12.勇者パーティー最後の1人
魔物を倒しきらずに痛めつけて村に来ないようにすること。これを俺は目標として定めた。
通常ならかなり難しい目標だとは思うが、俺はできると信じている。
何せこのパーティーには専門家がいるのだから。
「やれるか?チオシア」
「キヒッ。勇者様にやれと言われればやるしかないなぁ。最高の罠を用意するぜぇ」
チオシア。勇者パーティー最後の1人にして、うちの斥候を務めてくれる優秀な人材だ。喋り方と顔が1番勇者パーティーの中で怪しいというのも特徴だな。俺も最初に出会った時は怪しすぎて盗賊だと勘違いしてしまったものだ。
そんなチオシアは斥候としての技術はもちろんの事それ以外にも色々と得意なことがある。そのうちの1つが、罠を作成すること。手持ちがない状態でもその辺のもので弱い魔物なら仕留めることができる罠を作り出せるほどの腕があるし、現状は物資もそれなりに潤沢にあるから凶悪だと噂の魔物にも効果的な罠を作ることができるだろう。
そうと決まれば、俺たちの動きは速い。
罠を仕掛ける場所を決めに行ったり、できそうな罠を考えてその素材を話しあったり。罠に使う物は村の方で提供してくれるからかなり潤沢に物資を使えて、チオシアも良い罠が作れそうだと言っていたから成功すると考えてよさそうだな。
「ちなみに、脅威になってる魔物っていうのが何か聞いても良いか?」
「スライムです」
「…………へ?」
「お疑いになる気持ちは分かりますが、本当にスライムなのです。ただ、その大きさがとてつもない物でして。核を破壊して討伐しようにもなかなか届かず、そして気づいたらさらに巨大になってというかなり厄介な個体でして」
「な、なるほど?」
確認のために魔物の種類を聞いてみたんだが、予想外な答えが返ってきた。本人は特に何も言っていないが、チオシアもてっきり動物タイプの魔物だと思っていたみたいだからしれっと罠を作り変えているな。足を引っかけるトラップとか、スライムには効かないだろうし罠の種類によっては大幅な変更も必要になるかもしれない。
しかし、スライムが脅威になっているというのもなかなか信じられない話だ。理論的には巨大化していくことで様々な力を手に入れることもできるし最強となるポテンシャルを秘めているという話は聞いたことがあるが、まさか本当に最強になりかけているスライムの話を聞く日が来るとは。
「実はそのスライム、改造された魔物のうちの1体だったりしないよな?」
「ないとは言えません」
村長も可能性は否定しきれないらしい。
今まで見てきた改造された魔者達は余命が1日あるかないかだった。だが、1体くらいはいてもいいはずなんだ。改造が成功して(今までの魔物も失敗作だとまで言うつもりはないけど)、余命が元の状態かそれ以上のままでさらに改造による力をつけた魔物が。
そんな俺の考えを肯定するかのように、
「あり得る話じゃな。実験記録のいくつかは廃棄されておったし、もしかしたらその中にスライムのものもあったのかもしれん」
「そうなのか?抜けてるものが…………」
「もしかすると、魔族がそのスライムを危険視したため資料を廃棄したのかもしれませんね。実戦でそのスライムを投入されたりされないように」
「なるほど。ありえそうな話だ」
そう考えると、実験は無駄ではなかったように思える。もちろん人を素材にしたこととか気になる部分はあるが、それでも成果は出せていたのかもしれない。
ただ、その成果を出すタイミングが悪かったんだろうな。ちょうどそれくらいで帝国が手を引いてしまったんだろう。
そのスライムを本当に魔族が警戒しているのならば、実戦投入すればもう少し戦線の後退は緩やかにはできたかもしれないというのに。
「ならやっぱり、討伐してしまうのは良くないか。せっかくの成功例なんだからな」
俺たちは資料を手に入れられなかったが、帝国にはまだ資料が残っているかもしれない。そしてそれを扱うことができる研究者がいるのであれば、このスライムを実戦投入することもそう難しくはないかもしれないんだ。
ならば、少しでもその役に立てるように、サンプルとしてこのスライムを残しておくことは悪い事ではないはずだ。
だからこそ、村人たちへの被害との兼ね合いも考えて良い結果を出せるように俺たちが頑張る必要があるということだ!
