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ー2ーCONECO隣町へ冒険する

 翌朝、こね子は学校をさぼって、父親が働くオフィス街の駅前にやってきた。

(ちょっと早く来過ぎちゃったかな?)

 ほとんど疲れを知らない身体になったことで、こね子は、【この身体、めっちゃ快適】と感じていた。

駅前には、ちらほらと人が増えてきた。

駅の改札から出てくる人の表情を眺めていると、全然、飽きることがない。

(あ、パパだ)

 スマホを咥えていて、時間が正確にわかるこね子は、時間通りに駅の改札を通って現れた父親の姿を見つけると、その姿を見失わないように速足で後をついていった。

社屋の入口までは、父親の後をつけることができたが、さすがに、社屋の中には入ることはできなかった。

(まぁ、オフィスに入れないのは予想通り。とりあえず、窓から見えるとこにいるか探してみよう)

 父親が入っていった社屋のビルの屋上にまずは上ってみることにする。

(まずは、安全地帯の確保しないとね)

 屋上には喫煙所があり、父親がお昼の弁当をこの屋上で食べていることは普段の会話の中で確認できていたので、とりあえず、ここを安全地帯と決めて、待機することにしたのだ。

パパはタバコを吸わないから、朝は来ないよね。たぶん。え?あれ?)

喫煙所の横に飲み物の自販機が置いてあることに気づいた。

(モーニングコーヒーを飲みにくるかも)

 そのこね子の予感は的中した。

同僚と思える女性と一緒に現れた父親は、自販機で無糖コーヒーを買うと始業のチャイムが鳴る5分前まで、その女性と仲良く談笑していたのだ。

(もしも、浮気相手だったら、あんなに目立つとこで楽しそうにはしてないよね。あの人は浮気相手じゃなさそうね)

 そして、その日のお昼には、屋上で母親が作った弁当を食べる父親の姿を確認し、その後も、休憩のたびに屋上に来る姿を確認できた。

(パパが真面目なのはわかった。外回りとかはしないで、ずっとオフィスで仕事してるんだ。でも、問題は残業してる時間…)

 人間ウォッチが楽しいことに気づいたこね子は、退屈することなく、社屋ビルの屋上で過ごすことができたが、母親からLINEメッセージが届いていたことに通知マークを見て気づいた。

『どこにいるの?』

 時間は2時間くらい前だ。

『魔女のいる森に来てるの…元に戻してもらおうと思って探してる』

 とっさに、嘘の返信をしてしまった。

『暗くならないうちに帰ってきなさい』

『うん、わかった。先にご飯食べてていいよ。どうせ、パパは今日も残業なんでしょ』

『猫の生活は楽しい?』

『うん、めっちゃ楽しいよ』

『危険なとこには行かないでね』

『は~い』

 そこで終業のチャイムが鳴った。

(エントランスに行かなくちゃ。もし、パパが浮気相手に会うなら残業しないで出てっちゃう)

 そして、こね子は、屋上からエントランスに移動して数分後に、エントランスを出てくる父親の姿を見つけた。

(残業って…完璧、嘘じゃん)

 こね子は、父親に気づかれないように、こっそりと後をついていく。

父親は、駅とは反対方向に歩いていく。

(まっすぐ家に帰らないつもりね。パパったら最低…ママにどう言おうか…とにかく、証拠写真を撮らなくちゃ)

 こね子にあとをつけられてるとは夢にも思わない父親は、ゆっくりと歩きながら、目的地へと向かっていき、おそらく、目的地と思われるパスタ料理専門店の中に入っていった。

その店の外装はガラスで、外からも店内の様子がよくわかった。

父親が座ったボックス席には既に女性と思われる姿の人物が腰を掛けていた。

(あの人が浮気相手…パパったらなんて大胆…オフィスから10分も離れてないこんなお店で…会社の人に見つかったらどうするんだろう?)

