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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第8章 ダンジョン攻略と文化祭
95/115

95 突入作戦!

 前提かつ仮定として、ここは今『魔王復活・ダンジョン出現・逆ハーレムルート』の世界だ。

 バザーイベントは、アルスとヒューバートのものが合同で発生。

 本来、事件が起きるタイミングは1年後にも拘わらず、1年生の今、それは起きている。


 原作で正式にこのルートがあったとすると『聖霊のロザリオ』なんて如何にも意味深なアイテムだったということになる。

 入手しておくことこそフラグが立つシロモノかもしれない。

 手に入れて損はないアイテム。


 ただし、それは『ヒロイン』側の話でもある。

 私は『悪役令嬢』で、彼らに倒される側の存在だ。

 つまりロザリオは、私が何かしらの不利益を被るマイナスアイテムかもしれない。


「……アルスに恩を売っておくのもいいか」


 ロザリオを私とヒューバートが手に入れ、アルスに返す。

 恩があるなら、それがどういうものかとか教えてくれるかもだ。

 別にイベントをこなしてフラグを立てる気はない。

 なので間にヒューバートを挟みましょう。


 いや、別にイベントこなしたからって確定で惚れ込まれると自惚れているワケじゃないんだけど。


「決めた。あの屋敷に突入して、ロザリオを奪い取るわ。作戦考えて、ヒューバート」

「……普通に強盗……」


 分かってるけど! 醜聞どころの騒ぎじゃないかもだけど!

 ほぼ確信で、あれはダメだと思うのよ!


「男が手に入れた物がロザリオだとして、それは正式に購入した物ですよね」

「……そうね」


 それを屋敷に突撃していって奪い取るのは、普通にこっちがアウトの犯罪者だ。

 でもなぁ。見過ごすのもなぁ。


「……普通であれば、長時間の張り込みでもして男の出方を調べてから動きます」

「今日中の解決は無理ってこと?」

「ええ」


 そっか……。でも、それが普通というものだ。

 常識とも言う。イベントだという意識が強くて、どうしてもこの場で解決できると思いがちね。


 そう言えば。ヒューバートルートでのイベントって、煮え切らないものがあった。

 もしかしたら、それはヒューバートがきちんと裏付け調査などで、裏で動いていたから?

 彼のルートやキャラクターがいまいち人気がないのは、その地味さから来るものだ。

 それは現実で見れば、きちんとしている……と言えるものだったか。


「……ですが。お嬢には何か確信があるのですよね?」

「え? まぁ、そうだけど」


 確信っていうか。ヒロインのあの態度がね。

 レーミルが転生者なのは間違いない。そして、彼女は私よりも原作知識が深いと思われる。

 そんな彼女が、あの態度だったのだ。

 何かしらの打算が成立しているものと見るべきだろう。


 ……ヒロインに動かされているとも言えるか。

 私の正体を既に気付いているなら、その作戦もありえるけど。

 でも、レーミルからすれば、私の行動を予測できるだけの情報なんてないはず。


 もっと終盤に差し掛かって、『あのピンクブロンドが悪役令嬢で転生者なのね!? そういうことか!』と。

 様々なイベントをこなした上で確信を持った後なら、私を罠に嵌めることも出来るだろう。

 この状況も、彼女に誘導されただけのもの、というパターンだ。


 その懸念はこの先も付きまとうものだけど、今の段階では、まだないだろう。

 疑っている素振りもなければ、私の方も殊更に彼女の邪魔をしているワケではない。


「わかりました。それなら俺が何とかしましょう」

「え、いいの?」

「はい。お嬢。少し、失礼します」

「へ」


 そう言うなりヒューバートは、私の肩を……抱き寄せた。え!?

 彼と身体が密着し、ドキリと心臓が跳ね上がる。

 え、これは、まさか、何かしらのイベント発生……!?


「──水の衣」


 ヒューバートが何かしらの魔法を発動する。

 それは水の幕となって私たちを包み込んでいった。


「……水系の保護魔法?」

「似たようなものですが、効果は異なります。これは包んだ物を『透明』にする魔法です」

「え!?」


 透明化魔法!? それは健全な男の子が使えたら大問題なアレじゃない!?


「身体を薄い膜で覆い、光魔法も同時に用いて外から見えなくします。内側からはモヤが掛かったように見えますが。

 ただし、魔力攻撃を防ぐものではなく、また魔力を持った他人に触れると弾けて消えてしまう繊細な魔法です」


 タッチはアウトなのね。それにしたって破格の性能だと思うけど。

 『王家の影』になる者、ヒューバート・リンデル。

 もしや、この人。忍者系の魔法を修得していらっしゃる?


