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EP01.最後のお茶会


やわらかな日の光が照り、潮風香る王城の庭園に先触れの声が響く。


「フローラ様が見えました」

白いドレスをまとった辺境伯令嬢フローラ――私の婚約者。


「本日もお招き頂き、ありがとうございます。ルイス王子」

ふわりと浮かぶフローラの笑みに、心が浮つき言葉が詰まる。


「あ、ああ。よく来てくれた」

日に日に美しくなっていくフローラ。幼い頃から知っている仲だが、つい緊張してしまう。

強張る腕。固まる足。

なんとか彼女の手を取り、ガゼボへエスコートする。我ながらぎこちない。


いつもの流れだが、今日はどうも落ち着かない。フローラの様子も違うような。

控えている私の側近達も違和感に気づいたのか、空気が張り詰めていく。



「ルイス王子、大切なお話がございます」

「どうした、改まって」

フローラは一呼吸置き、決断したように口を開く。



「ルイス王子、あなたとの婚約を破棄させてください」


「……は?」


「わたくしは、ワイルズ国ギデオン王子殿下に嫁ぐ事になりました」



淡々としたフローラの声だけが響く。

彼女が立ち上がるのを、ただ見つめる事しかできない。

 

「それでは、永遠にさようなら。第二王子様」


この国で一番美しいカーテシーが目の前で揺れる。

ふわりと流れるプラチナブロンドの長い髪。

きらりと光る睫毛と、潤む瞳。

可憐な後ろ姿は振り返る事なく、立ち去って行った。


代わりに控えていた側近達が、慌てふためきながら迫ってくる。


「殿下!これはどういう事でしょう?!」

「国王陛下から何かお聞きで?!」

「ルイス王子!!!」


大勢でそんなにわめかなくても聞こえている。

何が起きたのかは、私の方が知りたい。

婚約者とのお茶会だったのに、突然の婚約破棄?

それに新たな嫁ぎ先が、ワイルズ国だって?


かの国は、かつて戦火を交えた隣国。国境にある辺境伯領は、我が国防衛の地。だからこそ、私とフローラの婚姻には、大きな意味があった。それなのに――


「……ワイルズに嫁ぐのは、無いだろう」

思わず呟いた言葉に、側近の一人が反応した。


「ようやく出した言葉がそれですか?」

眉間にシワを寄せる筆頭文官コーディ。幼い頃から知っている仲とは言え、ちょっと無礼が過ぎないか? お陰で頭が覚めてきたが。


「……わかっている。父上に、国王陛下に急ぎの話があると、伝えてくれないか」

「かしこまりました」

コーディは恭しく頭を垂れ、足早に庭園を去っていく。

誰もいなくなった庭園。とりあえず自室に戻ろうか。



「ん、あれは?」

ふと、フローラが座っていたイスに目がついた。

座面にぽとりと置かれた、年季の入ったハンカチ。

見覚えのある古風なデザイン。間違いない。


「フローラの母君の形見……」




*  *


――過日のお茶会にて



「これを、わたくしに?」

テーブルに置かれた木箱には、きらびやかな刺繍で飾られたハンカチが収められている。


「いつも大切そうに持っていたから、好きなんだと思ったんだ。最近の流行りのようだぞ」

我ながらぎこちない。フローラも戸惑っているようだ。


「 気に入らなかったか?」

「いえ、そうではありません――実を言うとこれは、母の形見なんです」

フローラは、いつも身につけているハンカチを手に取った。


「今では古風なデザインですけど、幼いわたくしは気に入ってしまって、母にねだったのです」

昔を思い出すように、フローラの指がハンカチをそっと撫でた。


そうだ、彼女の母君は若くして病に倒れたんだった。


「……すまない、余計な事をしてしまったな」

慌てて木箱に手を伸ばすと、フローラの手が優しく添えられる。


「いいえ、それはそれ。これはこれですわ」

気がつくと、うれしそうに木箱を抱えるフローラがいた。



*  *



フローラが大切にしていた、古風なハンカチ。


これは、彼女の母との思い出そのもの。


それを、ただここに忘れただけ。


――本当に?



「ルイス王子、まだこちらでしたか」

さらりと揺れる茶髪と、額にうっすらと滴る汗。呆れ混じりの声が響く。


「コーディ、どうした?」

「どうした、じゃありませんよ――国王陛下の許可を得ました」

「早いな」

「ええ、急ぎましたから」

凄みのある笑顔。随分と器用な事をする。

いや、関心している場合じゃない。早急に父上、国王陛下に事実確認をしなければならない。


「はあ……」

自然と漏れるため息。

父上と会うのは嫌いではない。だが、こんな憂鬱な謁見があるなんてな。


古風なハンカチを懐に入れ、歩みを進める。


視界の端を過ぎていく庭園は、色を失って見えた。



まずはEP01をお読みいただき、ありがとうございます。

いかにも令嬢系テンプレから始まってますが

サックリスッキリとした、ざまぁ展開はありません笑

ゆっくりとですが、最後までお付き合いいただければ嬉しいです。


本日より5日ほど連日投降の予定でございます。

引き続きよろしくお願いします!


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