表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
溺愛に気づかない彼女は、つぶやきで世界を変える  作者: 酔夫人(旧:綴)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/28

第5話 事件のその後(1)

ルディウスが目を覚ましたことでルディウスの毒殺未遂事件は新聞記事になり、直ぐに毒を盛った犯人も公表された。


犯人は第一王子に長く仕えていた従者だと知ったセラフィナは眉をしかめる。


「信じていた人に裏切られるのって辛いわよね……やだ、涙が出そう」


いまセラフィナが呼んでいる新聞記事を書いたサラディンは、長年仕えていた従者に裏切られた第一王子の悲しみと、「ルディウスが憎らしかった」と私怨で犯行を起こした従者の身勝手さを劇的に仕上げていた。


(この記者、小説家になればいいのに)


この瞬間、のちに『ロマンス小説の女王』と呼ばれ、王家にもその作品が献上される女性小説家が生まれた。



「セフィちゃん、泣いているけど、どうしたの?」


「第一王子の毒殺暗殺未遂の記事を読んでいたんです」


同じ記事を読んだ夫人は納得したように頷いた。

彼女もサラディンの記事のファンだった。


「セフィちゃん、この犯行って、従者の単独犯だと思う?」


「それはないと思っています」


国中のあちこちで推理ショーが行われているんだろうな、とセラフィナは苦笑した。


「従者は毒は下町にいるゴロツキから買ったと証言しているようですが、そんな未知の毒を、商人でもないゴロツキが持っているなんて怪しいですよ」


解毒剤がない未知の毒。


つまり服用させれば暗殺成功の品など、政争中のいまは金塊よりも貴重で、それを貴族令息とはいえ一介の従者が単独購入などできるはずはない。


「でも……嘘であってもその証拠はないし、証言は正式なものでしょう?」


困った表情の夫人にセラフィナは首を傾げた。


「主人の心臓の薬を作っている薬師さんが事情聴取を受けることになっちゃって……」


従者が証言したゴロツキとの密会場所がその薬師の店舗の裏だったらしく、その薬師が“ゴロツキ”なのではないかと調査されているらしい。



「やっていないことの証明は難しいでしょう? いつ解放されるのかしら……あの薬の原料はお隣から輸入していると聞いたから、あっちにいる息子夫婦に薬を送ってもらうにしても検問を通過するのに時間がかかるわよねえ」


(その“時間”が夫人の不安の原因なのね)


セラフィナは健康なので薬には縁がないが、夫人のいう薬師が誰かは分かっており、あの人の好さそうな老薬師がそんなことをするわけがないと思っていた。


(つまり、その従者は嘘をついているのね)


つまり――。


「裁判のとき、みんな、本当のことしか言えなくなればいいのに」




その少し前、城では裁判が開かれていた。


裁判長に暗殺未遂の動機を問われた従者ヴァシルトがルカヴィスへの私怨をつらつらと語る姿に、ルカヴィスは「そんな風に思われていたのか」と落ち込んでいた。



「それでは、そなたは自分でその毒を手に入れ、自分の意思で殿下のグラスに入れ、暗殺しようと試みたというのだな?」


この従者の裏にリアン侯爵と王妃がいると分かっているが、ヴァシルトの身の周りを調べても証拠は上がらず、彼の証言がなければリアン侯爵と王妃を罪に問うことはできない。


そのため同じ質問を何度も繰り返しており、また今回も「その通りです」とヴァシルトが言うと誰もが思っていた。


「リアン侯爵の使いの者から毒を受け取り、リアン侯爵の命令で殿下のグラスにその毒をいれました」


突然の告白に裁判場は騒めき、その場にいた全員の目がリアン侯爵に向いた。


リアン侯爵の顔からは先ほどまでの太々しいほどの余裕は消え、顔を怒りで真っ赤にしてヴァシルトを睨んでいた。


リアン侯爵に睨まれたヴァシルトは顔を真っ青にし、何か言おうと唇を動かしているが言葉にならない。



「リアン侯爵」


騒めいていた会場に国王カリスティオンの声が響いた。


「この者の言っていることは本当か?」


「本当です……っ!」


リアン侯爵は信じられない表情で、慌てて口で手を覆ったが、すでに認める言葉は口から出てしまっている。



(どうしたって言うんだ?)


自白剤でも飲ませたのかとルカヴィスは父王を一瞬疑ったが、父王の顔に浮かぶ驚愕は演技ではないと気づき、その疑いを捨てた。


ふと、最近似たような事案があったことをルカヴィスは思い出した。


(まるでレヴィ伯爵のようだな)


レヴィ伯爵はいまは牢獄で刑の執行を待っており、焦点の合わない目で「どうしてあんなことを言ったのか」と呟き続けているらしい。


(どうしてあんなことを言ったのか、か……それなら……)


ルカヴィスはヴァシルトを見据えた。


「リアン侯爵が残した証拠はあるのか」


「あります……っ!」


ヴァシルトは几帳面な性格をしているし、悪い言い方をすれば疑り深い。


だからこそ問いだったがーー。


(多少は理解できているところもあった、か)


共に過ごした時間の全てが虚飾じゃなかったことにルカヴィスはホッとした。



ヴァシルトのその後の証言通り、リアン侯爵直筆の手紙がヴァシルトの部屋の、二重底になっていた机の引き出しから見つかってた。


【今夜、例の毒でに実行せよ——】


リアン侯爵の印章と、紛れもない裏切の証。


ルカヴィスは僅かに視線を逸らし、直視を避けた。


その手紙を皮切りに、ヴァシルトとリアン侯爵の手紙の受け渡しに関わった者たち、隣国から毒薬を入手した伯爵家の当主など罪人が明らかになっていった。



「第一王子、何か言いたいことはあるか?」


父王の言葉にルカヴィスは頷き、ヴァシルトに動機を尋ねた。


「私は平民になりたくなかった。リアン侯爵に協力すれば、彼の分家の子爵家に婿入りさせてくれると言われました」


“そんなことで”とルカヴィスは言い掛けたが口を噤んだ。


(他人の気持ちは分からない)


「もういい……査問官」


「はい」


査問官がガベルをカンカンッと打ち鳴らし、この音が貴族派の崩壊を告げる音となった。

次回は 7月25日12時 に更新します。


エブリスタで先行公開しています(https://estar.jp/novels/26401692)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