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4.天秤にかけられた

結局裏切られたと思ってから数時間しても一向に俺に何かしてくることはなった。それどころか、村人にすら何もする気はない様子。

勇者パーティーの仲間たちは、あれだけのことをしてもまだ許されると思っているらしい。石化しているとはいえそれを破壊して二度と生き返れなくするなんてことをしても許されると思っているらしい。


「なんてことだ…………」

「お母さん!なんで、なんで…………」

「こんなことならあの時、もっと話をしておけば」


今目の前に広がる光景にすら何も感じていないんだろうか。現在俺を含めた勇者パーティーの全員が痛ましいという表情をしているが、あいつらは演技が上手すぎるから本当にそう思ってるのか分かんらいんだよな。正直、その心は笑っててもおかしくない。


実際、


「皆!生きてくれ!まだ大丈夫そうなやつがいるぞ!」


「ほ、本当か!?」

「回収するぞ!手伝ってくれ!」


「「「「………チッ」」」」


まだ奇跡的に破壊されていない無事な村人が見つかった時には舌打ちしやがった。表情は変えずに舌打ちするんだからすごいよな。

あまりにも人の心とかなさ過ぎて俺は普通にドン引きしたぞ。

だが、


「ん?何かおっしゃられましたか?」


「いや。特に何も。それより、石化した人間を運ぶのは大変じゃろう?人手が必要ならば協力するが」


「本当ですか!ぜひお願いします!」


村人たちは勇者パーティーがそんなことをするわけがないと思い込んでいるからかあまり気にしていなかった。ついでに、パーティーメンバーは笑顔で協力の姿勢まで見せるんだから俺はドン引きだ。あまりにも切り替えが速すぎる。俺は風邪を引きそうだぞ。


ただ、そう思ってもいつまでも頭を抱えてはいられない。

勝手に手伝いを引き受けられているし、俺も動かなくちゃいけないじゃないか。


「よし!丁寧に運ぶぞ!できるだけ、頭の周りは触れないようにするんだ。指もかけやすいから、服とかを着ている胴体近くをタオルとかをはさんで持ち上げろ!」


「はい!勇者様!」

「さすがは勇者様だ。こんな時でも石化している者達の事を考えて的確な指示を出してくださるとは」

「お、俺も手伝います勇者様!!」


俺が声を上げたせいで村のやつらが張り切ってしあったな。

これはなかなか指示出しを並行して行うことには疲れそうだ。頑張るか~。

というか、手伝うと言っていたパーティーメンバーの姿が見えないんだが気のせいか?きっと他のところで手伝いとかしてるんだよな?






「まさか、勇者様からお叱りがないとはのぅ」

「何かおっしゃられるかと思っていましたが、見逃してもらえることは驚きですね。もちろん、この後帰り次第怒られる可能性はありますが」

「勇者様は、石化された者達よりも俺たちの気持ちを優先してくれたんだろう。きっと俺たちをそれだけのことをしても見逃せるほど信頼している仲間だと思っているに違いない」

「…………うぬぼれ。信頼されてるのは私だけ」

「キヒッ!何を勘違いしてる?お前が信頼されてるわけないだろ。あんなに矢を使っても倒せないんだぞ?信頼されるには力不足だろぅ」

「なっ!?貴様………」





なぜだろうか。

ものすごく不穏な気配がする。俺にとって悪いことが起こるというわけではないが、何か問題が起きてそうなんだよなぁ。大丈夫だろうか。あいつら、変なことに巻き込まれてたりしないよな?

人類嫌い仲間だから仲良しだろうし、あいつらに限って喧嘩なんてことはないと思う。となると、外敵がいるってことか?

俺も助けに行く必要があるか?


なんて思ってたら、


「勇者様!勇者様も石化してませんか!?」

「ほ、本当だ!大丈夫なんですか勇者様!」


「え?俺が石化?」


さっき確認した時にはそんなことなかったはずだが、村の人たちが言うには俺も石化をしているらしい。もしかして、途中で運ぶときに石の一部が体に張り付いてしまったりしたんだろうか?

