アットホームな職場です 2
逃げようと、何度思ったろう。
不死鳥の羽根が、瓶から出した途端に燃え始めて。
麻痺キノコの胞子がゾースの鼻に入って。
金針草の針が、人差し指に刺さって抜けなくなって。
放っておいた長寿亀の尾が、どんどん伸び始めて。
見た事ない物ばかりで、楽しかった。だからそれはいい。とてもいい。だが、その度に飛ぶサトゥナからの怒号、冷たい視線があまりにも、あまりにも辛かった。
そして、それを宥めてくれるゾースが、ありがたいやら申し訳ないやら……。
くたびれ果て、陽も落ち始めた頃に、また騒がしくなった。
「ちわーっス。薬草関係の回収にきやしたー」
「まいど! 魔獣の素材、もらいに来ました!」
続々と、素材の回収業者がやってきたのだ。
「お疲れ様でーす。回復系はこっち、食材はこっちで、魔獣が……」
素材を細かく分類して入れた魔法箱なる物を、業者に運んで行くようサトゥナがテキパキと指示を出していた。
「じゃ、また明日よろしくお願いしますね!」
業者達は、指示された魔法箱を更に小さくすると、それぞれ馬車や荷車やらのサイドポーチにしまい込んだ。あの箱にだって、大きさ以上の物が大量に仕舞い込んである。それを更に運びやすくするとは、魔法って便利だ。
「さて、業者も帰ったし。書類ももうまとめてるし……」
ゾースが、大きく背伸びをしながら言った。
「そうですね。今日はこんなもので良いでしょう。……イーノさん、よく頑張りましたね。お疲れ様でした、今日のお仕事は終わりです!」
やっと、サトゥナが笑ってくれた。それは、慈悲ある女神のごとき優しさで、後光が差していたという……。
「おし! 飲みに行くぞ!」
ゾースが、張り切って言った。
「えー、またお酒ですかぁ?」
「イーノの歓迎会だ! って、お前、酒飲めるか?」
気遣いを忘れない男、その名もゾース。……って。
「歓迎会ですか!? いいんですか、こんな今日入ったばっかの人間に……」
「何言ってるんです! あんなに大変な業務に着いてきてくれたんです。もう立派な仲間ですよ!」
「そうだぞ、水くせぇこと言うなって!」
「うぐぅっ!!」
左肩をサトゥナが、右肩をゾースが叩いた。
(え? 俺、ちゃんと歓迎されてるよな? この世界の人間、めっちゃ力強ない?)
でも……。
「行きますっ……!」
めちゃくちゃ嬉しい。きっと俺、小学生の時に初めて友達ん家に誘われた時と同じ顔をしているだろう。
「いい笑顔にいい返事だ! じゃあ、昼に行ったショルテの店に行くか!」
「え? 昼食は採取の道中で摂るって言ってましたよね? 別で行ったんですか? やっぱりサボり……」
「は、早く行かねーと席が埋まっちまうぜ!」
詰め寄ろうとするサトゥナをかわし、ゾースが俺の背中を押して慌てて外に出た。
「まったく……」
サトゥナが、呆れたように笑った。