食事というのは、飯屋を探す時から始まっています
この時間になると、早朝の喧騒が嘘のように静かになる。今頃、冒険者達は依頼をこなすべく奮闘しているだろう。
「イーノさん、例の新人拳士さんの書類、出来上がりましたか?」
サトゥナが、冒険者達の書類を棚に片付けながら訊いてきた。
「おぉ、実績表と今日組んでるパーティーメンバーとまとめておいたよ」
「ありがとうございます! じゃあ、ゾースさんが帰って来たら……」
入口の扉が開く音に、耳が大きくなる。
「ただいま〜っと!」
噂をすれば、ゾースが昼休憩から戻ってきた。と、言うことは……。
「昼休憩、行ってきまーす!」
俺は、ゾースが開けた扉が閉まる前に、走って外に出た。
行ってらっしゃい、という二人の声が、閉まった扉の向こうから聞こえた気がする。
さぁて、今日の昼メシは何を食べようか!?
ドワーフのガリアンさんが言ってた、焔亭の肉肉定食にしようかな。
いや、ここは昨日見付けた海鮮料理屋も捨てがたい。
ちょっと待てよ、ショルテさんの所、新しいメニューを始めたとか何とか言ってたな……。
どれもこれも捨て難い。
俺のこの、へこんだ腹を満足させてくれるのは何だろう?
俺は、ぐるぐると思案させながら、最近ようやっと歩き慣れたデルツハルツの街をさ迷った。
「おやっ! イーノちゃん、昼休憩かい? 打ち立ての麺があるよ! 今日は少しばかり冷えるからね、スープ仕立てだよ!」
「麺……スープ仕立て……」
まんまる食堂のコナおばさんが、俺を見つけるなり大きく手招きしてきた。
デルツハルツの麺と言えば、パスタのような小麦とほのかに卵が香るものだ。
俺は、熱々のスープを泳ぐ、コナおばさんの手製の麺を想像する……。
「獅子魚のフライ付き!」
「麺は大盛りでお願いします!」
「よしきた!」
俺は、コナおばさんに誘われるがままに、店の門をくぐった。
香辛料と肉の出汁のいい香りが、俺の空腹を煽る。今日の昼メシも、間違いなく美味いだろう。
俺は席に着くと、今から訪れる幸福な時間を迎えるため、更に想像を膨らませるのだった。