 窓際の席に座っている父親と相手の女性。

こね子は、二人の顔が見える場所まで近づいてみる。

そして、相手の女性の顔が確認できる位置で、咥えていたスマホを器用に使って、写真を撮った。

(あれ?この人…どっかで見た…あ?え?まさか、はるみさん?)

 父親と同席している女性は、こね子が良く知ってる人物だった。

従妹で大学生の、はるみさんだ。

(まさか、パパったら、はるみさんと毎日会っていたってこと?)

 こね子は子猫の姿になってから、異常に聴覚が発達していて、この程度のガラス越しであれば、その話し声を聴くことが容易にできるようになっていた。

「いつも助かります」

「こっちこそ助かってるよ。新しいプロジェクトでは、若者の声を集めなくちゃならないんだが、SNSアンケートでは匿名アカウントばかりでリアルな大学生を見つけるのは難しいし、大学に直接調査依頼をしたいと申し入れても、うちのような無名のIT企業では、どこの大学も協力してくれないんだ」

「クラスメイトにLINEで聴くくらいなら、そんなに手間じゃないし、これでお小遣いをいただけるなら、むしろ、もっとたくさん、お仕事をいただきたいくらいです。おじ様」

「大学生の結婚意識調査…思っていたよりずっと真面目に回答してくれてるのは嬉しい」

「あたしは優等生ですからね」

「この企画を立ち上げたクライアントでもある新設のオンライン大学では、この調査を生かして、大学生が安心してネット空間やキャンパス内で恋人探しができるような居心地がよくて楽しく過ごせるコミュニティサークルのアプリを創るというプロジェクトなんだ。

そして、大学在学中に結婚したカップルの金銭的なフォローアップや福祉医療については、このコミュニティが責任を持って行う。そのために、学部は保育学部、教育学部に特化した学部を中心としていく構想らしい」

「今の出会い系サイトは、信用できない危険なところが多いですからね。おじ様の手腕に期待してます」

「まだ、スタートしたばかりのプロジェクトだからね。でも、形になったら、是非、協力してくれた友達を誘って、コミュニティに参加してほしい。最終的なクライアントの要望というかスローガンは【応援します二十歳の結婚】らしい。どストレートだろう?」

「結婚、出産を大学生のうちに経験させちゃうってのは、いささか強引過ぎじゃないんですか?」

「でも、一番、恋を経験するのは学生時代だとは思わないかい?」

「どうかな?確かに、大学には意識高い系のイケメンくんは多いかな?」

「恋人にしたいと思う?」

「やっぱり恋人にするならお金のある男性がいいかも。大学生のほとんどは貧乏だよ」

「このクライアントは真面目で誠実な男の子や女の子が、金銭的な理由で恋人関係になれない現状をなんとかしたいそうだ」

「あたしは、優等生だけど、真面目でも誠実でもないですよ。やっぱり、お金持ちが好きだし。このアンケートだって、やっぱり結婚の条件は経済力が一番だったでしょ」

「そうだね。ある意味予想通り」

「ところで、おじさま。そのコミュニティにこね子ちゃんは入ってるんですか?」

「家では仕事の話しはしないんだよ」

「なんで?」

「年ごろの娘は父親に近寄られたくないと、よく言われてるだろう」

「おじさまったら、こね子ちゃんに嫌われるのが怖いんですか?」

「まぁ、そんなとこだ」

 そして、父親はスーツの内ポケットから小さいポチ袋を取り出すと、はるみに手渡した。

「こんな可愛い袋でお手当の受け渡ししてるとか、なんかパパ活してるみたいですね」

「いやいや、そんなつもりじゃ全然ないよ」

「わかってますよ、お・じ・さ・ま」

 窓越しに盗み聞きをしてるこね子には当然気づくことなく、二人の会話は、2時間くらい続いた。

父親がこんなに良くしゃべる人だとは、こね子は全然知らなかった。

(なんか、寂しいなぁ、それにお腹もすいちゃったし)

 二人の会話は、まだ途切れそうもない。

(とりあえず、浮気じゃなさそうだから、一安心かな…帰ろう…ママも心配してるかもだし…なんて言い訳しようかな)

