5.1番になりたい
「まさか村の人間ごときに勇者様の変化を気づかれてしまうとは」
「自分のことに集中しすぎて勇者様の事がきちんと見えていなかった。一生の不覚」
「…………悔い改めなければ」
「勇者様の事を1番見ているのは儂だというのに、こんなことを許してなるものか。あやつらは消さねば」
「…………んぅ」
「おや、おはようございます」
「お目覚めかのぅ。勇者様」
「おお。おはよう」
朝。なんだか不穏な気配がして目を覚ましたのだが、今のところ周辺を見る限り変なところはない。体も動くし、拘束されていたりもしない。俺が感じた不穏な気配は一体何だったのやら。
気になるところはあるが、もしかしたら気のせいだったのかもな。警戒はするけど、あまり気にし過ぎないようにするとしよう。予定だと、今日は早速精霊の泉まで向かうことになってるからな。
バジリスク討伐からすぐだからかなりスケジュールは詰まっていて大変だが、勇者パーティとしてはいつもの事だ。毎回問題になって理う魔物なんかを倒した後にはすぐに次の場所に向かって次の問題を解決してるからな。
「物資の方は問題ないか?」
「ああ。問題ない」
「アンミ。ルートに何か提案はあるか?」
「そうじゃなぁ。少し回り道になるんじゃが、1つ経由したい村がある。そこは保存食を大量に作っているそうなんじゃ。もしもの時のために必要じゃろ?」
賢者のアンミがすでに情報を収集していてルートの提案もしてくれたので、俺たちはその提案の通りに動くことにした。
村を出る時には見送りの人間がたくさん来てくれて、
「ありがとうございました!」
「勇者様に栄光あれ!」
「「「「栄光あれ!!!」」」」
精一杯のみ言葉を届けてくれた。
俺たちはそれを背に、新たな目的地へと進んでいく。
「「「「チッ!」」」」
もちろん。仲間たちの舌打ちもセットだ。
こいつら、気づかれていないとはいえあれだけ好き放題にやらかしておいてまだ不満があるのかよ。本当にこいつらを人類の味方にしてよかったのか不安になってくるな。
そして道中、しばらく仲間たちの不満を聞いていると、
「ブヒィィィ!!!!」
「っ!?敵か!」
「速いな!だが、俺が何とかする!」
鳴き声を上げながら急接近してくる存在が。
どうやら魔物のようで俺たちが迎撃をしようとするも向こうの方が速い。さすがに被弾は避けられないかと覚悟させられ、それと同時に1番被弾しても問題ない人間が前に出た。
直後ガンッ!と音が響き、
「………ん?この魔物、なんという愚かな生態をしているんだ?俺の盾にぶつかって首が折れてるぞ」
「おいおい嘘だろ?あれだけの速度を持ってるのに首はそれに耐えられる性能してないのかよ」
受け止めた段階で魔物の首が折れて息絶えてしまったらしい。何度か似たようなことを繰り返す覚悟をしていただけに拍子抜けと言えば拍子抜けだ。
だが、それでも驚異的な魔物であったことには間違いない。今は受け止めたから反動で折れただけで、ぶつかった後に相手を吹き飛ばすことができるのであれば問題なくその後も行動できるのかもしれないし。
「一応回復しておきますね」
「ああ。アクア。頼む」
受け止めてくれた重戦士、クーロリードに聖女であるアクアが回復魔法を使う。
幾ら相手が防御だけをしていたら倒せてしまったとはいえ、防御の段階でダメージを受けていることも考えられるからな。妥当な判断だろう。
さて、そんな重戦士のクーロリードは、とにかく身体能力が高い。今の魔物の突進も俺が受け止めればただでは済まなかっただろうが、それを平然と受けられるほど頑丈で、しかもパワーもあるの。タンク役としても優秀だし、攻撃役としても優秀。近接戦闘になった際これほど頼れる存在はそう多くはないだろう。こいつが前衛をやってくれるだけで安心感が段違いだ。
個人的には俺の防具よりもクーロリードの防具を性能が高い物へと変えた方が良いのではないかと思っているんだが、本人はあんまりそんなこと考えてなさそうなんだよな。もう少し自分を守ることにも思考を割いてほしい限りだ。
ちなみに力がるため物資などを運ぶこともやってくれていて、大荷物を抱えていることが多い。しかも、その影響で物資の管理まで任してしまっているからかなり大変だと思うんだが、その辺りに関しては何も不満を言わないから少し心配している部分もある。もちろん、人間への不満は口にするんだけどな?
