1.俺の知らないこと
「勇者様ありがとうございました!このご恩は一生忘れません!どうかこの世界をよろしくお願いいたします!」
「勇者様、万歳!」
「「「「万歳!!」」」」
「ありがとう!絶対に魔王を倒して見せるから、待っていてくれ!!」
俺たちは大勢に見送られながら次の目的地へと出発する。見送りの人々からは様々な言葉が掛けられるが、そのほとんどが感謝と応援。こういうものを聞くと、頑張ろうと思えるよな。
きっと俺でなくたってそう思うだろう。
だから、
「自分たちは何もせず、他人任せとはのぅ」
「本当に低俗な人間達らしい言葉ですね」
「キヒッ!まず実験に使う時は、全員舌を引っこ抜いてからにした方がよさそうだ」
「…………うるさくて不快だった」
こいつらの反応がおかしいんだよな!?そうだよな!?やる気を出してる俺は何もおかしくないよな!?
周りがこんなだから自分の感覚が信じられなくなってくるんだ…………応援くらい、素直に受け取れよおぉぉ!!なんでそんなにことごとく全てをマイナスな方面で考えるんだよ!
確かにほとんどの人間は応援するだけで俺たち任せだっていうところに不満を感じる気持ちは分からないわけではないけど、良いだろそれくらい!普通の人は魔族どころか、魔物と戦う力だってないんだから!応援するのが精いっぱいなんだよ!
と、俺は色々と思うところがあるもののそれは一切口にも顔にも出さない。
今のところ勇者パーティーはなぜかパーティー内での人間関係トラブルがなくギスギスしていないし、わざわざ俺が空気を悪くして火種を作る必要もないんだ。だから、ここは俺が口をつぐんでいればいい。
そうしていればきっと落ち着いて良い方向に、
「滅んでいてくれれば、こっちは物資を好き放題持っていけるんですけどね」
「いっそのこと俺たちが滅ぼすのはどうだ?目撃者がいなければ魔族のせいにできるぞ」
「クヒッ!悪くない考えだな!」
「いや、待て待て待て待て!さすがにそれは駄目だろ!?なしだ、なし!禁止だ!」
全然よくならかった!なんでだよ!?ここは俺が何も言わなければ落ち着くところだろうが!どうしてより過激な方向に行くんだよ!仮にも勇者パーティーなんだから、さすがに人間の集落を破壊しようとするのはやめてくれ!
そうして焦って止めたわけだが、俺は少し失敗したかと感じる。いくら何でも頭ごなしに否定するのは良くないからな。どんな過激でひどい意見とはいえ、一旦は受け入れてやってから訂正してやるべきだった。その方が、否定される側だって嫌な感じは少ないだろうし。
俺もまだまだだと思ったわけだが、
「勇者様がそうおっしゃるのでしたら」
「勇者様がそういうならば異論はない」
幸いなことに分かってくれたようだ…………分かってくれたんだよな?
理由が、俺が言っているからというものになっているところはかなり気になる要素ではあるが、分かってくれたっていう解釈して良いんだよな?
ふ、不安だ。今後俺が止めない時に同じようなことをやらかしそうで怖いぞ。
こいつらなら躊躇なく実行しそうだし、これからも目を光らせておかないと。
なんて思っていると、さすがに歩き続けてさっきまでの場所からは離れ、人があまり通らない地域に入ってきたためか、
「ガルルルルッ!」
「おっ、魔物か」
「…………弱そう」
魔物が現れた。
四足歩行タイプの獣のような魔物だが、こういう魔物は非常にすばしっこくて面倒くさい。近接戦闘を仕掛けると身体能力を活かして素早く後ろに回りこんだりしてくるから俺などが戦うと厄介な相手なのだが、
「…………えい」
「儂も働くかのぅ」
うちの遠距離攻撃持ちが優秀なため、全く俺の出番なく倒し終えてしまう。
ここで活躍したのが、賢者のアンミと弓使いのシアニだ。
アンミは年寄り臭く一人称が「儂」なのだがかなり見た目は若いという変わった人間で、俺たちのパーティーの頭脳担当だ。たいていの計画はアンミが立ててくれている。目的地を決める時なんかも基本的にアンミ任せになるから正直裏切られると詰むんだが、このパーティーのメンバーらしく人間をすこぶる嫌っている。本当に戦いが終わるまで耐えてくれぇぇ。マジで頼む!
