10.お片づけ完了!
「ふぅ。大変だったな」
「お疲れ様です勇者様」
「…………勇者様。お水を」
「ああ。ありがとう」
何故か俺の分しか用意されていない水を受け取りつつ、俺はやっと安心で来たような気がした。
どうにか魔物の群れを殲滅できたということだ。もちろんまだ、少しだけ騒いでいる音は聞こえたけどな。だが、さっきと比べると確実に数も減ってきているし新しい場所に誘導したから塀を超えられることもないだろう。今の状態が続くなら安心してもいいはずだ。
そうして一息つくと色々と分かってくるものもあって、聖女のアクアが言うように確か臭いがきつくなってきていることを感じた。
亡骸を処分とかしないとまだ眠れないかもしれないな。
そして、気づくことはそれだけではなく、
「アクア、とりあえずこれを」
「ああ。ありがとうございます。少し肌寒かったので助かります」
「それなら早く服を取りに行けよ。もうそれは服として機能していないだろ」
アクアの服がとんでもないことに気がついた。詳しくは言わないが、服として何1つ機能していないぞ。
アクアの回復能力は確かに優秀なんだが、それでもさすがに服にまで効果は及ばないんだよな。だから、攻撃を受けてできた体の傷は治せても、服が破けたりすることはどうにもできない。これもアクアのあの戦い方の欠点ではあるな。
絶対に周囲に他の人間の目があるところでは使わせられねぇよ。
俺としてはそんな状態なんだし早く服を取ってきてほしいのだが、本人は俺が渡したマントで満足してしまっている様子。こいつには羞恥心と行かないのか?
ついでに、着心地も最悪だと思うんだけどな。俺のマント、魔物の血が大量についていてひどいことになっているし。
「とりあえず、アクアは体洗って服取ってこい。さすがにその状態だと体壊すぞ?」
「かしこまりました…………体は治せるので壊れても問題ないのですが」
「傷は治せても病気は治せないだろうが。風邪ひく前に動け」
満足してしまっているアクアを強引に動かし、俺はその背中を見送る。その後しばらくじっとして体力を回復させた後、
「それじゃあ処理の方していくか。臭いの解決もしなきゃいけないとか地獄にもほどがあるだろ」
「臭いなどなれるものだと思ったんだがな。意外と気になり続ける」
「…………実験の影響が臭いにも出てる?」
まだやらなければいけないことは残っている。シアニに一応魔物達の様子を警戒してもらって、その間に俺とクーロリードで亡骸を埋めるなり焼くなりするとしよう。
無計画に火を放つと塀が燃えるという話だったが、一か所に魔物を集めて焼いて行くという形にすれば問題ないだろう…………ないよな?実は火をつけると大爆発する魔物とかいないよな?
「一応まとめて焼く前にそれぞれの種類を1対ずつ焼いて行った方が良いか」
不安になったため安全策をとることにした。
こうして働いた結果、眠れたのは結局日が昇る直前になってしまうのだった。
快眠できた奴らには悪いが(とはいってもあそこで俺たちが動かなかったら魔物の攻撃を寝ている間に受けていた可能性もあるが)それから1日休みをもらい、睡眠時間も確保したうえで万全の状態を取り次の目的地へと向かっていく。
「さすがにあの魔物達も姿を見なくなったな」
「じゃな。もう全て討伐してしまったということかのぅ」
「自滅するものも多かったようですし、そもそも長い時間は生きていられなかったのでしょう」
今回の行動は、珍しいことに出発のタイミングで一言も人間への悪口が出なかったし、舌打ちもなかった。
村に人間がそもそもいなかったのだから当然ではあるのかもしれないが、なかなかいいスタートを切れたのではないかと思う。普段みたいに俺がげんなりしないで済むというのは本当に良い事だ!
あまりやりたくはないが、精神的にきついときには人の集落で過ごすんじゃなくて野宿とかしたほうが良いかもな。
なんて思ったわけだが、別にそこまで精神的な負荷がかかっているわけでもないため俺はいつも通り人の集まる場所を目指した。
道中の敵はほとんど仲間が倒してくれたし、やはり改造された魔物を経験した後だと楽に感じてしまうな。油断はいけないと思うものの実際苦戦することも特になかったため目的地への到着もかなり早く、
「どうしますか?現在のペースを考えますとこのまま突っ切って次の村まで行けてしまいそうですが」
「そうだな。昨日の遅れも考えてもうちょっと進んでも良いのかもしれないが…………少し聞きたいこともあるし今日はここまでにするとしよう」
それこそ次の目的地にも行けそうな雰囲気だったが、やりたいことがあったためそれを俺は無理矢理止めた。
やりたいことと言うのはもちろん今日出発した村の事で、
「なぁ。村長。俺たちは地図のここにある村から来たんだが、何か知っていたりするか?」
「何か、とおっしゃいますと?」
「魔物や人間を使った帝国による実験についてだ。村人がとんでもない姿になっていてな」
「…………なるほど」
この村の村長は、何か知っている様子を見せた。
ただ問題はその知っていることを素直に話す気はなさそうだということと、
「勇者様。下がってくれ」
「勇者パーティに剣を向けるなど、どういうつもりじゃろうな?」
それを知ってしまった俺たちを始末するつもりなのか、剣を向けてきたこと。
正直立ち姿を見るだけでも素人同然であることは分かるし、俺たちが負けることはないだろう。しかし、ここでその命を奪えば気になっていることの詳細は聞けないかもしれないんだよなぁ。
困ったものだ。
なんて思っていたんだが、いつまでたっても村長の攻撃はやってこない。それどころか、しばらく剣を持ってジッとしていたのだが次第にその剣先が震え始め、最終的には、
「ハァ。あれを知られた相手が勇者様方となると、何もできないではないですか」
その剣を下ろしてくれた。
どうやら俺たちに危害を加えようという気にはなれなかったらしい。言葉から察するに俺たちを消してしまうと魔王に勝てる存在がいなくなってしまうからと言った理由に聞こえるが、それならそれで構わないか。俺たちが勇者パーティで良かった…………いや、良かったのか?勇者パーティだったからあの村の事に巻き込まれたような気もするんだが。
と、色々思ってしまうが一旦それは置いておいて話を聞くことにしよう。
どれだけ話してくれるかは分からないが、聞ける部分を聞くだけでも掴めることはあるだろう。特に、それを聞くことでパーティメンバーの人間に対する印象が少しでも回復するような事柄がほしい!マジで頼む!それがないと本気で裏切りかねないからな!?
「なんだ?抹消しようということはやめてくれるのか」
「そうせざるをえませね。勇者様へ手出しなんてできませんよ。次善の策としてあのことは魔族の仕業と言うことにするというものもあったのですが、勇者様はすでに帝国の実験だということもつかんでしまわれたようですし。踏んだり蹴ったりですね」
「なら、せめて俺たちに情報をくれ。森で実験体の魔物が暴れまわっていたし、どこからか魔族が情報を掴んできて俺たちにぶつけたんだろう。実験の詳しい話を聞いて、どこから情報が漏れたのか探りたい」
「っ!?魔物が漏れ出ていたのですか!?しかも魔族に利用される形で!?それは何と言う…………」
天を仰ぐ村長。
なんとなくだが、苦労人の匂いがするぞ。この感じだと、事件の関係者と言うわけではないのかもしれないな。どちらかと言えば隠蔽の仕事を押し付けられたかわいそうな立場、みたいな?
あくまでも予感だが、ここから語られる内容にはかなり愚痴も入りそうだ。覚悟して聴くことにしよう。




