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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第8章 ダンジョン攻略と文化祭
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98 目障りな女

 レーミル・ケーニッヒと司祭アルス・マーベリックは、バザーの終わりまで共に時間を過ごしていた。


「アルス君。やっぱり、私が見つけた物がアルス君の探し物だったんだよぅ。もう買われちゃったんだ。

 ごめんね、私のせいで……!」

「いえ。貴方のせいではありませんよ、ケーニッヒ嬢」

「……そんな。優しいんだね、アルス君っ」

「はぁ」


 『アリス』が、その場を誤魔化すために時折見せる『ヒロイン風』の態度や言葉使いより、いっそう媚びた態度と甘ったるい声で、レーミルはアルスに迫っていた。


 彼女なりに自信がある。

 己が『ヒロイン』である事を理解していて、彼ら攻略対象が、そんな自分にこうして言い寄られて、ときめかないはずがない、と。


 現に『宰相の子』ジャミルも、『護衛騎士』ロバートもレーミルの、この態度に絆されている。

 生徒会に入り、より彼らとの距離も近くなって、色々と融通を利かせて貰っているのだ。

 バザーの日の今日も、朝から彼らと交流していたほどだった。


(ジャミルとロバートは、もう落とせてる感じなのよねぇ)


 レーミルは、アルスにスキンシップを試みるが……流石に今の状況だと、彼にも余裕がないのか。

 『ヒロイン』の媚びた態度でも、あまり響いていない様子だった。


「チッ……」


 今日まで。

 すべてレーミルの思惑通りに進んでいたかと言うと、そうではなかった。

 まず何よりも『悪役令嬢』アリスター・シェルベルの不在から、それは始まる。


 前世の知識があり、この世界を乙女ゲームの世界だと認識しているレーミルが狙っているのは『魔王エンド』だ。

 そのためには攻略対象たちとのイベントをこなしていき、そして……『悪役令嬢』を追い込む必要があった。


(だっていうのにロバートは、まさかアリスターに負けちゃうし!)


 『悪役令嬢』アリスターは愚かな公爵令嬢だ。

 たしかに優秀な才能を持ってはいる。

 だが、その性格から、わざわざ才覚ある攻略対象たちの『得意分野』での勝負を仕掛けてくる。

 そして、彼らに(ことごと)く返り討ちに遭って破滅するのが、乙女ゲーム『レムリアに咲く花のように』の基本シナリオ、テンプレートだった。


 ヒーローたちに負けるための存在がアリスターだ。

 そして『魔王エンド』に誘導しようとしているレーミルは、その最たるルートを進もうとしている。


 通常プレイとは異なり、攻略対象たちのイベントを、より早期に起こしていき、アリスターを他のルートより徹底的に追い詰めていく。

 アリスターの剣技大会への参加だって、その一環のはずだった。

 1学期から続いていた悪役令嬢不在の状況であっても、攻略対象たち自体の反応は、ほとんど思った通りで……。

 だが、蓋を開けてみれば『護衛騎士』ロバートは、まさかの敗北だった。


(なんでロバートが負けるのよ! 忌々しい!)


 『ヒロイン』レーミルは思う。

 『悪役令嬢』アリスターは、間違いなく自分と同じ転生者であると。


 彼女は、知識を活かして破滅を回避しようとしているのだ。

 もちろんレーミルは、アリスターの決定的な言動を抑えたワケではない。

 だが、学園に登校して来ないなどというイレギュラーな行動は、そうとしか考えられなかった。

 少なくとも『公爵令嬢』、『王太子の婚約者』としては、ありえない行動なのだから。


(……あの女、逃げる気なんだわ)


 レーミルがどう行動するにしても。

 学園で一切関わらないようにする。

 レーミルどころか、攻略対象たちとすらも。

 『悪役令嬢』のままであればアリスターは、ヒロインに絡み、攻略対象たちの得意分野で勝負を仕掛けて来ては、無様に負け続けるはずなのに。


「……ほんと、忌々しい」

「どうしました? ケーニッヒ嬢」

「ううん、何でもないよぅ、アルス君!」


 殊更に媚びた態度で司祭アルスに上目遣いで、甘ったるい声を上げ、己の悪態を誤魔化すレーミル。


(どうにか別の手を考えなきゃ。ただでさえ、このルートのヒロインは忙しい上、何人か攻略が上手く進んでないのに!)


