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24話 種明かしをさせていただきます

 果たして、ユタンちゃんはやり遂げてくれた。


 ほんと見事な彩色。絶妙なグラデーションのかかったパステルカラーだ。


 とはいえ、ちゃんとこちらの要望どおり、アースカラーだけを使った配色でもあった。


 今までのキラキラした地金そのままの色からの一転。それゆえに尚更、ほのぼのとしたぬくもりを感じる。


 俺だったら、こんなでっかい球体に着色するのって、漠然としすぎてイメージなんか湧いてこない。


 派手で妙ちくりんな感じになるか、単色で無難に仕上げるかのどちらかになりそうな気がする。そう、俺みたいな凡人なら。うん、普通じゃないね、完璧です。


 それに、どうやったら、こんなきれいに塗れるの!? まるで工業用ロボットに塗装させたやつみたいじゃん。


 これって、間違いなく売れるやつだ。


「この色、この色ですよ! この色が欲しかったんですよ!!」とか絶対言われそう。心に刺さるカラーリング。機能なんて、どうでもいいからって。


 ごく普通の雑貨を扱ってただけのあの店が、あれほどの人気を博してたわけだよ。


「ありがとね、ユタンちゃん。実にわんだほぉーっな仕上がりです」


「ふんす」


 ユタンちゃんもご満悦。


「ほんと……素敵ね」


 そりゃあ、スプライトだって気に入るわな。


 これなら毎日使ってても、飽きが来そうにない。大切に思えるからこそ、いつまでも丁寧に扱おうって思えてくる。


 あ、もしかして、安物が壊れやすいのって、物の作りが甘いだけじゃないのかも……。使い手が愛着を持てずに、物を大切に扱えていないせいなのかもな。


 うん、物を大切にする秘訣をユタンちゃんに教わった気がする。へえ、そうなんだぁ。そうだったんだなぁ。


 さて、お次は、俺の出番だ。


 隠蔽魔法【光学迷彩】があるから、大抵のごまかしが利くだろうけど、魔法使用時に生じる魔力がちょっと気になる。できたら、これも秘匿しておきたい。


 他の人がどの程度魔力を感知できるかはわからないけど、アリエルなんかは、かなり敏感に反応してたよな。


 そこは勇者になるほどのやつだから、と思いたいところなんだけど……。この世界の基準がまるでわからないし、念には念を入れとこう。


 ははは、実は、ユタンちゃんに色付けしてもらった途端、他人に取られるのがどうにも惜しくなっちゃったんだよね。我ながら、現金なもんだ。


 魔力を秘匿するとなると、どの系統の魔法になるのやら? まんま闇でいいのかな?


 そもそも、闇属性って、どんなことができるんだろ? 光属性の対極的なイメージを勝手に抱いていたけど、いまいち把握しきれてない気がする。


 そういや、アイテムボックスを作れないかと散々思案していた際、ほんのちょっと使った印象では、不思議な感覚に陥ったんだよな。


 本当に微細なブラックホールならできるかもしれないとも……。怖いから、さすがにやらなかったけど。


 物を引き寄せることくらいはできそう。それを魔力だけに限定できればいいのだけど。とはいえ、理論的な思い付きの方は、いっさい浮かんでこない。


 物は試し。とりあえず、イメージづくりからだ。最初は、ブラックホールよりも引き寄せる力をもっと弱くしたイメージで。


 う〜ん……こんな感じでいいのかな? イメージが曖昧であやふやだと、なんだか不安になるなぁ。


 もうちょっとブラックホールをイメージ……しちゃあ、駄目か……だったら、忍者的な忍ぶイメージか? いやいや、こっちの方が難しいや。


 そもそも、存在が無いものだったり、希薄なものをイメージするのって、やはり無理がある。意識すればするほど、理想からかけ離れていくもの。矛盾してる。


 それって、無我の境地を目指すようなもんだ。少なくとも俺みたいな俗物には無理。


 やっぱり、ブラックホールがしっくりくるんだよなぁ……周囲に情報を与えないように、吸収しちゃう印象が。


 今回は【光学迷彩】を使うから、別に光を捕らえる必要がない。いや、むしろ捕らえられちゃ困る。それほど強力な引力じゃなくてもいいはずだ。


 魔力の振動を外に漏らさない程度なら、少し弱めに掛けた闇の守護結界で抑えることができないかな?


