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嘯くヨタカ  作者: イタノリ


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新たな日常

「朝よー、みんな起きなさい」


 母親の朝は早い。朝ごはんの支度に始まり、家族の身支度の手伝いと、やることは目白押しだ。寄せ集めの家族もどき程度でしかなかった根城の面々が、まるで一つの家族としていつの間にか機能していた。その理由はカスミの存在に他ならないのだけど、これが悪い気がしないのが、また複雑な気持ちになる。


 もちろん、警護は現在でも継続して行なっているし、怠ってもいない。敵の動向が掴めないのが気になるけど、今のところ平穏な日常が続いている。


「カスミ、準備できた?」


「はい、できました!」


「よし、じゃあ学校に行きますか」


 今日は私がカスミに連れ立って学校へ行く当番の日だ。周囲の警戒をする為、他の面々も一緒に根城を出る。


「だんだんと秋が深まって来たわね」


 街路樹の葉が少しずつ緑から黄色へと変わり、秋の到来を告げている。道ゆく人も夏の装いから少しずつ秋の装いへと変わり、カスミもまた新しい秋服に身を包み、通学路を歩いていく。


「新しい服はどうかしら?」


 私の問いに、カスミはニッコリと微笑み頷き返す。


「着心地が良くて快適です」


 初めからそうだったが、この子はどうも大人びているというか、不気味なほど聡く、中身が子供とは思えない。地蔵曰く、転生前は菩薩として修行していたから、というのがまず大きな理由らしい。加えて、不幸にも菩薩の転生者という事実を嗅ぎつけた悪魔連中に命を狙われる、この極限状態の生活が精神的成長を促している、ということも大いに影響しているらしい。


 私から見れば不幸な子供でしかないけれど、健気にも逞しく育つカスミを見て母性本能が刺激されるのもまた事実なわけで、実際、今の私は先日カスミにお母さんと呼ばれて以来、内心この子の母親としての意識が根付きつつあった。


「これからもっと過ごしやすくなってくわね。どこかお出かけでもしたい気分になるわ」


「楽しみです!また皆さんと一緒にお出かけしたいです」

 

 そんな可愛いことを言われたら、次回のお出かけも企画せざるを得ない。頭の中は光の速さでお出かけ先の選定にお弁当の献立のアイデアが浮かんでくる。


 他愛のない会話を楽しみつつ、校門に到着。カスミは学校の友達を見つけると元気に挨拶し、その子達の元へと駆けて行く。


「おはよう、カスミちゃん」


「おはよう」


「今日はお母さんと一緒に学校にきたの?いいな〜」


「えへへ〜」


「カスミちゃんを見送ってるのはお母さんだけじゃないよ」


「そうそう。お姉ちゃんやお父さんに、おじいちゃんもおばあちゃんも。順番で一緒にきてるよね〜」


「いいな〜私もパパと一緒に学校に来たいな〜」


 カスミの友達は口々に話しかける。


「カスミちゃんはいいよね、若くて綺麗なママがいて」


 この言葉にはさすがに耳が反応してしまう。若くて綺麗、か。鬼は基本的に不老の存在だ。人間とは体の作りが違うらしく、老いという現象が見られない。昔は鬼も山中に潜み、たまに見かけたものだが、老けた鬼なんて一度も見たことがない。単純に老いるほど長く生きる前に人間や神仏に討伐されていたからかもしれないが。


 とはいえ、綺麗と言われるのは、素直に嬉しく思ってしまう。女の性というものは、鬼になっても変わりはしないらしい。私はカスミが校舎に入るのを見届け、根城へと帰る。途中、気がつけば私は鼻歌を歌いながら晴れやかな気持ちでスキップしている自分がいることに気づいた。


 血も涙もない、神罰の代行者たるヨタカである私が、まさかこんな朗らかな気分でスキップする日が来ようとは。明日は雪か、世界の滅亡か。よくないことでも起きてしまいそうな予感。そして、この予感は的中することになる。


 その夜、例によって私とボタンと地蔵はヨタカの仕事に繰り出した。なんてことない、今までも続けてきた私達ヨタカの汚れ仕事。しかし、最近の私達の仕事にある変化が起きてきた。それは“悪魔憑き”の大量発生。


 外道や人面獣心の人間を葬り去るのが私達ヨタカの仕事だけれど、最近は悪魔に憑かれた人間が悪事に手を染め、事件へと発展するケースが後を絶たない。それは人間が垂れ流すニュースでも取り上げられるほどで社会問題へと発展しつつあるように見えた。


