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21話 お手伝いいる? いらない?

 完成した【歩いてくボックス】をユタンちゃんが転がしていく──なんだかんだで、結局、この名前に落ち着いた。


「ユタンちゃん歩いて、てくてくてくてく……技術詰め込み、テクテクテクテク……僕のダジャレで、くすっと笑っちゃう〜! 僕っくす、な箱だ〜♪」


 ふふっ、上機嫌になって、つい口ずさんでた。


 少し間を置いてから、二人ともクスクスと笑い出した。


 やっぱ聞こえてたか。あまりのバカバカしさに、呆れを通り越して、かえってツボに入ったみたい。


 しばらくして、町にかなり近づいてきた。


 隠蔽魔法【光学迷彩】を施してあるものの、さすがにこのまま門を潜る勇気は俺には無い。


 街道から離れ、ちょっと前にスプライトが切り倒した林の一角へと向かう。


 ここなら、林が陰になって、門からも見えない位置だし、人が近寄りそうにもない。おまけに少し拓けた分、歩いてくボックスを隠すにはちょうど都合がよかった。


 ただ、もし盗まれるようなことにでもなれば、ユタンちゃんが、がっかりするのは目に見えてる。一応、防犯用に、雷の守護結界【スタンフィールド】をかけておく。


 スプライトに風魔法のコツを訊いたら、上機嫌で教えてくれたよ。


「いつだって相談に乗ってあげるからね、ふふん」


 これでひとまず安心だ。


 ふぅ、今日は朝から大忙しだったな。みんなも随分とがんばったから、腹も減っただろう。


 もうちょっとで夕飯時だし、宿に戻ることにした。


 門に近づいていくと、なんだかいつもより行列が長い……。それも、入郡許可証待ちならいざ知らず、普段は素通り同然の通用口ですらも、列ができていた。


 どうやら一人一人、【メダリオン】と名簿を突き合わせ、チェックしているようだ。


 なにがあったのかを門衛に尋ねている人もいたが、すげなくあしらわれている。てんで相手にされてない。


 聞き耳を立ててみたが、それらしいことを噂している連中もいなかった。


 俺たちの番になったので、メダリオンを見せて、チェックを受ける。


 番号を台帳と照らし合わせるのだったか。いや、こちらの応対の様子をそれとなく窺っている感じか?


 ん!? なんか嫌な顔された? けど、問題なく入場することができた……。はて、本当になんだったんだろ?


 いやいや、今はとにかく、飯食うのが先だ。腹減ったぁ〜。


 部屋には戻らず、食堂へ直行する。


 入った瞬間、「「「「オオォーッ!」」」」という大歓声が湧き上がった。


 おっ、俺待ちか? 違うわな。そうだった、忘れとったわ、この鬱陶しい耳族待ちの連中のことを。


 外で食うか? でもな。どうせ、こいつらも追いかけてくるんだろうし……。


 あ、ユタンちゃんが指くわえて!? あぁ、隣のテーブルにある料理をじっと凝視してる。それ、食べたいんだよね?


 二人もお腹減ってるみたいだし、今回は仕方ねえか。


「ユタンちゃんも、あれ食べてみる?」


「オムライ」


 あっ、ほんとだ。オムレツじゃなくて、オムライスだったか! そういや、長粒米があるって言ってたもんな。


「すみませんっ! 三人分お願いしゃーすぅ」


 おっほぉ〜っ、ユタンちゃんじゃないけど、俺も心躍るよ〜!


 炒飯系には長粒米が、なにげに合うからなぁ。ぱらっぱらっになる。まあ、しっとり系の炒飯も大好きなんだけどね。


「ふたりしてウキウキしてるけど、そんなに美味しい物なの?」


「さあ?」


 ユタンちゃんも同時に、首を横に激しく振っていた。かわい。


「知らないのに、なんでそんなに浮かれてんのよ?」


「いや、だって、こっちの世界のオムライスって、初だもの」


「えほん」


 ユタンちゃんも絵本で見たことがあるだけで、食べたことなかったらしい。


 おっ、きたきたぁ〜っ!


「あ、そうそう。今度は舌、火傷すんなよ」


「うん、わかってる。ありがと。でも、あたしだけ冷めるの待ってるの、やだなぁ」


「だったら、ふうふうすれば? こうやって、ふぅーって息を吹きかけてやると、少しは冷めるぞ」


「へぇーっ、そうなんだ! やってみようっと」


 俺はまだ食べずに観察しようっと! かわい子ちゃんのふうふうがこんな間近で見られるのなら。


 って、おいっ! あれ!? 普通に食べ出しちゃったぞ。


「な、なに? なんか変なとこ、あった?!」


「いや、熱くないのかと……」


「ふうふうしろって言ってくれたじゃない」


 えっ!? してないよね? うん、してない。ふうふうしてない……あれっ!? 記憶飛んでた?


