「サルタヒコ商会」について
人ならざる者と人間の仲介役。
それが「サルタヒコ商会」という組織である。
表向きは「貿易会社」となっているが、その実態は全く異なるものだ。
商会の仕事は、この世界が闇に沈め、存在をひた隠しにしている異世界からの来訪者たち、すなわち「人外」たちからの干渉をコントロールすることである。それは端的に言えば、人間社会の崩壊を防ぐことなのだ。
これまでの長い歴史の中で、強大な人外たちは幾度となく人間界へ接触を重ね、その存亡を脅かしてきた。
神、悪魔、竜、精霊、妖怪、その他諸々名前すらつけられなかった怪物たち。
いまや神話やお伽話の中で、非現実的に語られるばかりの彼らは、実際に異界からこの世界へかつて来訪した存在であり、いま語られている物語たちは、過去に起こった世界的危機の一幕だったりする。
人間たちはそれらの危機を、何度も何度も紙一重で乗り越え、そして一つの共通点に気がついた。
それは、人外達はみないずれも本能的に「契約」というものを重視する、ということだ。
その気づきは、人間たちにとって、自分たちの世界を守るための一筋の光明となるものだった。
この「契約」の本能を上手く扱えば、自分たちは人外とのリスクしかない戦闘を避けて、上手く彼らと渡り合えるかもしれない。
そうして人間達は「商会」という組織を設立したのである。
「サルタヒコ商会」という組織は、彼らに「商売」という取引を持ってなんらかの「契約」をさせる。そうすることで人類は人外からの一方的な干渉を、なんとかコントロールしようとしたのだ。
そして結果として、見事その目論見は成功した。
世界崩壊の危機が観測される回数は、今では一年で一桁程度に収まったし、行方不明者のうち、人外の関与がされるものは全体のニ割まで下がった。
もちろん、はじめから全てがうまく行ったわけでは無い。商会という組織が成り立っているのは、そこで多くの「異能者」たちが人生を捧げ、働いているからだった。
「異能者」
それはこの世界に生まれた、人ならざる力を持った人たちのこと。
念じるだけで物を浮かせる力。触れるだけで記憶や感情を読み取る力。何もないところから炎や氷を生み出し、鋭い風を起こす力。
他にも多種多様な力があるが、彼らは人間でありながら、そうした世界の理を一時的に無視することができる力、「異能」を宿している。
彼らこそが、理の外からやってくる人外に対抗するため、この世界が生み出した防衛機構の一つなのかもしれない。そんな風にサルタヒコ商会の創設者はかつて言葉を残した。
ともかく、人外たちに唯一対抗できる力を持っているのが、彼ら異能者たちというわけだ。
彼らは、商会設立から今の今まで、商会での労働に人生のすべてを捧げ、日々水面下で人外たちと相対し、世界の崩壊を防いでいる。
世間の誰もがその献身を知らなくても、ヒーローはヒーローとして働き続けている。そういうことだ。
最後に、サルタヒコ商会のモットーについて紹介しておこう。それは三つある。
一、人外の存在が社会の公にならないように。
一、人外が人間に危害を加えすぎないように。
一、人間が人外とその世界に近づきすぎないように。
人間と人外の間に、丁重に境界線を引き、自分達はその線の上に立って橋渡しを行う。
それがサルタヒコ商会という組織なのである。
サルタヒコ商会 とある人事担当者のスピーチより抜粋