8.ご近所迷惑ですよ!
俺の精神を大いに揺さぶってくれた人間だったもの。それを作った存在もまた人間だったことを知り俺は頭を抱えたのだが、この村なのか実験場なのかも分からなくなってしまった場所に来たお陰で分かったこともあった。
それがここに来た価値を示せる物かと問われると何とも言えないところがあるんだが、
「魔物の生態は知っておいて悪いことはないじゃろうな」
「俺も防御の際の参考にできそうだ。特徴が分かれば、多少動きの速い相手でもこれからはどうにかできるかもしれない」
「…………避けられない矢の放ち方を考える」
魔物の方の実験をしていたデータもも残っていたため、それを見て魔物の生態なんかを学ぶことができたわけだ。行動の修正なんかは今後の戦闘の際に役立ちそうなことも書いてあり、頭に入れておいて損はないだろう。
頭に入れて置くどころか、持って行ってもいいくらいには貴重な資料だな。
本当に、やっていることさえもう少しまともならもっと素直に感動できた資料なんだがなぁ。
なんでここで人間も一緒に改造してしまったのやら。
「とりあえず、研究をしていた帝国の方にはまだ近づかない方が良いかもしれぬのぅ。これだけのことをしでかしていた国じゃし、追い込まれれば何か大きなことをしでかしてくれるじゃろう」
「そうか?…………そう言われるとそんな気もしてくるな。行かないとは断言しないが、それでも他にやることがある間は行かなくてもいいか」
俺もさすがにこの実験をしていた帝国が怖いため、賢者のアンミがしてきた提案にうなずいてしまう。追い込まれたら盛大な自爆とかしそうな気は確かにするし、近づきたくないよなぁ。
もちろん、仲間たちとしてはそうして自爆とかしてくれれば人も減るし攻める魔族にも大ダメージだろうから万々歳だとかも考えているんだろう。そこの考えに賛同はできないが、今回はおとなしくその提案に従うとしよう。
ただ、だからと言って何かが変わるわけでもない。今のところ俺が行くことを予定している場所に帝国の領土はないからな。
もしかしたら帝国が実験しているんだしそもそもこの付近は帝国の領土なのでは?という疑問がわくかもしれないが、そんなことはない。数年前まではこの辺りまで帝国領だったんだが、帝国はもう広い土地を守り切ることは不可能だと考えて急に大部分の領土を放棄したんだよな。それも、放棄される領土の人間達にはそのことを放棄するその瞬間に伝えるという形で。
…………なんというか、この実験をしたということが分かる前からかなり問題がありそうなことは分かっていた国だったな。魔族の侵攻があるから仕方がないとか思ってたけど、よく考えれば事前通告なしとか普通にヤベェ奴らだった。
「だがそれでも俺は勇者だ。人類のためにも、今の気持ちを切り替えないとな…………寝るか」
深く考えれば考えるほどパーティメンバーに思考を引っ張られそうだから、一旦俺は寝ることにした。寝たら嫌なことも忘れるだろ。たぶん。
起きていても大してやることもないし、料理を作ったり明日の支度をしたりと一通り必要なことが終われば俺は寝具の上に横にならせてもらう。
早く寝て、スッキリした気分で明日を迎えるんだ。
マンドラゴラでも数えて眠るとしよう。
「マンドラゴラが1匹、マンドラゴラが2匹」
ドオオォォォンッ!
「マンドラゴラが4匹、マンドラゴラが5匹」
ガガガガガガガガガガガッ!!
「マンドラゴラが6匹、マンドラゴラが7匹」
バキバキイバキバキバキバキッ!ザァァァァァ!!!!!!
