出会い
「ねぇねぇ。聞いた?60階層にすんっごい、いい体したイケメンが一人で、上級魔物を倒していってるんだってね!」
「私も聞いたそれ!!たまにトレーニングしてるとことか見れるんでしょ!!?私もみたいよーー!」
「60階層?ないない!!そんなの一人で行けるところじゃないでしょ。」
「そう!だからこそよ!会ってみたーい!!!!」
「光の力を持つ精霊よ、今ここへ集え。スターライトニング!!」
「あ、あ、助けてくれてありがとうございます!!あ、あの……お名前は、?って、えええ!行っちゃった……。」
光の魔力を使えるようになるのはそこまで難しいことではなかった。
「マタムシシテ……ヒトギライニモホドガアリマスネ。」
俺は幻影で魔物と戦った後、すぐにレベルアップに取り組んだ。俺は昔からデブで運動なんてしようとも思ったことがなかったから気づかなかったようだが、モニターが言うには俺は才能的に、運動神経が人並み以上にあったらしい。それもあってか、俺の体はみるみる痩せ、筋肉がついた。だがまぁこのダンジョン内に鏡なんてもんはないから、自分でも見た目はよくわからないのだが……。
そしてレベル、俺の今のレベルは、
レベル130 筋力1000 体力測定不可 スピード700 俊敏性500 頭脳500 魔力測定不可
モニターに聞いたところ、精神面や場合によっては変化するものは測定不可となるらしい。
そして俺のレベルがどの立ち位置にあるのかと言うと、ダンジョン内の魔物はレベルとスキルのおかげで敵ではない。左目と右目半分が見えないことで、たまに大怪我を負うが、別に死ぬことはなかった。だが地上に出たらどうなのかがわからないことが問題だ。ダンジョンの一番下の階層の魔物も全て倒したが、それがどのくらいのことなのかは、まだ異世界に来て地上に出てすらいない俺にはわからない。これでは地上に出て即死ぬ可能性もある。
「まだダンジョン内の全ては見れていない。一度一番下の階層にもう一度行く。」
「ショウチイタシマシタ。」
「な、なんだ?これ??そういえば前はここにはきていなかったな…」
最下層に着いて、少し探索をしていると俺の何倍ものサイズのおぞましい見た目の扉を見つけた。ここは最下層、もしかしたらこの扉の中に、地上の魔物レベルのものがいるかもしれない……
「入るぞ。」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
扉が開く音とは思えない音で開いた。
「まっぶし!」
扉を開けた瞬間、見たこともないほどの光の量が俺の右目を襲った。
「……………だ、れ?」
ん?子供の声?
光が静まるとそこには、魔力が使われているであろう見た目の鎖で、入念に縛られている子供がいた。
「お、おい!!大丈夫か!!?」
「ヒィッ……や、やめてください!!ぼっ僕、ちゃんとここでじっとしてます!!多分もうすぐ死にますから!!」
俺が急に大きい声を出してびっくりしたのか、子供は酷く怯え、体をガクガクと震わせていた。
「待ってろ。すぐ解いてやる。」
「……へ?」
これは……氷の魔力で作られた鎖か?なら火で…
バキッ!!ホロホロホロ……
なんだ?まだ火の魔力も使っていないのに触った途端、鎖がボロボロに消えた。
「う、うそ……亜人族の僕がどれだけ頑張っても解けなかったのに……。」
亜人族??あぁ!この子が鎖を毎日解こうと頑張っていたんだな。だからこんなにもろくなっていたのか。
「よかったな。お前の毎日の努力のおかげだ。」
「え?い、いや……あなたが……」
何か言っていたがこの子は声が小さくよく聞こえなかった。
「そういえば君はなんで縛られていたんだ?」
「そ、それは……。」
もしかしてあまり話したくない内容なのだろうか?