『魔女の秘密基地を突き留めました。今から帰ります』

 しばらく考えてから、こね子は、そう母親宛にLINEメッセージを送信すると、駅に向かった。

来るときは、歩いて来たこね子だったが、帰りは、電車の屋根に寝そべってスマホの画面に動画を映しながら快適な電車旅を楽しんだ。


こね子が子猫の姿に変えられてしまってからひと月が過ぎた頃、魔女がこね子の前に現れた。

「あんた、ずいぶん、楽しそうだね」

(うん、魔女さん、お久しぶり。すっごく楽しいよ。ありがとう)

 魔女が自分の考えを感じとれることをこね子は覚えていたので、魔女への返事を頭の中で言葉にして応えた。

「人間に戻りたくはないのかい?」

(今は特に…)

「人間に戻してあげるって言ったらどうする?」

(う~ん、どうしよう。学校も嫌いだし、もうちょっと、この姿でもいいかも)

「そういうことなら、人間に戻してあげないよ」

(うん、いいよ)

「ちょっと待ちなよ」

(なぁに)

「あんた、けっこう冒険好きだよね」

(猫の姿で遠くに行くのは、けっこう好きになったみたい)

「なんでだい?」

(ほら、あたしって、かなり可愛い系の女の子だったから、独りで歩いてたりすると、変な人が声かけてくるの。それが、ずっとウザくてさ…猫なら、みんな気にしないし…自由って、ほんとに素晴らしいよ)

「そういうことかい…なるほど」

(人間に戻っても良い事なんかないよ。きっと)

「まぁ、そういうなら無理に人間に戻る事はないか…」

(あ、でも…また、いつでも猫にしてくれるなら、一度くらいは人間に戻ってもいいかな?)

「ずいぶんと、まぁ、猫の生活が気に入ったんだね」

(吾輩は猫である。え~と、ハンドル名は、CONECO)

「文学猫だ…」

(そういえば、それって新しい箒ですね)

 こね子は、魔女が持ってる箒が自分が折ってしまった箒でない事に気づいた。

「ああ…めちゃくちゃ高かったよ」

(アルバイトとかしたの?)

「したよ。したくはなかったけど…箒は高いんだ」

(そっか、ごめんね)

「変身を解く薬はもっと高いんだよ」

(お薬があるんだ…まさか、変な薬を売りつけようとかしてないよね。PayPayで払える金額なら、今、スマホ持ってるから送金できるよ)

「魔女の世界の通貨だからね。この箒の百倍の値段なんだよ。

 それに、現金払いじゃないと買えない」

(じゃ、やっぱりいいや)

「薬と言ったじゃないか。その薬を作る薬草があるんだよ。それを摘んでくれば、タダで薬が作れる」

(魔女さんが作れる薬なの?)

「当たり前じゃないか…魔女の基本中の基本だよ。薬の調合なんてことは」

(すごいね)

「その薬草を摘みに行ってみないかい?ちょっと遠いとこにあるんだけど、あんた、冒険好きなんだろう?」

(どうしようかな…)

「その薬草さえあれば、いつ猫になっても、すぐに人間に戻れる」

(魔法で直すんじゃないんだね)

「ああ、そうだ。もう一つ、元に戻す方法があるよ」

(それは難しいの?)

「簡単だよ。あたしを殺せばいい」

(え?)

「あたしがかけた魔法は、あたしが死ねば、自動的に解除できる。試しに殺してみるかい?」

(そんなことできないよ)

「どうする?行く?」

(とりあえず、ママにLINEするね)

 こね子は応えると、さっそく、母親宛にメッセージを打ち込む。

『魔女さんと冒険に行ってきます。お薬を飲めば人間に戻れるみたいなので、その薬草を摘んできます』

『気をつけてね。怪我しないでよ』

 母親からの返信はすぐに届いた。

(じゃ、行こうか?)

「ほんとに、おもしろい子だね」



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