 とりあえず、その方向性でもう少し明確なビジョンになるよう、イメージを少しずつ練り固めていく。


 ──そろそろ、いいか? 試しに、闇の結界をかけてみた。


「おわっ!」


 って、これじゃ駄目だな。


「きゃっ!? なに?」


「!?」


 そうなんすわぁ。二人も驚いたように、こりゃあ、ひどい……真っ黒い闇が大きな口を開けたかのよう──まるで空間そのものが丸く抉り取られたみたい。


 それも、滑らかな球体のはずなのに、なぜか歪な印象で、ひどく気持ちを不安にさせられる。こんなにも周囲との差が際立ってしまっては、失敗だ。


 もっと薄く、もっと淡く、もっと朧気な感じでっ!


 これならどうだ?


「えっ!? 今度はなに? 見えなくしただけじゃないのよね? ……えっ!? 無くしちゃったの? せっかくきれいにできてたのに」


 ふふふ、そう思うよな。


「……」


 眉間に皺を寄せて怒った表情のユタンちゃんも、かわゆす。


「あれっ? これって、大丈夫なのか?! ……なんてね。大丈夫でしょ、ほらっ!」


 供給していた魔力を断ち、全ての魔法を解けば、このとおりだ。


「えっ!? なんで?! どうして?」


「……」


 あはは、二人からいい表情を頂きました。


 スプライトは未だ目をぱちくりさせてるし、ユタンちゃんもぽかんと口を開けたままだ。


「説明しよう! かくかくしかじか、なのであった」


「え、なに!? そのカクカクシカジカって?」


「あはは、ごめん。ちゃんと説明する。えっと、なんていうかな? 【光学迷彩】だけでも、普通の人には有効だと思うんだけど。どうしても光属性の魔力が外に漏れ出すわけだ。勘がいいやつなら、気配でバレる。だから、闇の結界魔法を内側に重ねてだなぁ。魔力が漏れ出さないように調整したんだよ。さっき一度失敗しちゃったけど」


「ほんと? ……なのよね。確かに見えなくなってたし、魔力も全く感じなかったけど……へえ、闇属性って、そんな性質があるんだぁ」


「あっぱれ」


「ははぁーっ、お褒めの言葉をいただき、恐悦至極にございます。ユタン様」


 これなら結界を掛けた俺ですら、精霊との魔法線をたどっていかなければ、見失いそう。そのくらいの出来映えだ。パーペキ。


 ふぅ〜っ、最初はどうなることかと思ったけど、なんとか上手くいったな。


 魔法関連では初めて苦労した気がする。やはりイメージしにくいものって、精霊魔法で実現するにはネックになってきそうだ。


 さあ、あとやるべきことは、次の町までの情報収集だ。


 となると、定番は酒場なんだろうけど……。俺は飲みながらだと、ついつい酒や料理にばかり目が行っちまうからな。訊くべきことをうっかり忘れちまうんだ。


 いや、待てよ。そういや、前回のこともあるし、また宿屋で相談してみるか?


