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一般性

作者: 豆苗4
掲載日:2025/08/20

 一般性とは万人が喉から手が出るほど欲しいものではないだろう。むしろ多くの人々にとって疎まれる存在である。ありきたりな生活、人並みな人生、ありふれた日常、いつもと変わりない帰り道。余りにも何度も執拗に繰り返されることだから、いやいや、もう十分なんですと首を横に振りたくなるほどにうんざりとしていることだろう。そんなものは一旦脇に置いておいて、特異的な何かが欲しい。例えばキラキラとした非日常、言葉を失うほどの絶景、一点の曇りもない星空、毎日が彩りに溢れる生活、矢のように胸を刺す美しい走馬灯。これらの特別な経験を志向するように多くの人々は振る舞うだろう。


 よく自身の生を形容する際に、普通の人生だとか、変わり映えしないものだと表現されるされることが多いが、まず第一にそれが一般的で普遍的であることなど断じてあり得ない。あり得ないのだ。一般的とは生活や人生、日常や帰り道などの様々な名詞を形容するに相応しいかのように思える。実際修飾するのだが、それがその意味で使われる際に、果たしてどれだけの人がその重みを自覚しているのだろうか。


 


 一般的だから特異的な方へ、特異的だから一般的な方へ。モジュールのように付けたり外したり出来るわけではない。おいそれと改変できるものではない。生から一般性を抽出しようとすれば、生そのものがどかっと立ち現れてくるように。生とは不可分であり、一般性という方法では切り分けることが困難なのだ。一般性とは生のあり方に関して修飾しているわけではなく、また別の、そうは言っても全く別というわけではない、ありふれた生に関して述べているのだ。それは生の拡張に関する問いなのである。生はどうしようもなく一般的であり、それをどうこうしようともがき続けることもまたその範疇なのだ。


 つまり、一般的な生や特異的な生があり、それらは明確に区別されている、という訳ではない。一般的な生と特異的な生は同じものを指している。


 だから、特異的であろう、あるいは一般的であろうとする為だけに、自分の生を利用しようとすることは一重に、人生を冒涜することに他ならない。その結果として生はおろか私をも消費財に貶めることになるからだ。生は何か特定の目的を得る為の手段ではない。私もまたそうだ。手に入れることができる全てのものをある目的のために投機したところで、得られるものなど何もない。量の問題ではないのだ。質の問題でも。何かを犠牲にして何かを得る? そんなことをしても失われたものと同じものがそっくりそのまま帰ってくるだけだ。生とは何かから何かへと器用に変換できるような作為的な装置ではない。くれぐれも大仰な歯車に組み込まれてはならない。


 個々の生は十二分に特異的であり、それが脱落しているだけなのだ。そうであるが故に結果的に普遍性を持ち得るのだ。




今日。朝起きる、ご飯を食べる、寝る。

次の日。朝起きる、ご飯を食べる、寝る。

次の次の日。朝起きる、ご飯を食べる、寝る。

次の次の次の日……。


昨日。朝起きた、ご飯を食べた、寝た。

一昨日。朝起きた、ご飯を食べた、寝た。

二日前。朝起きた、ご飯を食べた、寝た。

三日前……。




 それをふまえてもなお、私は「一般性」を渇望するのだろう。それを獲得するために死力を尽くすのだ。「一般性」とは切望しても切望しても決して手に入ることのない代物であり、万人においてもそうなのだろう。


 なぜなら「一般性」とは獲得されるものではないからだ。経験されるものだ。誰の手によって? 誰の為に? 何の為に? 無数の死者に夢見られんが為に。


 私の手は死者の手である。指でさえも。彼の地ではなく、この地において身体性を獲得せしめるのだ。もはや使役ではなく、能動として。彼らとは我々の奥底に隠された秘密であり、我々とは幽霊だったのだ。


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