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嘯くヨタカ  作者: イタノリ


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遊園地へ

「なっ、なんだい。藪から棒に」


「俺なりに真剣に考えた末の結論です。ツバキさんもお誘いしたい。次の休日に、遊園地へ」


 気迫がある顔が迫ってくる。この目、この声、こいつは本気で私を誘っている。ん?いや、待った。ツバキさん()


「ツバキさんもって、他に誰か誘ってるの?」


「はい、根城の全員誘ってます」


「全員。あ〜、そう・・・」


 一瞬でも乙女心が動いたのが情けない。何の脈絡もなく司が私をお出かけに誘うなんて、考えた私の方がおかしいのだけれど、一体何を舞い上がっていたのか。挙句、恥ずかしさのあまり煩悶する私を司は不思議そうに見ている。


「ツバキさん、顔が赤いですが、大丈夫ですか?」


 私は必死で取り繕っていたつもりが、どうやら顔に出ていたらしい。頬が暑い。これ以上ないほどの屈辱を味合わされたかのように頭が熱くなる感覚にもなる。


「気にしないでちょうだい。それにしても、なんでまた遊園地なんかに行くのさ。警護上、リスクが高すぎると思わなかったの?」


「それは我々が頑張ればいいだけのこと」


「頑張るって、あんたねぇ、それでも警察官かい?」


「リスクの問題は当然です。ですが、カスミちゃんのことを考えれば、たまにはお出かけするのもいい思い出になるかと」


「思い出のために、リスクを背負ってまで遊園地にねぇ。正気とは思えないわ」


 けど、嫌いじゃない。あの子を守らなければいけないのは間違いない。天界から厳命された務めだからという仕事の話だけではない。こんな状況になってしまった以上、私は純粋にあの子を守ってやりたい。


「事情が事情なのは重々承知していますが、だからといって敵の動向を伺うばかりではカスミちゃんがかわいそうです。あの子は子供なんです。もっと外へ出て遊んでいいはずです」


「そう、それ!」


 思わず声を上げてしまい、気恥ずかしさを咳払いで誤魔化す。けど、司の意見には激しく同意だ。カスミの境遇はあまりに不憫。頼る身内は誰もおらず、命を狙われながら制限のある生活をしなければならない。子供らしいことが何もできていない。気軽に外で遊ぶことすらできないなんて、可哀想すぎる。


「ともかく、警備上の課題がクリアできれば、私としては問題はないわ」


「それはよかったです。楽しい思い出をプレゼントしてあげましょう」


 思い出をプレゼント、か。悪くない響きだ。


 楽しい思い出をプレゼントするのなら、それなりに張り切らねばならないだろう。私は次の休みまでの日数と、冷蔵庫の中身を確認し、遊園地に行く支度の段取りを脳内で速やかに組み立てていった。


 遊園地に行く日の天気予報は晴れ。季節的には夏の盛りが過ぎ、行楽シーズンのちょっと前。それでも出かけるにはもってこいの季節に入っている。遊園地に行くことを聞かされたカスミの喜びようは微笑ましく、遊園地に行く日を指折り数え、パンフレットで乗りたい乗り物を鼻歌混じりに調べていたが、今日、ついに待ちに待った日がやって来た。天気がよくて本当に良かった。


「全員乗りましたか?」


「は〜い!」


 司の声に、私を除く全員がまるで小学生のように答えている。


「ツバキ姉も、もっとテンションあげなよぉ。せっかくの休日なんだよぉ?!こんなの私たちのヨタカ生活始まって以来の快挙だよぉ!」


「そうですよ!今まで仕事に邁進するばかりで考えもしませんでしたが、私たちには余暇がありませんでした。よりよく働くために、余暇こそ必要。今こそライフワークバランスを見直すべき時なのです!」


「だからって、あなた達元気すぎじゃない?水天坊まで浮かれちゃって」


「仕事漬けの日々にあっては、時にこうした息抜きも必要なものですよ。ねぇ、司くん」


「誠に然り」


「おい、乗るな。公僕」


「それを言ったらツバキ姉だって同じじゃん。何あのバスケット。めっちゃ張り切ってお弁当作っちゃって」


「楽しみじゃないですか〜。ね〜、カスミちゃん。お母さんが日の出前から一生懸命作ってくれたお弁当ですよ」


 カスミは首をコクコクと、何度も縦に振る。


「誰がお母さんなのよ。今日行く遊園地にはピクニックエリアがあるの。こんな天気のいい日に外でご飯を食べないなんて勿体無いわ」


「それであんな大きなバスケットができたわけかぁ。ツバキ姉もなんだかんだ楽しんでるじゃん」


「それは、まぁ、ね」


 言い淀む私を、カスミはニコニコと晴れやかな笑顔で見てくる。あぁ、だめだ。可愛い、尊い。自分の子でもないのに、今すぐ抱きしめたい衝動に駆られてしまう。


 それにしても、朝からみんなのテンションがおかしい。長年、鬱屈していた生活を送っていたとはいえ、ここまで鬱憤が溜まっていたということかしら。水天坊ですらマスク越しというのに、気分が上がっている雰囲気が隠せていない。


 私は、車内を見渡し物思いに耽る。運転席には天狗に目をかけられる人間離れした人間。助手席には鬼である私。後ろの席には同じく鬼のボタンと仲良く遊んでいる人間に転生した菩薩、カスミ。最後部の席には、天狗と地蔵。一体、なんなんだろう、この組み合わせは。