 レーミルも、どうにかアリスターを表舞台、学園へ引き摺り出そうと画策してはいた。

 特にジャミルを焚き付けては、そういう案を出させたり。

 だが、現状はそれらが上手くいっているとは言い難い。

 それに加えて、当初の予定通りに攻略が進まない攻略対象たちだ。


 『王弟』のサラザールは、レーミルと深く関わろうとして来ない。

 『公爵令息』のジークとは、接触する事すら難しい。

 『王家の影』のヒューバートも、まず出会う事が困難な上……現実の彼の『顔』が他の攻略対象たちと比べて見劣りし、中々レーミルの気が乗らない。


(流石、一番不人気のヒーローだよねぇ、ヒューバート。『実写』だとアレとかさ)


 どこにでも居るモブのような顔立ちで、レーミルはそれも不満だった。

 ゲームのヒューバートは、もっとイケメンのはずなのだ。

 アレでは、今の生徒会に参加している『モブ』の方が、よほどヒーローの顔立ちと言えるだろう。


 そうして上手くいかない攻略対象たちも居る反面、まんまとレーミルの思惑通りに落とせている者たちも居た。


『宰相の子』ジャミル・メイソン。

『護衛騎士』ロバート・ディック。

『大商人の子』ホランド・サーベック。


 この辺りは、もうレーミルに好意を抱いている様子を見せている。


 加えて『魔塔の天才児』クルス・ハミルトンの攻略も、かなり進んでいる。

 あとは、もう少しイベントを進めるだけといった具合だった。


 そして今は、『大司教の子』アルス・マーベリックと接触している。

 だが、その状況は、いいとは言えなかった。


(たしかに面倒くさくて、朝からバザーに参加して一緒にロザリオを探すとかはしてなかったけどさ。

 でも要点は押さえてるはずなんだよね)


 探し物のヒントは与えたし、彼の境遇に寄り添ってもいる。

 極め付けは、彼らの好みの女である自分が、こうして媚びてやっているのだ。

 これだけで男共の好感度なんて跳ね上がるに違いない。


 ……なのだが、ここでも誤算があった。


 生徒会に参加している『モブ』たちが、レーミルの前にアルスたちと接触していたのだ。

 それは、まるで『ヒロイン』の行動の穴埋めをするみたいに。


(……前々から思ってたけど。あのモブのピンク髪女、ウザくない?)


 攻略対象の内、最重要とも言える人物。

『王太子』レイドリック・ウィクター。

 レーミルは、彼のことも当然、攻略しようとしているのだが……。

 今まで、ほとんどのレイドリックイベントが失敗に終わっていた。


 タイミングが合わなかったり、レーミルの挙動が間違っている時もある。

 だが、それ以外。

 上手く接触できそうな時には、決まって、あのピンク髪の女が邪魔になっていた。


 腹立たしい事に、会話イベントそのものを奪われた事もある。

 その結果、明らかにレイドリックは……あのピンク髪の下位貴族令嬢に心惹かれている様子を見せていた。


(ピンクブロンドの下位貴族とか……。別のゲームじゃん、もう)


 レーミルは、アレもモブの転生者かと疑った事もあるのだが、それにしては他の攻略対象たちにも、また『ヒロイン』レーミルにも興味のなさそうな様子だ。


(……仮にアレが転生者で、レイドリック狙いなら……。アリスターを貶めるとこまでは私と同じ考えになるはずよね?

 どの道、邪魔なんだし。何より『ヒロイン』を無視するのは、ありえない……)


 だが、彼女は『ヒロイン』『攻略対象』どころか『悪役令嬢』についてすら、レーミルの予想通りの言動をする事はない。

 アリスターに至っては、むしろ庇っているぐらいだ。

 その言動が如何にも『お花畑』のようで……。


(何、アレ? 天然? 天然のバカヒロイン?)