なんて思いながら体をもう一度確認してみたところ、


「ああ。確かに石化してるな。ただ、これは鎧だから特に問題ないぞ」


「あっ、そうなんですね」

「びっくりした~。まさか勇者様が石化したのかと思っちゃいましたよ!」

「すごい心配しましたよ~」


「ハハハッ。悪いな」


俺の防具の一部が確かに石に変わっていた。とはいってもそんなところは削ればいいだけなので問題はない。

多少表面が石化したくらいじゃ防御力に差はないだろう。

特に問題はないな。


「勇者様!すぐに防具を変えなければ!」

「キヒッ!今すぐ最高の防具を探しにいかねぇと」

「近くに腕の良い鍛冶師がいる村があったか?」


問題ないはずなのに、さっきまでいなかったはずのパーティーメンバーがいつの間にか戻ってきたかと思えば滅茶苦茶心配してきた。どう考えても防具の新調なんて必要ないと思うんだが、こちいつらは随分と心配性だな。

本当に俺のことを心配しているのかどうかは別として、だが。もしかしたら近くに腕の良い鍛冶師がいる村や町があって、そこで何かをしたいのかもしれない。色々と裏が考えられるぞ。


なら、その考えを俺は裏切ってやる!いつまでも俺がお前たちにそんな甘い顔をすると思うな!俺だって、さすがに今回の剣はどうかと思ってるんだからな!

というか、本当なら今すぐ勇者パーティーから追放したいんだからな!…………やったのが全員ではなくて、なおかつ代えが効かないほど優秀でなければこれで本当に追放どころか存在を抹消したんだけどなぁ。


「お前たちは心配性だな。そこまで不安なら、勇者の鎧を手に入れに行くか」


「勇者の鎧?」

「そんなものの存在、来たこともないのですが」


「そうなのか?確かに地味と言えば地味だもんな」


俺が提案することは、歴代の勇者たちの防具である勇者の鎧を手に入れる事。

勇者にはいくつか専用の装備があって、防具は全部で3つ。鎧と兜と靴だ。それらの装備は魔王の攻撃に耐えうるほどに強力で、石化なんて受けても何も問題はないだろう。今後の敵にも長く通用する装備だし、獲得することも悪くない選択だと思う。


ただ、この防具とかはあんまり有名ではないんだよな。今俺が持っている勇者専用の装備に剣があるんだが、こっちの方が断然有名だ。勇者として任命されて旅に出る時に国王から貰った物なんだが、これは魔王に傷をつけることができる数少ない武器の1つらしい。もちろん魔王以外にも効果があるからこれで凶悪な魔物を倒した伝説はいくつも残ってるんだよな。

逆に勇者専用の防具なんかは噂が少なすぎて把握しきれなかったのか、先々代あたりから持たなくなってしまっている。

実際調べた限り取得するにも条件があるから情報がそろっていなかった以上仕方のないことだとは思うんだが。


「勇者の鎧は手に入れるために、精霊の加護が必要になる。だから、まず鎧のために精霊に会いに行く必要があるな」


「ほぅ?その精霊とはどこに?」


「精霊の泉だ。あそこに勇者が行けば加護を授けてくれるらしい」


より正確に言えば勇者の剣を持って行けばその所有者が、なんだけどそこまで説明する必要もないよな?

とりあえず、こうして俺が宣言したことでパーティーメンバーたちもそれに従わなければならなくなる。暗殺計画は変更を余儀なくされるだろう。

フハハッ!俺を甘く見ているからこんなことになるんだ。悔しいだろう!…………悔しいよな?悔しいと思うんだが、


「では、そこに行きましょう」

「次の目的地は決まりじゃな」

「…………私としても、悪くないかも」


誰も悔しそうな顔をしてないんだよなぁ。こいつらの演技力が高すぎて困るぜ。

せめて悔しい時くらい悔しい顔をしてくれよぉ。まだ油断して良いのかどうかわからないじゃないか。

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