そしてもう1人。口調と雰囲気は丁寧そうな聖女のアクアに関しても説明しておこう。
アクアはこのパーティーで唯一の回復の技能持ち。非常にその回復の技術は高く、それこそ部位欠損などであっても一瞬で治してしまうような腕前だ。しかもこのアクア、なんと必要となれば躊躇なく前に出てくる。メイスのようなものを振り回したりするんだ。
自分の回復技能が優秀なためどれだけダメージを食らっても即座に回復できるし、一切被弾を恐れずにひたすら攻撃をしに行く、ちょっぴり怖い戦い方をするぞ。最初にこの戦い方を見た時には意識が遠のいたな。主に、グロさとかがひどくて。
ただ間違いなく必要不可欠な存在だし、これから先も貢献してくれるはずだ。ただただその力を永遠に痛みを与え続ける拷問とかに使わないでくれることを祈るばかりだな。そんなことをされれば俺は精神を保てる自信はないぞ。
そんな2人がいれば遠距離職のアンミやシアニが対応できなくとも何とかなる物で、
「入れ食い状態ですね。リソースが確保できるので非常に助かります」
「俺も防げばいいだけだからな。楽な仕事だ」
「おぉ。2人ともお疲れ。任せっきりで悪いな」
「いえ。お気になさらず」
「バジリスク戦で活躍できなかったから、今回動いているだけだ」
もう2人だけでいい気がしてきた。
アクアは回復特化で状態異常を治すことはできないしクーロリードもさすがに近づいて石化に耐えられるような体ではないから確かにバジリスクのたたきでは目立たなかったが、それでも十分すぎるほどに今活躍してくれてるんだよな。
というか、こうして2人が活躍されると俺の必要性がどんどん薄れていく。
動きが遅いならアンミやシアニが近づく前に倒すし、近づいたら近づいたでクーロリードが倒してしまう。このままだと、本当に俺はいらない子になるぞ?
バジリスクを仕留める時はこの世で1番切れ味が良いのではないかと思うような勇者の剣が活躍したけど、それは勇者の剣が凄いだけで俺である必要性がないんだよなぁ。
どこかで活躍できる場所を見つけなければ!
このまま対応を任せきりにして戦闘面の経験が浅いまま行くと、悲惨なことになりかねないぞ。
「しかしこの魔物、明らかに異常じゃな」
「異常?と言うと?」
「突進の勢いが強いにしても、自身の首すら折ってしまうほどの事をするというのは生命としてあまりにも欠陥が大きすぎる。見た目と大きさから考えてもそれなりに育つことにも時間がかかりそうであるし、自然に増えていけるような魔物には思えないんじゃよなぁ」
俺は活躍の機会のなさに落ち込んでいたんだが、賢者のアンミは今の状況の分析をシッカリとしてくれていたらしい。この人間嫌いで普段は俺が気をつけていないといけないパーティーメンバーに警戒力で負けるなど恥ずかしいな。
俺も将来の事を考えることはかまわないが、今にもしっかりと集中しないと。
とりあえず最初に考えるべきは、アンミが気になっている魔物の生態。
どう考えても数を増やして自然界で生き残っていくことができるような魔物には見えないが、それが大量に襲ってk知恵いることが気がかりらしい。言われてみると確かにおかしいよな。
それなりに体は大きく、このサイズまでになるためには短くても5年くらいはかかるだろう。それに、産める子供の数にも限りがあるはずだ。
だというのにその命がこんなにも簡単に、そして大量に失われているのだからそれを普通だとは考えにくい。
「何かに手を加えられている可能性があるかもしれぬのぅ」
「それは調べる必要がありそうだ」