「ほらっ、こうして、風風ふうふうって」


 あっ! こいつ、風妖精だった。口をすぼめなくても、風を起こすのなんて、お茶の子さいさいか。ずるいよぅ。


 はあ……んじゃ、俺も冷めないうちに、食べよっと。


 おぉ、なかなかいける! はあ〜、久々のお米だ。ふわぁ、なんか噛みしめる度、米の甘さが沁み透って……しゃあわせ〜。


「ん!? なんだよ?」


「おいひい」


 スプライトのやつ。自分のほっぺを突いているから、なにかと思えば……。ピストル形にした指が妙に目を引く。


 おいおい、それって、まさか俺が気づくまで、ずっとやってたのかよ? 目を輝かせちゃってまあ、かわいっ。


 ユタンちゃんにしても、凄いよな。それ、なんの工事!? 身体の大きさとさほど変わらないオムライスをがっしがっしと掘り起こすように食べてる……。


 スプーンが大きすぎたのね。まるでスコップか、シャベルみたいだもん。今度から専用のカトラリーを用意してあげた方がいいな。


 ……でも、量の方は問題なく食べきれちゃいそう。すごっ。


「……ぬ!?」


「うん、気にしないで。今日はいっぱい身体を動かしたもんな。いっぱいお食べ」


「おむ らいふ」


 ふふふっ、なんかそれ、すごいな! うんうん、人生かけてる感、すごく出てるよ。


 楽しい夕食も終えて、部屋に戻る。


 部屋のドアノブに大きな袋が掛けてあり、中を覗くと中身は毛布だった。


 あーっ、そうだったな……ベッド、どうしよっかな?


 セミダブルくらいの大きさのベッドだから、二人で寝るには、ちと狭いよな。えっちなことせずに、横に並んでしっかり睡眠取ろうとなると……。そもそも、俺なんてドキドキして寝れるとは思えんけど。


 スプライトさんの方をちらちら見ても、特に反応はなし。


「今日は朝から一日中動きまわったから、少し疲れたんじゃないか?」


「いろいろあったもんね。楽しかった……ふふっ」


 あんまり疲れてないの? スプライトさん。若いからかなぁ? あれっ、スプライトって、一体いくつ? いかんいかん、こう言うのは妖精でなくとも、女性にはすぐ伝わっちゃうから。


 しかし、落ち着かんなぁ。身体の至るところが、なんだか無性にむず痒くなってきたよ。なんでだろ?


 気が付けば、意味もなく、指を組んだり、手のひらをさすったり……。それにスプライトだって、なにも喋らなくなっちゃったし。


 なんか話すことなかったっけかな?


 あっ、そうだ! そういや、着替えさせたはいいけど、まだノーブラのまんまだった。


 まあ、もう後は寝るだけだし、別にいいか? 俺得なわけだし。


 いや、それだと明日が心配になる。またノーブラのままで外を歩かせることになっちまう。それは絶対にやだ。やっぱ、ユタンちゃんに作ってもらおっ。


「なあ、スプライト。服の次は下着な……って、そういや、ノーパンでもあるのかぁ。はあ〜」


「ん?」


 いや、むしろ、ちょうどいいな。上下セットの方が、かわいさが増す。つうか、服より下着が先だった……いやいや、あの場合は仕方がなかったんだ。


 それでは、ちゃちゃっと俺好みの下着をデザイン画にしてみるか。はあ、今にして思えば、【エルフの郷】で筆記用具もらえてよかった。


 とはいえ、絵は苦手なんだけど。……あ、消しゴム無いのが、地味にむずい。


 簡単なデザインしか書けそうにないけど、取り急ぎだ。よしとしよう。


 パンティーは左右両サイドをリボン紐で結ぶやつ……あれなら簡単そうだし、好みだ。大人スプライトには、ばっちし似合うだろう。


 脱がしやす、いや、その……脱ぎやすくていいでしょ? ってことだよ。あれっ!? でも、ゴムじゃないから、穿きにくそう。


 ブラジャーは、布なんかでどうやって立体成形にするんだろ? 絵だけじゃユタンちゃんに理解してもらうのは無理そう。補足説明も必要か。


「ユタンちゃん、お願いがあるんだけど、ちょっといいかな? あと、スプライトも。えっとな──」


 相談してみたら、二人とも興味をもってくれたみたい。


 皆でああだこうだ言いつつ、ユタンちゃんが作り出したら、あっという間に試作品を仕上げてくれた。


 いよいよ試着です。


 お手伝いいる? いらない?