「…………う、うるせえええええぇぇぇぇ!!!!!!!!」
ダメだった。なんかうるさすぎて眠れやしない。
途中でなんだかマンドラゴラを1匹数え忘れた気もするし、このままじゃダメだな。
騒音の原因を解決しないといけないと決めて外に俺が出てみれば、
「おお。勇者様。さすがに眠ることはできなかったか」
「…………勇者様も気になった?」
「ああ。さすがにな…………逆に、ここにいない連中は眠れたってことだよな?」
「…………おそらく」
そこに居たのは、重戦士のクーロリードと弓使いのシアニ。
クーロリードもシアニも身体能力が高く、おそらく通常の人間より聴覚も優れているため余計にこの騒音には悩まされたんだろうことが予想できる。
ただそのメンバーがいることを確認したと同時に、それ以外は騒音の中眠れたのかと驚いたけどな。どう考えたってうるさくてまともに寝れた物じゃないというのに、どうして起きてこないんだか。
何かこんな状況でも眠れる方法があったりするのか?賢者のアンミあたりなら幻覚系の利用すれば音を聞こえなくするとかはできるかもしれないが、他の連中は難しくないか?睡眠薬でも飲んでいるんだろうか。
と、気になることはいろいろあるわけだが、とりあえず騒音の解決を優先だな。
寝ることができているのなら起こすのも忍びないし、この面子だけでどうにかするとしよう。
幸いなことに前衛も後衛もいるし、戦闘面での安心感は抜群だ。2人とも夜目は効く方だし、俺よりよほどここでは役に立つだろう。
「この音の発生源はやっぱり、魔物だよな?」
「ああ。確認したが、ここまでくる間に襲ってきた魔物が村の周囲を囲む塀などに激突したりして音が出ているようだ。だから、とりあえず俺とシアニでそこの補強はしておいた」
「…………今のところ突破されることはないはず」
「なるほど。それはありがとな。もう少し早く俺も動いて手伝えばよかったな」
問題を起こしているのは改造された魔物達。やはり改造された影響があるのか、通常ではありえないような奇行をしているようだ。一般的な魔物はわざわざ村の塀を破壊しようとなんてしないあkらな。
ただ2人はすでにそれなりの対策をしてくれたらしい。1番の問題である塀を破壊して魔物が侵入してくるということはしばらくないと考えていいだろう。
そう考えたものの、確かにそれは間違っていないようなのだが、
「ぶつかってこと切れるのは良いけど、その体は残る。そこが1番の問題」
「体が残ることが問題?…………ああ、そうか。足場になるのか」
「ある程度詰みあがると、足場にして塀を超えられてしまうかもしれん。そうなったらかなりマズいだろう」
魔物はかなりピーキーな性能であるため塀にぶつかると命を失ってしまうんだが、命が亡くなってもその肉体まではなくならない。つまり、亡骸が残ってしまうというわけだ。
1体2体の亡骸なら残ったところで嫌な臭いをさせるだけで済むんだが、今回の場合は大量にそれが積み重なっていて、最悪の場合その積み重なった亡骸が足場となって魔物達が塀を超えてくるんじゃないかと言う懸念があるんだ。
壁を作ったら仲間の亡骸を使ってそれを超えてくるとか怖すぎるんだよな。この恐ろしい兵器を魔族に使えてたらもうちょっと戦争もどうにかできたんじゃないかと思ってしまうくらいだ。
「そういうことなら、どうにか足場になる物をどかすなり消すなりする必要があるな。火でも放ってみるか?」
「それはあまりお勧めできない。塀も木製だから燃えてしまむだろう」
「ああ。そこの問題があるか…………となると、一旦俺たちが外に出て引き受けたりしてみる必要がありそうだな。場所を変えればまたしばらくは時間が稼げるだろ」
亡骸を使って超えてきそうなら、その亡骸を使えないところに誘導してやれば良い。そうすれば時間を稼げるだろうというわけだ。
改造された魔物達は今まで接してきた限りそこまで頭がいいわけではなさそうだし、誘導すればもう亡骸を利用ともしなくなるだろう。
「一仕事するかぁ。明日の出発は遅くなりそうだな」
「…………たまには休息も必要」
「どうせ休息をとるならもう少しデカい街が良いんだけどなぁ」




