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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第8章 ダンジョン攻略と文化祭
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96 vs闇の眷属

「何なのよ、こいつは!」


 問答無用で私は『黒い塊』に向かって水魔法を放った。

 室内で火魔法は危ないので控える。


「な、なんだ!? お前たちは!?」

「それは、こっちの台詞よ!」


 魔法陣から噴き出した黒い煙が形を成していく。

 それは、肉となり、やがて目や鼻、口、牙を、舌を形成していった。


「……これは」

「黒い犬型の、魔獣!」


 知らないわよ、こんなの! 私の知識にはない!

 でも、ここは王都なのよ? 王都の中に魔獣を……召喚!? なんて!


「あんたたち、絶対に許さないわ!」


 どれだけの人が、この王都で暮らしていると思っている?

 この場で全員を捕縛し、尋問してやりたいが、それよりもこの魔獣だ。

 弱いのか、強いのか。判断がつかない。まず防御を固めてからがセオリー。


「お嬢。俺の後ろに」


 ヒューバートは武器もなしにそう告げ、私を背中に庇う。

 黒いローブの男たちは、まだ突然現れた私たちに度肝を抜かれている様子だ。


 黒い犬の魔獣は、この男たちにコントロールされているのか?

 それとも制御など出来ない物を呼び出したのか。


「くそっ、どこから入って来やがった? いつから、そこに居やがる!」

『グルルルゥ……』


 犬型の魔獣、黒ローブの男たち、そして私とヒューバート。

 3つの勢力が、広くもない地下室で相対している。場所は、王都にある屋敷。

 絶対にこの魔獣を外に出すわけにはいかない。民に被害を出してはならない。


「……ヒューバート。『どっち』に集中する? 役割分担しましょう。貴方の得意な方を選んで」


 身体強化・身体保護の魔法を全力で展開する。

 同時に魔獣と男たちを警戒、威嚇。


 魔獣は外に逃がせないが、男たちだって逃がせない。生かしたまま捕らえるべきだ。

 だが優先事項は魔獣の制圧の方。


「……心苦しいですが、魔獣の方をお任せします」

「わかった」


 ヒューバートは対人戦の方が得意らしい。複数人数が相手であっても、そちらの方がということ。

 そして、それでも制圧できると見立てている。


 私たちは、それ以上の言葉を交わすことなく、互いの役割に集中することにした。

 男たちのことはヒューバートに任せた。あとは信じる。

 私は、この黒い犬の魔獣を絶対に外には出さない。


 刺し違えてでも、ここでこいつを仕留める。


 先程のファーストアタックでは、何のダメージも入らなかった様子だ。

 不得手の初級魔法では効果がない。


 魔獣の体躯は、成人男性並にまで膨れ上がっている。大型の狼クラスと言っていいだろう。

 これで首が3つにでも分かれていれば、ケルベロスと断じてもいい。


 問題となるのは、この戦場。

 大技はヒューバートを巻き込む。音爆弾で集中を欠かしては彼まで動揺させるだろう。


「──ゴム・ショット!」


 だから、ただシンプルな砲撃スタイルを選択。


 ドドドドッ!


 ゴム弾を指先から放ち、魔獣へ向けて連射する。

 動き回らず、足を止めて、ただ撃つのみ。

 ヒューバートの邪魔にならないように。

 かつ、私の後方にある上階へ繋がる階段を守るように。


『ギャンッ! ガルルルゥ!』


 ヒット。以前のダンジョンとは違い、容赦なく射出速度を、威力を上げる。

 殺傷性の低いゴム・ショットは魔獣を『殺す』には適さない。

 だけど、私が今、最も使い慣れている魔法でもある。


 魔法相性の弱点を突くなどといった工夫は捨てる。

 ただ、この場を私は通さない。


 ドドドドドドッ!


「てめぇ!」

『ギャン、ガッルルゥ!』


 魔獣はタフだった。何度もゴム・ショットに弾き飛ばされるが、それでも倒れない。

 これは私のゴム魔法の攻撃性が低いだけなのか。それとも敵の皮膚が硬いのか。


 男たちの声はするが、意識の外に捨てた。

 私はヒューバートを信じ、任せたのだ。何とかしてくれるだろう。


 魔獣を攻撃し、牽制射撃を続けながら観察もする。

 こちらの攻撃が効いていない理由は……『再生』している?