 この悪魔憑き、何が厄介かというと、私達ヨタカが手を下すほどの悪党ではないが、人間の警察組織では手に余る程度の悪事を引き起こすことだ。それはそうだ。神仏がこの国に貼った対悪魔用の結界をすり抜ける程度の微小な悪魔がすること。大した悪事を働く力はない。しかし、人間の手に余る以上、現在刑部は持てる人員を総動員して事に対処しているが、都市に蔓延する悪魔憑きの脅威を取り除けずにいる。そこで、白羽の矢が立ったのが、ヨタカだ。


 地蔵の話では、悪魔憑きに関しては()()()()()程度で十分らしい。ある程度痛めつければ人間の肉体感覚を共有する悪魔は、痛みに耐えかね自然と憑いた人間から離れるそうな。それならば楽な仕事だ。


 夜を待ち、カスミが寝たことを確認し、司に留守を任せて仕事に向かう。地蔵は徒歩で、私とボタンは一足先に摩天楼のビル群を飛び回りながら現場へと向かう。そこはいつもの都市と雰囲気が妙に違っていた。空が慌ただしい。刑部の天狗達が忙しそうに都市の上空を飛び回っている。伝わる妖気からは、懸命に勤めを果たす天狗達の愚痴やボヤキが伝わってくる。


「なんだかぁ、非常事態って感じじゃな〜い?」


 ボタンから気の抜けた妖気通信が入った。


「いくら人手不足だからって、ヨタカ繰り出すほどの仕事なのかなぁ?」


「それは同感ね。でも、地蔵の話だと今のところ死人は出てないけど重軽傷者はそこそこいるみたいだし、何より警察に対処できない化物が跋扈しているのは天界からしたら容認できないのかもしれないわね」


「そういうものですかぁ。でもまぁ、楽できるならいいけどぉ」


「油断大敵よ。なんだか、嫌な感じがするのよね、今のこの都市の空気。いい、ボタン、気は抜かないで頂戴ね」


「ほ〜ぃ」


 今までにない物々しいこの都市の様子は今まで経験したことがない。摩天楼から見下ろす人間達の霊気ですら、僅かだが乱れが見られる。これは見たくなかった兆候だ。大抵、大勢の人間が霊気を乱す時には決まってよくない事が起きてきた、というのが私の経験則だ。人間も直感が鈍っているとはいえ、動物には違いない。無意識や本能というものは確かに存在している。それらが無意識のうちに危険を察知している、というのが私の見立てだ。


「あー、すいません。ツバキさんとボタンさん、聞こえますか〜」


 地蔵からの霊力通信が入った。


「はいよ、こちらツバキ。何かあったの?」


「はい、刑部から連絡があって、すぐ近くで悪魔憑きが見つかったそうです。至急、応援を求むとのことです」


「え〜、刑部のくせにぃ、なに情けないこと言ってんのって感じぃ」


「どうやら、やたらと強い個体が出現したそうですね。現場の情報を思念で送ります。急いであげてください」


 地蔵から現場の地図や風景などの情報がイメージとして妖気を介し直接脳内に入ってくる。なるほど、現場はすぐ近くね。


「行くわよ、ボタン」


「ほ〜ぃ」


 ビルを伝に地上へと降り、裏通りへと着地。ちょうどそこには一体の悪魔憑きが刑部の天狗の胸ぐらを掴み上げ今まさに拳で殴りつけようとしていた。地上に着地した瞬間に踏み込み、悪魔憑きの顔面目掛け金棒を振るった。鈍い衝撃と確かな手応え。けれど、悪魔憑きは微動だにしない。それどころか、ギロっとこちらを睨みつけ、胸ぐらを掴んでいた天狗を私に投げつけ、その衝撃で私は建物の壁まで飛ばされ、背中に痛みと衝撃を感じた。


「お〜、珍しいぃ。ツバキ姉が壁にめり込むほど吹っ飛ばされるなんてぇ。舐めプにしても、やり過ぎじゃない?」


「おかしいわね。別に舐めてるつもりはないのだけれど」


 私は膝の上に寝転んだ天狗をそっと下ろし、悪魔憑きに向き合う。背中にはここ数百年感じたことのなかった鈍い痛みがジンジンと走る。額から冷たい液体が流れる感触。触れてみると、真っ赤な血だ。額から血が滴り落ちている。


 指についた血をそっと舐め取り、意識を改める。


「いつもと感じが違う。気合い入れていくよ、ボタン」


「りょ!」


 金棒を顕現させ、悪魔憑きへと襲い掛かる。


 

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