出迎えてくれる。

それもそのはず。手ぶらで使者を迎えに行った王子が、いくつもの書類を抱えて戻って来たのだから。まるで文官のようだな。


「国王陛下。見て頂きたいものが、ございます」

どこか満足そうにも見える父上だったが、資料に目を通すと、次第に険しくなっていった。


「……辺境伯をここに」



会議室に現れた辺境伯は、堂々としていた。貴族たちの睨めるような視線を浴びながらも恭しく跪き、国王の言葉を待った。


「辺境伯よ、単刀直入に聞く。これは、まことか?」

「はっ、間違いなく」

「にわかに信じがたい内容だが、ナイト家諜報部隊によるものだな」

「仰る通りにございます」

「相変わらず優秀な者達のようだ ――卿の指示か?」

「……ご明察の通りで」


ふと父上は苦笑を浮かべると、呟きが漏れ出た。


「やはりな。お前らしい」


微かな声。ぴくりと肩を揺らす辺境伯。

父上は視線を上げると、貴族達を見渡した。


「皆、聞け。ワイルズ国は今、オーディナルズ国侵攻を進めている」


「なんと?!」

「そんな、まさか!!」

貴族達から、悲鳴にも似た驚きの声が上がる。


「さらに、ハロルド国王陛下は、幽閉されている疑いがある」


水を打ったように、静まり返る会議室。

誰もが声を失い、微動だにできていない。


王の不在。王子の暴走。同盟国への介入と侵攻作戦。

点と点が、繋がっていく。



「我が国としては、同盟国オーディナルズと、ワイルズ国盟主ハロルド陛下のためにも、動かざるを得ないな」

朗々とした父上の声が響く。


「だが、物事には順序というものがある。ハロルド国王陛下は体調が優れないと聞く。それと病かもしれないと――まずは見舞いの使者を送るとしよう。ヒューゴ、先触れを頼めるか」

「かしこまりました」


恭しく頭を垂れるヒューゴ。

間を置かず、父上の目が私を捉える。


「ルイスよ。お前はナイト辺境伯を伴い、余の名代としてハロルド国王陛下を見舞ってくれ」

「私が、ですか?」


どくんと胸が跳ねる。


「お前は辺境伯を信用に足ると報告したな。その決断が如何なるものか、己が身とまなこで見定めてみよ」


試されている。

ぐらりと倒れそうになる。

耐えろ、厳かに、跪け。


「仰せのままに」


じっとり滲む汗。

らしくあるべく耐える中、父上の優しげな声が鮮明に響いた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


本日夜に幕間を一話投稿します。

引き続きよろしくお願いします。

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