次にシアニだが、こっちは口数の少ない弓が大得意なエルフだ。かなりの距離が開いても、それこそ小さめの森なら1つ丸々超えて矢を命中させることができる実力がある。もし敵に回られたら、俺はシアニを目視することすらできずに撃ち抜かれる自信があるな。こいつもまた人間大嫌いだし同類のエルフも大嫌いみたいだが、勝てる気がしないから本当に裏切らないでくれぇぇぇ!マジで頼む!
なんていうめちゃくちゃ強い代わりにものすごく裏切りそうな2人が魔物は倒し終えたわけだが、
「アンミもシニアも相変わらず強いな…………一応討伐証明部位だけ切り取っておくか。ちょっと待っててくれ」
「ん?悪いのぅ。少し疲れたし、お言葉に甘えてまかせるとしましょう」
「…………よろしくお願いします」
働かなった俺は、お金がもらえるかもしれないため魔物の一部を切り取っておく。こういうところで役に立っている感を出しておかないとな。もしいらない子だと思われたら、こいつらの場合容赦なく切り捨ててきかねない…………ガクブルッ!
頑張ってる雰囲気だけでも出さねばぁぁ!!!
ちなみに2人の名前を出したから補足しておくが、俺の名前はヒードロだ。基本的に勇者としか呼ばれないから憶える必要はないが、名乗らないのも良くないよな。
人と仲良くなるには、まず自己開示が大切だって話をどこかで聞いたこともあるし。
というか、よくよく考えてみると名前を呼ばれない生活がかなり長く続いているんだが、これって精神的には大丈夫なんだろうか?役職としての意識が芽生えすぎて自我をなくすとかないよな?さすがにそんなことはない、よな?
「あの、勇者様。討伐部位の回収が終わったのでしたらそろそろ出発をしませんか?」
「さすがに薬草の採取はここでやらずともよいでしょう」
「ハッ!す、すまん。思わず癖でな…………ハ、ハハッ」
や、やっばい!俺、いつの間にかどうでもいい考え事にふけって仕事終わらせたのに手を動かしてしまっていた。
下積み時代の癖で薬草採取してしまってたなぁ。いけない癖だ。
こんな変なことをして、パーティーメンバーに失望されたりしてないよな!?大丈夫だよな!?少し困った顔はしてても誰も冷たい視線を俺に送っては来てないから大丈夫だと思うんだが…………不安だ!そこはかとなく不安だ!こいつらをがっかりさせたらどうなるか分かったものじゃないんだぞ!?
もっと気を引き締めろ!俺!!
とりあえず気まずいから、俺から話題を提供して今の雰囲気にしなければ。
当たり障りのない話を考えて、
「アンミ。そういえば、次の目的地にいるっていう話の魔物はどんな感じの魔物なんだ?対策とかあるのか?」
「ああ。その話をしておりませんでしたのぅ。次に討伐も予定している問題の魔物は、バジリスクです」
「バジリスク!?」
知っている。知っているぞ!
確か、先代だか先々代だかの勇者がその名前を聞くと歌って変なダンスを踊り出すという有名な魔物ではないか!俺はよく分からないが、踊った方が良いんだろうか?
あまりダンスのことなど俺は詳しくないのだが、とりあえずそのバジリスクはきっと勇者にとって重要なものなのだろう!俺も勇者としてそのバジリスク、相手をしてやろうじゃないか!!
「ご安心ください。勇者様に手出しはさせませんので」
「…………とどめは任せます」
「いや、戦わせてくれ」
俺が気合を入れたっていうのに、皆は何故かとどめだけ任せるがそれ以外は時に何もしなくていいような状態にしようとしてくる。
そんなことされたら、俺が経験を積めないだろうが!魔王にたどり着くまでに俺も強くならなきゃいけないんだよ!
俺にも戦わせろ!!
「勇者様が戦わずとも安心できるようにしなければ」
「どうして勇者様は人間などのために戦うのでしょう?いつでも裏切るというのならばついて行くというのに」
「勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者様勇者…………」
「勇者様には勇者様にしか見えないものがある。俺は勇者様について行くだけだ」
「キヒッ!勇者様の望むようにするか、それとも俺たちが望むことを勇者様も望むように誘導するか。そこは意見が分かれるところだよなぁ~」




