はじまり。
新婚生活を送っていた香月美代。
会社から2週間の北海道出張に行くことを告げられた。
そこである事故に巻き込まれる。
被害者になってしまった美代は2週間ごとに記憶がリセットされてしまう記憶障害を患ってしまう。
新しい記憶を持つことができない美代はこれからどう生きていくのか。
「ママ。」
「う、、まだ起こさないで。」
「ママおはよう。あ、今日その日だったか。」
「ママって誰と間違えてるの。あなたは誰?」
「パパ。ママに状況説明して。」
人には忘れられない記憶がある。
面白かったこと。
嬉しかったこと。
悲しかったこと。
辛かったこと。
頑張ったこと。
たくさんあるはず。
なのに私は。
”二週間前の私は存在しない。”
私は今日も時間内に仕事を終わらせて定時を少し過ぎた時間に帰る。
”今日もコンビに寄ってビール買ってユズくんと今日あった話いっぱいしよ。”
そんなウキウキの社会人七年目の香月美夜二九歳。
ユズくんというのは、旦那のこと。
彼と私は”新婚夫婦”。
二ヶ月前婚約したばかりだから毎日甘々生活、連絡も甘々すぎて友人や家族には見せることが出来ない。
「今日の夜ご飯は何かな。」
”あ、新作のビール出てる給料日前だからどうしよう。”
”いや、我慢我慢節約して結婚式に使うお金に回さなきゃ。”
スマホのロック画面を開くと夕食の時間になっていた。ご飯を作って待っている彼を待たせるのはダメだ、早く帰らなきゃ。
彼とは毎日ご飯夜ご飯を食べて、他愛のない会話をして幸せと感じるのが日課だ。
この日課を壊して良いのは私達に子供ができたときのみ許される。
家に着くと、玄関まで広がる肉じゃがの匂い。これは私より早く仕事を終わらせたユズくんが作って待っていたのだ。
いつも通りの
「ただいま。」
そして、、、
「おかえり。」
彼の部屋着にエプロン姿はとても愛おしい。
「ご飯もうすぐで作り終わるから早く着替えてきな。」
「うん。わかった。」
全力の笑顔で答えた。
スーツから部屋着に着替えてリビングに戻る。
今日の夜ご飯はユズくんお手製の肉じゃがとほうれん草のおひたしと味噌汁とご飯だ。質素だが愛情が溢れてきそうなほど感じる。
ユズくんは家事万能お仕事も頑張っていて、私への愛を欠かさず毎日伝えてくれる。
これが、私の中での最高の”幸せ”なのかもしれない。
ご飯を食べ終わったら二人でお風呂に入って、今日一日の疲れを癒やしたあとにストレス発散のゲームを二人でする。
今日合った仕事での嫌なことは忘れちゃいそうなくらい笑って、心の中の黒いモヤモヤしたものが綿飴見たいに溶けていくのだ。
そうして今日も一日が終わった。
今日も朝からお仕事、朝から課長に呼び出されて北海道に出張に行くことを命じられた。
新婚の私に出張なんて世界は少しも私達のことを祝福してくれないのだと大袈裟なことを心の中で、ものすごく文句を言ったが誰に言っても変わらないので心を広くして受け入れた。
「はい。承知いたしました。」
素直そうに返事したけど彼と引き離されるのは辛い。それも二週間我慢しなければならない。
一番困るのは彼の健康的な食事が取れないことだ。
2週間出張に行くってことは外食尽くしになってしまう。
仕事中に申し訳ないがユズくんにLINEした。
すると意外と早く返信が来た。
言葉ではなかったが、スタンプで泣き顔が来た。
内心可愛いなと思ってニヤニヤしてしまったが、仕事に身が入らなくなって今日は残業確定となってしまった。
残業を終え家に帰るといつも通りの日常となった。
「ただいま。」
今日はとうとう出張の日となった。
ユズくんはお仕事休みだったので玄関で送り迎えしてくれた。
ユズくんは空港まで送っていくと言ってくれたが、かなり遠いから遠慮した。
「気をつけて、行ってきなよ。」
「もちろん。ユズくんこそ私がいない間浮気したら許さないからね。」
「そんなことしないよ。」
「じゃあ、行ってくるね。」
「うん。行ってらっしゃい。」
二週間の出張は長すぎるけど、頑張ろう。
そこから空港まで行って飛行機に乗ってスマホのロック画面をユズくんとのツーショットに変更した。
「愛してるユズくん。」
今から死に行く人並みの悲しい雰囲気を出して空港へ向かった。
今日は北海道に来て1週間。
会社から北海道に行けと告げられてから折り返し地点になった。
彼を一週間も見れずにいると体調が悪くなってきたけど、毎晩ビデオ通話をしているおかげでなんとかメンタルを保つことが出来ている。
今日も朝から北海道にある会社に行って商談してたらもう夕方だ。
後輩たちにご飯に誘われたが疲れすぎて先にホテルに帰ることにした。
帰る途中にコンビニに寄ってお酒とおつまみを買って歩いていると、前からスマホをいじりながら自転車を漕いでる少年と目が合った。
その瞬間、自転車に轢かれたのだろう。私は歩道の中の車道側を歩いていたが自転車を避けようと思ったら今は車道に倒れ込んでいる。前からは眩しい光照らしながら中にいる人が焦った顔でハンドルを切っているのが見える。
”あ、死んだ”
この言葉が頭の中で浮かび上がった。
車はゆっくり私に近づいているのに体は全く動かないが、走馬灯というのだろうか今までお世話になった人家族の顔思い出が一気に頭の中に流れていく。
そしてこのときからこのあとの記憶がない。