 ダンジョンの魔獣はリポップする疑惑がある。

 そして倒した場合、光の粒子となって霧散していく。


 つまり魔獣によっては、魔法的に構成され、また復活するということだ。

 自己再生持ちの魔獣。倒したとしても油断することは出来ない。


 無限の再生などとは信じられない。なので、何故そうなるかを考える。

 ある程度の魔力を消費させれば、そこで回復は終わるのか。

 それとも別の要因があって自己再生を繰り返しているのか。


 今の時点で考えつくのは……。


「……ゴム・ウォール!」


 ゴムの壁を私の後方に展開。誰も、どんな獣も、この地下室から抜け出せないように妨害する。

 その上で私は前方へ突進した。

 もちろん『身体強化』の魔法を行使した上で。


『ギャゥウウ!!』


 前に出た私に、黒い犬の魔獣は喰らいつこうとする。

 大きな牙だ。あれに噛まれれば大怪我をするだろう。

 身体保護だけでなく、ゴムの鎧を身体に覆った。


 そして私の『狙い』は……魔法陣。その中心に置かれた『聖霊のロザリオ』だ。


「てめぇ! させねぇ、」


 横から男の声がするが、そんなものは無視し、私は石の床の上にあったロザリオを手に取る。


「っ……!」


 何か、粘つくモノに引っ付いているかのように重い!

 視界には何もないけれど、これは? 床の魔法陣にロザリオが紐づいている?


「──ブロンズ・ニードル」


 私は魔法陣の四隅に『銅の針』を撃ち込んだ。

 その間、魔獣はロザリオを手に取った私に噛みつく。


「くっ……!」


 だが、私は、あえて左腕を差し出して、魔獣の牙を受け止めた。

 左腕の周囲には、分厚いゴムの鎧が纏われている。


『ガルゥゥゥ!!』


 その凶悪な牙は、私の皮膚に届かない。

 届いたとしても、あとは私の身体保護魔法を破れるか否か。


 そこで私は、視線を動かし、ヒューバートを見た。

 素早い動きで、彼は男たちを打ち倒している。


「──ゴム・フィールド」


 私と魔獣と魔法陣を、ゴムの壁でドーム状に覆った。

 これならば、ヒューバートに被害は出まい。


「──ブロンズ・スレッド」


 糸状にした銅を形成し、魔獣に巻き付けていく。

 拘束に使えるほどの強度は、この糸にはない。

 だが。


 ……準備は整った。


「──雷魔法……サンダーボルト!」


 私を中心とした放射状の雷の発生。

 出力を抑えずに、容赦なく威力を高めたもの。


 バチバチバチ……ガッシャアアアアンッ!!!


「ぐっ……!」


 耳やら何やらも『絶縁体』の特性を持たせたゴム魔法でガードしている。

 ただし、近距離での落雷だ。

 全力の身体保護も含めてのものだが……衝撃が凄まじい。


 閃光に目を焼かれないように無防備に目も閉じての魔法の行使。


『ギャ……』


 石造りの床に打たれた銅の針。

 そして魔獣の身体に巻き付けられた、銅の糸。


 それらに私が発した雷は伝播する……はずだ。

 そしてゴム・フィールドの向こうにいるヒューバートにも害はないはず。


「……っ」


 おそるおそる目を開く私。

 見れば、床に刻まれた魔法陣は、砕かれると共に焼け焦げていて損壊していた。

 同時に『聖霊のロザリオ』を持っていた手の、抵抗がなくなった気がする。


 魔法陣に紐づけられていたらしいロザリオが解放された?

 私の左腕に噛みついていた犬型の魔獣は、断末魔と共に崩れ落ち、再び黒い煙となって霧散していく。


 ……どうやら無事に倒せたみたいだ。


「ヒューバート」


 魔獣の再生と再発生を警戒しながらも、私は視線を彷徨わせる。


「……こちらも終わりましたよ、お嬢」


 そう言って、困ったような顔を浮かべる彼もまた、無事な様子だ。

 男たちは4人共、倒れていた。

 そこまでの長い戦闘時間ではなかったというのに、1対4でこれか。

 やっぱり彼もまたヒーローの一人なのだと実感する。


「……終わった、かしら?」

「どうも、そのようですね。魔法陣の破壊と、そのロザリオの奪取が決め手になったかと」


 ヒューバートがそう告げる。

 一応、警戒はし続けるけど……うん。

 本当に、どうやら解決することが出来たようだ。


「よくやってくれました、お嬢。ありがとうございます」

「貴方もね、ヒューバート」


 私は、深く息を吐き出して安堵するのだった。


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