7.愚かな人間
俺は今選択を迫られている。
人間を基にした化け物のなりそこないに剣を向けるか否か。勇者として俺は、村人だったものに剣を向けるべきか否か。
これが、アンデッドなのであれば容赦なく剣は振れた。なぜならそれは人間の害になのだから。そして、直す手段ももう存在はしないのだから。
だが、今目の前にいる存在は別だ。
人類の敵になるかどうかも分からないし、まだ意識がありそうな声が聞こえてくるから人間に戻せそうな気もしてしまう。俺にはここで剣を振ることが正義だと確信できない。
今は駄目でも、いつか誰か1人くらいは助けられるかもしれない。生きていると言っていいのかは分からないがまだ息はあるのだからどうにかなるかもしれない。
だがそう思っても、
「い、いたい。いだいよぉ」
「ふひゃ!ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
「おぁ………おぁ…………」
そのどれもがすでにまともな精神状態でないことが容易に読み取れる。完全に心が壊れてしまっていることが。
痛いだろう苦しいだろう。俺はこの後命を助けられる手段が見つかるかもしれないからと言う理由で、苦しんでいるこいつらを放置するのか?それは正義なのか?ここで終わらせてやった方が、こいつらのためになるんじゃないか?
そう考えるだけで、剣が震える。
俺の迷いは晴れない。ここで剣を振った方がこいつらの望むとおりになるとしても、希望なんてそんなに都合よく訪れないことも、俺は分かっているんだ。
それでも俺の剣を振る覚悟は決まらなった。
「やらなきゃ、ダメだよな」
口ではそんな言葉まで出すことができたが、体が動かない。
重りを付けられ鎖で縛られたのかと思うほど、進むための足も剣を振るための腕も動かなかった。
それでも、やらなきゃいけないんだと俺の理性が剣を握る力を強くさせる。感情が俺の剣を放させる。
そして俺は、
「ほぉん?デカいだけで動かぬ人間の塊とは。まさに的に最適じゃのぅ」
「…………練習にもならない」
「俺の剣で切り裂いてやろう…………どうせなら、どれだけ命を残したまま深く傷をつけられるか試してみるか」
「面白そうな遊びですね。致命傷になりそうなものは私がすぐに直しますから、色々と挑戦してみましょうか。私も久々にメイスを振れますねぇ!!」
躊躇なく攻撃しにいくパーティーメンバーに頭を抱えた。
しかも躊躇はないくせに全く楽にしてやろうという気がない事にも頭痛がする。なんでわざわざできるだけ命を刈り取らずに痛めつけようとしてるんだよ!?もうただでさえ精神がひどいことになってるのに、それ以上苦しめてどうするんだ!?心壊れるぞ?…………もしかして壊したいのか?
正直今すぐにでも止めたいところだが、あまりにも人の心がないその悪行の数々を、俺は見ていることしかできない。静止の言葉すら1つもかけることはできなかった。
言い訳でしかないが、俺では無理なんだ。勇者の俺ではこの元村人たちを楽にしてやることはできないから、この人でなしなパーティメンバーに任せるしかないんだ。たとえそれが、一時的に苦しみを倍以上与えるものだったとしても。
それでも、このままの状態で何時間も、何日も、何週間も放置されるよりはマシだろうと勝手に判断してしまった。
「なんで、こんなことに……」
俺は呆然としながら、数十分、数時間とも思えるような仲間たちの酷い行いが終わることをただただ待ち続けた。
精神的には6時間くらい待った気がするが、実際のところはそれでも10分もかからなったというくらいだろうか。
石化していた者達とは違って村人だった者達からは悲鳴なども聞こえたからなのか、全員スッキリした表情で俺の元にまで戻ってきて、
「さぁ。勇者様野営の準備をしましょうか。幸いなことに、家主はいなくなっているようですから使い放題ですよ」
「…………そうだな」
今まで見てきた中でもトップクラスで純粋で飾り気のない笑顔で今晩のことを提案してくる聖女のアクアに、俺は頷くことしかできなかった。
ここで立ち止まっていても何も救うことはできないお考えた俺は、何度かその村人だったものを振り返りながらも進んでいく。俺たちは、こんなところで止まっているわけにはいかないのだから。立ち止まる暇があるならば、もう二度こんなことを引き起こさないために動くことが勇者としての務めだろう。村人たちだってきっと、それを望んでいるはずだ。
「ここまでやるとは、魔族はそこまでの事にすら………」
「キヒッ。確かに悪趣味だが、参考にできる部分は多いな。魔王を倒し終わったら全部の人間をあんな塊にしてみるのも面白そうだ」
「悪趣味だな。人間など生きているだけで害にしかならんのだから、あのような形であれ命を残しておいてやるとは全てにおいて悪影響だろう」
「私は悪くないと思いますけどね。ただその亡骸を放置しておくより、ああして一塊にして魔物の餌か何かにした方がアンデッドも発生しづらいでしょうしその後のためになるのでは?」
「…………全部燃やし尽くせば問題ない」
俺がこのことを引き起こした主犯だろう魔族に対して驚くとともに少しの苛立ちを覚えるのだが、仲間たちは何も気にした様子もなくそれがありかなしかの話を始めていた。
何でこいつらは自分たちが同じことをできるという前提で、全世界の人間を一塊にできるという前提で考えているんだろうな?それを選択肢に入れられるとか怖すぎるだろう。
せめて人類滅ぼすにしても慈悲のあるやり方にしてくれよ。
ドン引きしつつも、俺はこれから似たような存在がいた時に何かできないかと考えて周囲を捜索する。同時にどこを寝床にするのかも考えてな。
結果、何軒か家を回ったところで見つかったものが、
「実験記録?しかもこれ、帝国のものじゃないか!?」
「ふむ。内容は人間及び魔物の改造実験のようじゃな。あれを作ったのは帝国じゃったか」
「魔族かと思いましたが、人間もなかなか考えるものですね」
実験記録。それも、人間の国家による実験の。
読めば読むほどどう考えても先ほど見た魔者達や人間だった存在を作ったものが人間だったという事実にたどり着きそうになる。
何をやっているんだ人間は!
こんなことをしたらよりパーティーメンバーが裏切りやすくなるだろうがぁぁ!!!!!ただでさえすでに半分くらい人類を裏切ってるようなやつらが集まってるのに、このままだと完全に裏切るぞ!?俺、後ろからグサッとやられるぞ!?本当に人類は救われる気あるのか!?
こんなところで人間の汚い部分をがっつり見せてどうするんだよぉぉぉ!!!!
「しかし、そういうことでしたら納得ですね。思考誘導が全くなかったという結論に達するわけにはいきませんが、敵側の動きが速かったことには納得できます」
「そうじゃのぅ。元からこやつらはここに居たんじゃし、魔族側は実験に使われていた者達を解き放てばいいだけじゃからのぅ」
「…………敵が有利になるばかりだし、人間とか動くだけで邪魔になる」
皆呆れてるぞ?一周まわって感心しだすほどだぞ?
倫理観無視した実験をして、それを最終的に敵に利用されるとか人間の悪いところが全部出てしまった現状だからな。人間なんて動かないことが1番マシな結果になるとかいう言葉に俺は何も反論できないぞ。
勇者としての立場があってもなおこれだから、一般人ならどれだけ精神的ショックを受けたことやら。
こうなってくると、パーティーメンバーの裏切りも秒読みだろうなぁ。
警戒だけはしておかなければ。