 考えた事はある。

 ピンク髪の女は、もしかしたら『悪役令嬢』アリスターが不在のために生まれたバグのような存在かと。


 とにかく、彼女が。

 あのピンクブロンドの女が。

 『ヒロイン』レーミル・ケーニッヒにとって、どういう存在かと言えば、だ。


(……目障り、なのよね)


 レーミルが、このゲームの舞台に立たせたいのは『悪役令嬢』アリスターである。

 だが、そのアリスターは舞台から逃げ出し、破滅を回避しようとしていた。


 いつかはアリスターを表舞台に引き摺り出し、逃がさないようにしようと考えていたが……。

 なかなか、それは思うようにいかない。


(それじゃ困るのよ)


 逆ハーレムをしながら、王太子のレイドリックか、王弟のサラザールと結婚するのでも、アリと言えばアリだ。

 優秀で美形な男たちを(かしづ)かせ、他の女共を見下すのは堪らない愉悦だろう。


 だが、やはりレーミルの『推し』は魔王だった。

 魔王の復活、そして浄化のためには『悪役令嬢』アリスター・シェルベルという『生贄』が必要だった。

 それが今、どうしても難しい。

 このままではルートそのものが歪んでしまう。


「…………」


 そうして考え込んでいるところに。

 ピンク髪の女、『アリス』は戻って来た。


「アルスくん!」

「あ。お二人共、無事でしたか。急に走り去られて驚きましたよ」

「あはは、ごめんね」

「すみません、お嬢はいつも突拍子もない事をする人で」

「いえ……。それで一体どうされたのですか?」

「えっと」


 レーミルは、戻って来た『モブ』の2人を冷ややかに見つめていた。

 アルスの信頼が、レーミルではなく彼らに向けられている様子が苛立たしい。


「……ロザリオ?」

「そうなの! なんだかね。様子が変だなぁ、って追いかけたら巻き込まれちゃって」

「そのロザリオは」

「事件の証拠となるそうで、憲兵に回収されました。それで、お嬢はもしかしたら貴方の探し物がそれの可能性はないかと」

「……貴方たちもそう思われたのですか」


 そこでアルスが、チラリとレーミルに視線を向ける。

 当然、レーミルは上目遣いでアルスに媚びるように微笑み返した。


「分かりました。では、そのロザリオを確認しに行こうと思います」

「うん。ちょっと、ここからは力になれないと思うんだけど。証拠として持っていかれちゃったから」

「いえ……。それにしても、事件ですか」

「うん! なんだか凄く暴れてたんだって! 私たちは、それを直接見てないけど」

「そうですか。お二人がご無事で何よりです」

「あはは。ありがとう、アルスくん」

「……お力になれず、申し訳ありません。アルス司祭」

「いいえ。2人の助力に感謝致します。私の心が楽になりましたから」


 和気藹々と。友人同士のように彼らは会話していた。

 レーミルの存在などないかのように。


(……マジで目障り。この女……)


 今までは『悪役令嬢』アリスターをどうにか逃さないように画策していた。

 だが、それが上手くいかなくて。

 そして今、ここには『目障りな女』が居る。


(……あ、そっか)


 ならば。

 『悪役令嬢』が、己の役割を放棄すると言うのなら。


 ……その『代わり』が必要となるだろう。


 魔王を呼び出すほどの絶望に苛まれ。

 壊れ、落ちぶれて。

 そうして絶望のまま、魔王の瘴気をその身に受けて、醜く無様に死んでいく『生贄』。


(ここまで出しゃばって来るって言うんなら。この女、アリスターの代わりにしてやればいいじゃない)


 そうすればレーミルにとって、一石二鳥だ。

 邪魔な女を排除できるし。

 卑怯にも舞台から逃げたアリスターの代わりにもなる。


(うふふ。いい考え! さっそく、プランを練りましょう!)


 アルスと話を終えると、さっさと帰っていく2人。

 その背中、揺れるピンクブロンドの髪を見ながら。

 『ヒロイン』レーミルは怪しく微笑むのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ここでオリチャー発☆動
[一言] アルスは現段階だとレーミルに淡白に見えるけど婚約破棄パーティではレーミルと仲良し判定もらってましたよね。 アルスがへこんでる時に寄り添わず、アリスとヒューバートに友好度取られてるけどここから…
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