と、気持ちを新たなに今回のことの意義を認識してやる気を高めていたところ、
「…………見つけました」
「ん?何をだ?」
「スライムです」
そのスライムの姿を、うちで最も目が良い弓使いのシアニが捉えた。早速痛い目を見させるチャンスが来たっていうわけだな。
やることは単純。チオシアの作った罠にかかるようにスライムを誘導する。ただそれだけだ。そう難しくはないな。
スライムもただ近くを通りかかっただけではないようで、ゆっくりとだがこの村の方にまで移動してきている。明らかに進路が村の方向であるためこちらを狙っていると思われ、手を出すなら早い方が良いだろうと考えられた。
「チオシア、かけたい罠の順番も考えてシアニ達に指示を出してくれ」
「キヒッ。了解だ。完膚なきまでに叩きのめしてやるよぉ」
俺よりも罠の事を把握しているため作戦を立てやすいだろうチオシアに指揮権を渡す。その指示に従って動くことになる弓使いのシアニや賢者のアンミは一瞬嫌そうな顔をした気がしたが、すぐに真剣な表情に変わって準備を始める。
あれ?こいつらって皆人間嫌いだからその関係で仲がいいと思ってたんだけどな。まさか嫌そうな顔をされるとは。指揮下に入るとなると話は別なのか?
まだまだ知らないことが多いな。
ただ、嫌な顔こそしたものの決して手を抜くなんて言うことはしないみたいだ。
チオシアの指示のもと魔法や矢を放って行き、スライムに攻撃を当てて誘導していく。
「…………矢は効いてなさそう」
「スライムじゃし、物理攻撃は効きにくいのかのぅ。特に刺突系はコアにでも届かせん限りたいして意味はないのかのぅ」
「クヒッ!かまわねぇよ。そもそも攻撃を聞かせるのが目的じゃねぇんだから。こっちに気づかせて誘導できればそれでいい」
スライムは特に皮膚も存在しなければ内臓だってない。と言うことで、唯一の弱点である内部のコアに攻撃を当てない限りスライムに矢は効かないということだった。シアニの攻撃ならそれなりの威力があるし肉体を多少削ることはできると思うんだが、それでも効いていないと評価するということはその多少削るというだけではほとんど意味がないくらいスライムは巨大なんだろう。
ただ、魔法の方は矢に比べると効果を出しているようだし、目的である誘導にも成功している様子。
「攻撃を恐れてない。どちらかと言うと、美味しい餌があるとでも考えてそう」
「それはまた自信があるな。それだけ今まで敵になるような存在がいなかったってことなのか?」
スライムは攻撃を恐れていないらしい。それだけの巨体になれるだけ色々今まで吸収してこれたんだと考えれば、敵と言う存在を知らないことも予想がつくな。
なら、そんな井の中の蛙に教えてやろう!本当の強さと言うものを!!…………俺の仲間がな!!
「おっ、見えてき始めたな。そろそろ罠が作動するぞ」
しばらく待っていればスライムの姿が見えてくる。
本当にその体が大きいということは間違いないようで、それなりに距離があるはずだというのにハッキリとその姿が見える。それと同時に、いくら俺に勇者の剣があると言っても真正面から戦うのは無理かもしれないと思わせられた。
スライムなんていくら体を切って削ったとしてもその中のコアを破壊するまで倒すことはできないため、剣の攻撃がコアまで届くようにするためにどれほどの時間が必要かなんてわかったものではないんだ。
そう思えるほどの、巨体。
そしてその巨体はついに、罠の仕掛けてある地帯へと侵入する。
直後、
「…………キヒッ。ヤベェな。罠が作動する前に飲み込まれちまった」
おいぃぃぃぃ!!!!!!どうすんだよそれ!?