 さては、おまえ等、父ちゃんを捨てちゃう派だな。「お父さん、居る?」「要らない」って。


「スプライトさんや、無理しなくていいんだよ。難しそうだったら、すぐに言ってね。ほらっ、服の時みたいにお手伝いするから……」


「ありがと。でも、これなら大丈夫そう」


 大丈夫じゃねえよ。そこは失敗しろよ……くそぅ、簡単なデザインにして、失敗したのは俺の方か? ブラもフロントホックなんかにしなきゃよかった。


 あっ、でも……これは、すごいかも。後ろから見てるだけでも……いや、むしろ、こっちの方がじっくり見れる分、むらむらする。はぁ〜ん、すんばらしい光景……。


 ありがとう、神様。俺、なんか頑張れそうな気がしてきました。


 相変わらず、相棒の方は、うんともすんとも言わねえ哀棒だけどな……。まあ、ユタンちゃんも居ることだし、今は暴れん坊になっちゃうよりはましか。


 この後、一緒のベッドに寝れる可能性もまだあるし……別途になる可能性の方が高いけど。


 今の俺って、相当バカに見えるだろうけどね。この状況でバカにならない男なんて、そもそもいないから。


「じゃじゃーん! どう?」


「はあ……きれい」


「っ!! ……」


「あっ、ごめん! つい。って、え、あれっ!? いや、別にいいのか?」


「きれい」


「うん、そうだよね。ユタンちゃんもそう思うよね。すんげぇーっ、いいよ! その下着。きれいとしか言いようがないもん。見惚れるしかない」


「そ、そう? えへへ」


 はあ〜……美しい。ほんのり赤くなっちゃって、更に。


 なんだろ!? これって? ユタンちゃんの美的超感覚と、スプライトさんの超絶な容姿端麗によるコラボレーション的な化学反応?


 後光がさしてる!? 神が降臨してくる予兆にでもなるんじゃないの? はあ、ありがたや、ありがたや……あぁ、神がお隠れに……。


「えへへ、ベッドで寝るのって、初めて……」


 あぁ、やっぱり……俺は床なんでしょうね。下着姿のこんなきれいな子とベッドインするだなんて、どだい無理だもんね。


 さてと、せめて比較的きれいそうな床は、どこかな? っと……やっぱ窓際の辺りがましな方か。うんだば、毛布を持って移動……。


「えっ、なっ!? 毛布持って、どこ行くの? そっちは窓しかないよ。飛び降りるつもり?」


 うっ、しどい。まさか部屋から出ていけってこと!? ……じゃないよね?


「えっと、窓際の床で寝ようかと思って……」


「え、なんで?! そこで寝るのって、このベッドよりも気持ちいいの?」


「そんなわけあるか!」


「じゃあ、なんでよ?! あたしと一緒じゃ嫌なの?」


「えっ! いいの? それでも」


「別にいいわよ。嫌なの?」


「そんなわけあるか!」


 おっほう、気が変わらないうちに、さっさとしよう……いや、なにもしませんよ、移動するだけだって。


 それにしても、なんか恥ずかしい。


 ちょっと狭いから、できるだけ端っこに寄ってやらないとな。初めてのスプライトが窮屈で眠れないと、かわいそうだ。


 壁側にしてやったから、寝ぼけてベッドから落ちることもないだろ。ちゃんと布団も掛かってるな。


「それじゃ、明かり消して、寝るぞ」


「うん」


 はぁ、スプライトの体温感じる。ちけぇえよ。あっ、寝返り打っちゃったか?


 まあ、それぞれ反対側向いた方が落ち着いて寝れるもんな。仕方ない。


 あれ!? でも、なんかさっきより近い気がするな。背中触れてないか? 柔らけぇ、なんだこの感触。ほんのちょっと背中同士で触れ合ってるだけで、これほどかよ? もし撫でようものなら……いったいどれほど?!


 ああ、なんだか興奮しすぎて、疲れちまった。


 今夜はいい夢見られるといいな。


 ムフフ、スプライトよ、覚悟しとけ。夢の中でなら、えっちなこと、いっぱいしちゃうかもしれないぞ。

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