 家族として見るにはまとまりがないし、誰一人として血は繋がっていないというのに、私はこの車内の面々がカスミにとって良い家族であればと願ってしまう。たとえ里親が見つかるまでの短い間の有り合わせの家族ごっこだったとしても、カスミには家族の温もりのような暖かさを感じていてもらいたい。ヨタカで汚れ仕事をする私がそんなことを願うのはおこがましいのだけれど。


 根城から遊園地までは大して距離はなかったと思う。信号が多く人がごった返す都市部を抜けるのにむしろ時間がかかったが、郊外へと出るとスムーズに車は走りはじめた。建物の高さ少しずつ下がっていき、空が開けていく。建物の隙間からは田畑が見えるようになっていき、田辺地帯を抜けながら山へと向かって車は走っていく。


 後ろの席では、テンションが高い地蔵とボタンがはしゃぎ、それに少し戸惑いながらもカスミも一緒になっておしゃべりしたりお菓子を食べ過ごしている。水天坊はというと、だらけにだらけ、腕をくみ天を仰ぎ小さくいびきをかきながら眠っている。


「あんたの大将、寝不足なの?あんな疲れ切ったような眠り方して」


「なんだかんだ親父は忙しいですから。刑部の仕事は二番手の天狗に一任してますが、指導監督はしていますし、カスミちゃんの警護の他にも根城周辺の警戒や敵の動向を探ったりとやることは山積しています。できるなら、今ぐらいは休んでいてほしいです」


「あなた、優しいのね。水天坊のことをよく親父って呼ぶけど、あれは親しみを込めてかしら?実の親子じゃないでしょ。天狗と人間だし」


「ええ、もちろん。水天坊は俺の親代わりをしてくれた人です。子供の頃、家族と山中でハイキングを楽しんでいたら、突然を(あやかし)に襲われまして。一瞬でした。目の前にいた両親や兄妹があっという間に命を奪われていきました。たまたま水天坊が巡回で近くを通っていなければ、俺もあの妖にやられていたでしょうね。家族を失って身寄りのない俺を、水天坊は引き取ってくれたんです」


「そんな事があったのね。ごめんなさい、余計な事を聞いてしまったわね」


 衝撃の事実を突然聞かされ、私は面食らってしまった。刑部と縁が深いことから何かしらの因縁を抱えているだろうことは予想はしていたけれど、まさかここまで重い話だったとは。でも、この話で(はら)に落ちたことがある。


 司の人間離れした力と格闘術は天狗仕込みということだ。並の人間では到底辿り着けない境地に、まだ三十過ぎの若い人間が辿り着けるはずがない。根城でも水天坊が司に手ほどきをしている姿は目にしていたけど、きっとあれは司が子供の頃から続けてきた鍛錬の延長線上にある日常なのだろう。


 司は淡々と簡潔に自身の過去を吐露したが、実際に味わった辛苦や煩悶の日々は想像を絶するだろうことは想像に難くない。ただの生真面目な公僕かと思いきや、とんだ苦労人だったわけか。


「はい、これあげる。口を開けな」


 何をする気なのだろうと、やや警戒する司をよそに、私は手持ちのバックから飴玉を取り出し、司に見せる。


「飴玉だよ。私のとっておき。あげる」


 指で飴玉をつまみ上げ、司の口へと運ぶ。司は運転に注意を払いながらもチラチラと飴玉を見やり、おずおずと口を開けたところで飴玉を放り込んでやる。その時、私の指が僅かに司の唇に触れた。


「・・・!」


 電流が流れるように、司から私にへと霊気が干渉した。この感覚、妖力通信に近い。そうか、水天坊め、司に武芸だけではなく霊的鍛錬も積ませているな。司の僅かな霊力が私の妖気に混ざり合っていき、見たことのない映像と感情が頭に流れ込んでくる。


 走馬灯のように頭に流れ込む司の記憶。そして、彼の大切な思い出。幼い頃、家族と過ごした記憶、楽しかったこと、悲しかったこと。妖に家族を奪われ、復讐に取り憑かれ体を鍛えた厳しい修行の数々の経験。単独で妖の討伐に向かい、水天坊に本気で怒られ涙ながらに抗議した記憶、思い悩みながらも家族を失ったトラウマを乗り越えるために己自身と向き合い続けた辛苦の日々。警察官として誰かの生活を守る職務に使命を燃やし、念願であった妖から人々を守る刑部と仕事を共にする立場に立った時の誇らしい気持ち。


 まるで白昼夢を見ているように、彼の人生が私の魂へ触れ、琴線に触れた。私が垣間見た彼の人生は断片的だが、彼という人物を理解するには、あまりあるものだった。


 そして、目の前には、美味しそうに飴玉を口の中で転がす司の姿。こんな無邪気に飴を舐めれるようになるのに、どれだけの苦労があったか計り知れない。そう思うと、なぜだかこの男が愛おしく見えてきた。


 私は司の頭にポンと手を乗せ、そっとひと撫でした。


「がんばったね、大変だったね」


 司は突然のことに一瞬驚き狼狽えたが、満更でもなさそうな表情で小さく礼を述べるのだった。


 

 






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