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嘯くヨタカ  作者: イタノリ


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カスミ、通学準備をする

 買い物から帰ると、ボタンと地蔵が主導し荷解きがされた。その勢いたるや、解き放たれた野獣のようだ。こいつら、そんなに禁欲してたのか。


 あっという間に根城が模様替えされていく。ボタンの部屋は壁や棚に所狭しとインテリアが並べられ仰々しくて、部屋に余白がない。けれど、本人はこのごちゃごちゃした感じが心地いいらしい。


 地蔵に至っては、インテリアというよりは、クッションを大量に購入したらしく、普段写経したり読経する机の周りにぎゅうぎゅうにクッションが敷き詰められている。根詰めて作業した後に、クッションの海に沈みたいらしい。お疲れ様。


 肝心のカスミの部屋だが、中を覗かせてもらうと、そこには寝具一式と座布団、それに座卓や照明。名前は分からないが、アニメか何かのキャラクターのようなクッションがいくつか壁際に置かれていた。私の部屋ほどではないが、随分質素な部屋にしたものだ。とはいえ、カスミの表情を見ると満更ではなさそうだ。部屋を整え一息つきながら、満足そうな顔を見せている。


「あんたたち、相当に買い込んだわね」


「へへへぇ。いいでしょ。お陰で憩いの空間がレベルアップしたってわけよ。もぅ、カスミ様々って感じ」


「確かに、これで仕事の合間の息抜きが充実するってものですよ」


「それは良かったけど、あんたたちカスミより買い込んでるんじゃない?」


「そんなことないよ〜。それにツバキ姉だって何か買ってたじゃん」


「ん?私のはこれよ」


 私は食器のセットを棚にしまっていく。この根城にはもともと有り合わせの食器がいくつかあったのだが、しばらくここで生活するカスミのために食器一式を用意することにしたのだ。


「カスミ、あんた専用の食器だよ。今日からは有り合わせの食器じゃなくてこれを使いな」


 カスミはにっこりと微笑み、大きく頷いた。


「優しいねぇ、ツバキ姉は。ね、カスミちゃん」


 顔を赤くしてはにかみながら、小さく頷いている。本当にこの子は無口だな。それに、こんな様子のカスミを見ていると私も妙に気恥ずかしくなってしまう。


「では、私からはこれを差し上げましょう」


 水天坊が差し出したのは、赤いランドセルだった。


「うわっ、なんであんたいるの?っていうかランドセル?なんで?!」


「これは興味深い。ツバキさんもそんな反応するんですね」


 当たり前じゃないの。さっきお店で別れたはずなのに、なんでまた私たちの根城にしれっと現れてるのよ。しかも、ランドセル?


「水天坊、あんたカスミを学校に行かせようっていうの?そんな危ないことできるわけないじゃない」


「木を隠すなら森の中、ってやつですよ。もう、敵にはカスミちゃんがこの都市にいることはバレていますから、逆に人目の多い場所にいた方が敵も手を出しずらくなるでしょう。何より、あの子菩薩の生まれ変わりとはいえ、一人の小さな子供。類稀な境遇に生まれ落ちたとはいえ、できるだけ人としての普通の生活をさせてあげたいとは思いませんか?」


「それは、もちろんだけど・・・」


「水天坊さん、地蔵からも一つ質問よろしいですか?これも天界からの指示による物でしょうか?」


「えぇ、もちろん。差し迫った危機ではないと天界は判断しているようです」


「そうですか。天界が考えもなしにリスキーなことをするとは思えませんしねぇ。ツバキさん、ここは一つ、我々ヨタカが骨を折るとしましょうか」


「私の心はもうバキバキに砕け散りそうよ」


 なんだか、一気に老け込みそうなほど次から次へと厄介ごとが舞い込んでいる。水天坊は通学に関する書類を広げ、手続きの仕方を私と菩薩に教え込む。その傍では、ボタンと一緒にランドセルを愛でるカスミの姿が映る。あんなに笑っちゃって。よっぽど嬉しいのね。


「それにしても、忙しくなるわね。子供の面倒に、本業のヨタカの仕事。せめて仕事は休みたいわね」


「あっ、その件ですが、天界からはカスミちゃんの警護を最優先となっていますが、ヨタカの仕事も変わらず続けてほしいそうです。どうしても、あなた方にしか頼めない案件があるようでして」


「宮仕は辛いわぁ・・・。いや、待ちなさいよ。ヨタカの仕事中は誰がカスミを守るのよ」


「そのために私が来たんですよ。それに、司くんもいますから、あなた方が留守の間の護衛は私達にお任せを。あと、しばらくの共同生活、よろしくお願いしますね」


「くそ、また変な同居者が増えた・・・」


 私達の根城がよそ者どもに侵食されていく。私にとって根城は、決して癒しや憩いの場ではない。あくまでヨタカとして日々活動するための拠点だ。私の生活スペースも必要最低限の家具のみにしてあるのも、それが理由だ。


「ごめんなさい、ちょっと屋上でタバコ吸ってくるわ」


 急にストレスを感じ、私は逃げ出すように屋上へと行き、屋上への手すりへと体を預け、タバコを吸った。肺を満たす煙に含まれた鬼専用の鎮静物質が五臓六腑に染み渡るようだ。


「よっ、ツバキねぇ。心労が溜まっていると見えますなぁ」


 私の様子を見に来たのか、なにやらニヤつきながらボタンが近寄ってくる。


「あんたはなんでそんなに楽しそうなの。私たちが置かれている状況って、そんなに楽しいものだったかしら?」


「私は楽しいよぉ?だって、こんなヘンテコなこと、ヨタカの仕事ばっかしてると出くわさないじゃん。それに、あんな可愛い妹みたいな子と生活できるなんて、夢みたい!」


 その言葉に、私は体がピタッと硬直してしまった。というのも、ボタンにとって妹という存在がいかなるものか、私はボタン自身から聞かされたことがあるからだ。


「ねぇ、ボタン。あんたは怖くないの?あんたにとって、妹ってのはさ・・・」


 言葉に詰まる。私はボタンの過去を聞かされたことがある。それは、ボタンが鬼になった時の話。人が妖となった出来事の話だ。

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