 そうと決まれば、聞き込みだ──


 ──戻ってきた宿屋の受付には、いつものように立って仕事をしているご主人が……。


 本当にいつ休んでるのか心配になるよ。


 あ、いけね。前にいろいろと教えてもらったお礼、まだだった。


「先日はありがとうございました。お陰様で──」


「!?」


 礼を言う際、感謝の気持ちが抑えきれず、思わず相手に近づきすぎてしまった。少し怪訝そうに、ご主人が視線をさまよわせる。


 でも、すぐに合点がいったのか、表情が打って変わって、にこやかに。そして、頷いてくれた。


「そうでしたか。それは良かった。それと失礼いたしました。先に謝らせて頂きます。お客様はもう随分とこちらの宿にお泊まりいただきましたし、洒落を分かってくださる御方と見込んで、そろそろ種明かしをさせていただきます」


「えっ!? なんですか?」


「ふふふ、お気づきになられていないようですが、今、お客様が仰られた情報をご提供させていただいたのは、弟の方なのです。お礼を頂戴しましたことは、後で弟に伝えておきます。実は、この宿の趣向といたしまして──」


 なんと宿屋のご主人は、双子だった。


 道理で、いつもいつも受付にいると思ったよ。


 どうやら客に見つからないように、裏でこっそり交代していたらしい。兄弟ともにしっかり休みは取っていたようだ。うん、なら、安心。


 宿泊者の中には、俺みたいに誤解する人も多く、常に受付にいる働き者の主人として、近隣の町でもそこそこの噂になってるとか。客足が絶えず順調なんだとか。さすがだ。


「なので、なにとぞ、その辺はご内密に。できますれば、他の町で噂を広めていただければと。次回、お安くお泊めいたしますので」


「ふふふ、あなた、やるわね」


「ふふふ、お褒めいただき、ありがとうございます」

「うん。あたしがもっと噂を広めてあげる」


「ははは、どうぞよろしくお願いいたします」


 スプライトが、なんか意気投合してる?


 まあ、気持ちはわかる。ちょっとした悪戯心があって、でも、仕事の方もきちんとできるご主人──こんないい歳の取り方をした、壮年の男性が醸し出す雰囲気ってのは、俺も羨ましいからね。


 おっと、肝心なことを忘れとった。


「実は俺たち、北へ旅を続けようと考えてまして。次の大きな町についての情報や経路がわかれば、教えていただきたいんですけど」


「ええ、それでしたら、この町以上の規模であれば、大抵は街道で繋がっております。街道から離れさえしなければ、そうそう道に迷うこともないでしょう。北への街道沿いで次となると、この町のほぼ真北に位置する【エピスコ】という大きな街になります。馬車で六日ほど。歩いて行かれるのであれば、十日ほどの距離ですね」


「へえ、次の町までは結構な距離があるんですね」


「ええ、ここから北は、大規模農家が多い地方ですから。村と呼べる程度の集落も少なく、街道からもかなり離れております。隊商が行き来する街道なので、警邏の巡回はそこそこあります。比較的安全な旅になると思いますよ。もっともお客様が盗賊の残党を捕まえてくださったお蔭でもありますが。ははは」


「はは、そこは偶々なんで。なるほど、参考になりました。ありがとうございます」


「いえいえ、この町へまたお越しの際には、是非お立ち寄りを」


「ええ、もちろんです、そのときには。……では準備が整い次第、早ければ明日にでも出発したいと考えています。今までいろいろとお世話になりました」


「いえいえ、こちらの方こそ、ご利用ありがとうございました。妖精様方もお元気で」


「ええ、世話になったわね」


「ごくろ」


 明日は弟さんとの交代で一日休みになるそうなので、今日でこのご主人とはお別れだ。


 さてと、街までの情報も得たことだし、今度は買い出しか。


 あ、そういや、食料品を扱ってる店って、表通りでは見かけなかったな。しまったぁ。店の場所も訊いとくんだった……。


 くぅ、別れの挨拶をした今となっては、受付に戻って訊くのはちょっと……とんぼ返りみたいで格好つかないな。


 あっ、なら、こっちの入口から食堂に入るか。例の給仕のおばちゃんにでも訊いてみよう。


 まあ、今の時間帯なら、それほど厨房も忙しくないはず。さして迷惑もかからないだろう。


 しかし、相変わらず、俺って、抜けてやんのな。はあ、ちゃんとした大人には、いつになったら、なれることやら……。

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