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嘯くヨタカ  作者: イタノリ


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新生活の準備

 ふと疑問が思い浮かんだ。なぜ、人身売買組織はカスミを狙ったのか?他にも、攫いやすい子供なんていくらでもいるはずだ。まさか、わざわざカスミを狙ったのか?


「なぁ、水天坊。人身売買組織はわざわざ、カスミを狙った。なんてことはないだろうな」


 私の言葉に、運転中の司が視線で反応した。バックミラーには私を見据える映る視線が映っている。


「いやはや、女の勘、というものでしょうか。鋭いですね、その通りですよ。現在我々が内偵している人身売買組織にわざわざカスミちゃん誘拐を命じた人物がこの国にいます。現時点で、カスミちゃんを菩薩の転生者として認識しているかは定かではありませんが、悪魔教の熱心な信者であることは確認済みです。何か、悪魔から情報を仕入れているのかもしれませんねぇ。と、ここまで言えば、刑部(ぎょうぶ)やヨタカが動く理由に納得していただけますか?」


「くそが。やっぱり面倒くさいことになった」


「事情は複雑ですからねぇ。ともかく、今はカスミちゃんを守らなければいけません。この国の、引いては現世のために。ということで、よろしくお願いしますね、ツバキさん」


 あ〜タバコが吸いたい。怒りやストレスでどうにかなってしまいそうだが、それすらも通り越して、無気力になってしまう。力無く車の窓に身を委ねると、コツンと頭が窓に当たり、おでこがひんやりして少しばかり気持ちがいい。窓の景色を見てみると、私達が乗ったワンボックスは、どんどんと都市の中央部へ向け走っていくのが分かる。街灯が増え、街の明るさが増していくにつれ夜だというのに人の姿が増えてくる。


 私達ヨタカの根城は、この大都市の中心地にある。その理由は、管轄する区域はこの都市一円であり、中央にいればどこにでも行きやすいという、実に単純明快なものだ。住まいは、都市であればどこでも見かけるような、ありふれた雑居ビルの最上階と屋上が私達の根城になっている。


 私とボタン、そして地蔵が住んでいるこの根城に、子供が一人入り込んだところで生活空間が圧迫されることはない。でも、子供が生活する環境として果たして相応しいものだろうか。細かいことは追々考えることにして、その前に必要なものを買わなければ。


「へい、運転手さん。根城に行く前に、近くのスーパーに寄ってくれる?」


「どうした?何か入り用なのか?」


「ただの買い物よ。私たちは特に必要としないけど、カスミに食べさせるものが根城には何もないのよ。この子の日用品だって用意しなきゃ。子供に不自由させるわけにはいかないんだから、運転よろしく」


「そうか、承知した」


 司は素っ気なく答えると、ハンドルを切り進路を変更した。これだけの大都市だ。深夜であっても店を開けているところはいくらでもある。最寄りのスーパーに寄ったところで、私は一人車を降り、店へと入った。地蔵とボタンは眠っているカスミの面倒を見るのに車でお留守番。水天坊は護衛の為、そして、みるからに姿が不審者なので、同じくお留守番。司は・・・。どこに行った?


「よし、カゴとカートは準備したぞ」


「なんであんたまで車降りてるんだよ。護衛はどうした?」


「水天坊がいれば、大丈夫だ。それに、俺だって日用品を買い込まなければ。しばらくは少女の護衛のために共同生活となるので、よろしく頼む。ちなみに、経費は刑部で持つから、遠慮なく必要なものを揃えろと水天坊からの伝言だ」


「ちょっと待ちな。女の花園に野郎が入り込もうってのかい?」


「気乗りしないのは分かるが、これも任務のためだ。不測の事態に警察と連携するために、俺を待機させると刑部からの注文もある。ということで、しばらくは共同生活になるのでよろしく頼む」


「聞いてないわよ、そんなこと」


「当然だ、今しがた決定した事だからな」


 おのれ、刑部め。どこまで面倒ごとを増やしてくるのか。だが、もうこれ以上心を乱しても詮方ない。ともかく、食材を買わないと。


 私達は店内を周り、必要な日用品と食材を次々カゴに放り込んでいく。司は自分用とカスミの日用品を、私は食材を選んでいくが、司はしげしげと食材を見ては眉を顰め、頭を傾げていた。


「ツバキさん、なぜこれほどの量の食材を買うのですか?」


「なんでって、そりゃ子供をしばらく預かるのなら、三度の飯はしっかり食べさせなきゃ。育ち盛りだし、いい物食べさせてやろうと思ってね。金は刑部もちなんだしね。それに、あんた見たかい?あの子の顔を。かわいそうに、あんなに痩せ細くて見てられないよ」


「確かに、か細い子供だとは思ったが。それにしても、随分と食材が多いような・・・」


「そりゃそうさ。一気に大所帯になっちまったんだ。本来、私達(あやかし)や地蔵は食事を摂らずとも平気だけれど、だからといって、カスミにだけ食事を用意して一人で食べさせるなんて、そんな寂しい思いをさせることができるものですか。あんたがウチに来るのは納得してないが、共同生活というなら、ちゃんと食事の時は顔出しな。あの子に寂しい思いをさせないようにすること。いいね」


「承知した。なるほど、まるで母親だな。護衛というものは奥が深い」


「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ。ほら、さっさと行くわよ」


 私は買い物カゴを押し、レジで精算を済ます。買い物の量は一回の買い物としては確かに多いが、思いがけず新生活を迎えることになったわけだし、まあ、いいか。


「はい、じゃあ荷物持ちは男の役目ってことで、よろしく」


「ちょっと待て。この量はさすがに1人では持ち切れないぞ」


「情けないこと言うな。根城にいさせてやるんだ。子供の世話もあることだし、きっちり働いてもらうよ」


「む、それもそうか」


 司は何をどう考えたのか分からないが、勝手に納得している。案外御し易い男なのか?まぁ、それならそれで構わない。まだまだ必要な物は多いが、それはまた明日以降に買い足すとしよう。

 

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