「いや、無理に話す必要はない。鎖は解けたんだ。君は自由にしてくれ。じゃあな。俺は行く。」
「ま、待ってっ!!!」
子供が俺のスボンの裾を必死に掴んできた。
「ま、待って…。は、話を聞いて、ほしい、。」
「あ、あぁ。まぁ聞くくらいなら…。」
子供はホッとしたような様子でつっかえながらも俺に話してくれた。
この子は亜人族。亜人族とは人の見た目でありながらも、耳や尻尾が生えており、すごく強力な力を持っている種族であり、この世界では差別の対象になってしまっているらしい。
この子は亜人族しかいない村で暮らしていたのだが、突然国の騎士団が村を襲撃。何人もの亜人族が奴隷として売られ、この子は売れ残ってしまった。騎士団に普通に生かすのは危険だとされ、ダンジョンの最下層に封印されたらしい。
この話をするのに、この子は必死に涙をこらえていた。何分も時間をかけて、頑張って俺に伝えてくれた。
「よく頑張ったな。よくここまで生きていた。偉いぞ。」
俺がそう言って子供を抱きしめるとその子はずっと溜まっていたものを全て吐き出すように大きな声で泣き始めた。
「ふぇっぐ…ひっ…ひっ…」
「どうだ?少しは落ち着いたか?」
「うん…!」
とびきりの笑顔で返事をしてくれた。あぁかわいいいいい!!!妹がいたからかな、この子が可愛くてしょうがない。
「君、名前は?」
「な、なまえ??……クロがつけて!」
く、クロ?あぁ黒木と教えたからか。
うーんこの子の名前かー。きれいなブロンドの髪、フサフサの耳と尻尾、陶器のような白い肌、そして何よりきれいな青色の瞳。
うん?そういえばこの子って男の子なの?女の子なの?髪が長いから女の子か?でも長い間閉じ込められていたんだしな……
「ねぇねぇ。君って男の子?女の子?」
「男の子だよ!!!」
あぁ可愛すぎる!!!すこし拗ねてる感じかわいすぎるよー!!
「ごめんごめん。男の子かーなら……アオにしよう!」
「あ、お??」
「そうだ!お前の名前は今日からあおだ。」
「あお!あお!!!ありがとう!クロっ!」
うっ……………かわいすぎるうう
「あ、あのね!クロ……クロはもう行っちゃうの?」
「うん?あぁ…そうだな。このダンジョンはもう全部見終わったし、そろそろ地上にでて資金を稼がないとまずいんだよなー。」
そうだ。このままダンジョンに居続けるわけにもいかない。何よりここは情報がない。人にも上の階層に行くと少しいるくらいだ。何より人は……簡単に信用できない。ホイホイ知りもしない人と話すわけにはいかないから、やはりまずは地上に出るべきだろう。
「あ、あのね!僕も連れて行ってほしいの……!」
「え!?え、えぇ……」
どうしよう。正直困る……。かわいいし連れていきたい気持は山々なんだが、魔物と戦ったりするのには、どうしてもアオを危険にさらしてしまう。そして地上、この子は差別されてきた存在だ。地上に出て、人に会うのは怖くないのだろうか……?
「あのねっ!僕、亜人族で、酷いこともたくさんされたし人が怖かったよ…でもね!今日クロに会って、助けてもらって恩返しがしたいの!!」
……な、なんていい子なんだ………。そうだ、よく考えたらこのままダンジョンにおいていくほうが危険だ。俺についてきてもらって、俺ができるだけ守るほうがいいだろう。
「そ、それにね!僕亜人族だから、戦ってるのを見たり、戦ったりしたら強くなれるの!僕それでクロの役に立ちたい!……クロ、左目見えてないでしょ。」
そうか、そういえばモニターが前に同じようなことを言っていたな…亜人族は人と違い、属性などがなく、もともとの力が強いことから、鍛えると強力な力を持つ、と。
ん?
「な、なんで左目が見えないことを知ってるんだ!?」
「え、えぇ…だ、だってクロ、左目まるで何も見えてないみたいな動きだったもん…」
「す、すごいな…亜人族はそんなこともわかるのか?」
「うーん。…奴隷として閉じ込められてるときに、騎士団の機嫌が悪いとたまに蹴られたり、殴られたりするの。だから動きをよく見てないと、悪いところにあたって、ほんとに死んじゃうから…。」
………蹴られたり、殴られたり、……くそ……俺はあいつらなんかもう忘れるんだ。トラウマも無くしたはずなのに…
「_ロ!…クロ!!」
「へ?あ、あぁ…」
「クロ?大丈夫?怖い顔、してるよ、?元気だして…」
アオがシュンとした顔で俺を見つめてくる。
…俺は何を考えてるんだ。もうあいつらは関係ない。俺はこの子を守るんだ。この子に心配されてちゃだめだ。
「大丈夫だ。アオ、ほんとに今までよく頑張ったね。俺と一緒に行こうか。俺がアオを何が何でも守るよ。」
「ほんと!?いいの!!?ありがとうっ!クロ!僕も、クロを守れるように強くなる!!」
「あぁ。一緒に頑張ろう。」