「……そういう性質ですので、お嬢は隠れておきたいなら魔法が使えません」

「あ、私もダメなのね」

「はい。多少、内側からは強いので、魔法を発動しない状態であれば包んだままでいられます」

「でも、私が何かの魔法を行使しようとした時点で、パチン! と」

「そうなります」


 ふぅん。まぁ、姿を透明にする魔法定番の弱点ね。

 そういうのがないと強過ぎると思うし。


「……この魔法、私も使える?」

「門外不出です」

「そ」


 王家の影専用魔法とかかなー。簡単には覚えられなそうだ。

 でも、なんだろう。

 この魔法を使えると知っているか否かだと、ヒューバートのキャラ立ちに関わるわよね。

 原作でこんな魔法使うシーン……なかった気がするけど?

 スタッフー。ヒーローの魅力を出し切れてないわよ!


「あと広範囲は無理なので。手を繋ぐ程度の距離感で常に動くことになります。離れたら気付かれますから。いいですか?」

「あー……」


 つまり手を繋ぎ、肩が触れ合う距離感で長時間、イケメンのヒーローと過ごせミッション発生! と。

 お、乙女ゲームな能力……。なぜ原作に出さないのか。

 ……もしかして、私が知らないルートで既出?


「わかった。じゃあ、突入開始で! やってやるわ!」

「……あくまで男のことを調べるためですよ。無実だったら何もせずに、さっさと立ち去ります」

「はーい」


 というワケで……レッツ突入作戦!

 ヒューバートが私の手を取り、引っ張っていく。

 先程のように肩を抱かれるワケではないけど、これはこれで意識せざるを得ない。


「……ちなみに『音』は?」

「漏れないようにしていますが、大きな音は防ぎ切れません」

「わかった」


 水魔法を媒介にした防護壁だけど、同時に光魔法と音魔法も行使している?

 この透明化魔法、かなり高度な代物ってことね。

 これは一朝一夕でマスターできるものじゃなさそうだ。


 それに双方向でガードするのではなく、一方通行で遮断しなければ透明化する意味がない。

 門外不出の王家の影魔法。使えれば便利だが、自力での修得は困難、か。

 つまるところ、この便利な魔法を使いたいならヒューバートがいなくちゃダメってこと。


 ……ダンジョンでRPG要素が発生したとすると、ヒーローたちに個別のスキルが設定されていてもおかしくない?

 他の8人にも私の知らない特殊能力があったりするかもね。


 そして私とヒューバートは手を繋ぎながら、ロザリオを持って行ったと思われる怪しい男の屋敷へ突入した。

 魔法が使えないため、今の私は本当にただのか弱い令嬢に成り下がる。

 だから、ぜんぶヒューバート任せだ。


 これ、私が一緒に来る意味ない?

 いえ、ロザリオの確認は私にしか出来ない。だから必要ね。


 透明になって侵入した屋敷の中は、一見すると普通の屋敷のように見えた。

 ただ大きさの割に働いている使用人などはいない様子。

 買ったばかりの古い屋敷、ってワケでもなさそうだけど。


 王都でも人通りの少ない地区にひっそりと建っている屋敷。

 不穏な気配から、何かしらのグループの拠点であることも疑える。


「蓋を開けてみたら、家族円満で幸せな一般家庭の光景が広がってたら目も当てられないわね」


 その場合、完全に不法侵入する危ないヤツになる私たち。

 今更ながら早まったかもしれないと思う。


「……その心配は要らないみたいですよ」

「え?」


 心配要らないって、今の話の流れだと逆の意味になるけど。

 ヒューバートが慎重に進んでいった先には何やら怪しげな黒いローブを着た謎の人物たちが居た。


「……何アレ。そんな絵面で怪しいって分かることある?」

「静かに、お嬢」


 はい。すみません。

 幸いヒューバートの魔法で私の声は聞こえていないようだ。小声だったしね。


「……ふぅん。これが先代教皇の? ただの玩具に見えるがね」


 チンピラ風な喋り方で黒ローブの男の一人が、ある物を目前に掲げた。


「あ。あれよ」

「……あれですか」


 物凄くあっさりと『聖霊のロザリオ』だと判明してしまった。

 いえ、それを追いかけていたんだから、当然と言えば当然なのだけど。

 やっぱりレーミルは分かっていて男を見逃したのね。

 けど、この後の展開は……?


「一応、試すか」


 試す?


 男が、机の上に銀色に輝くロザリオを置いたかと思うと。

 まさかの金槌らしき鈍器で叩きつけた! ええ?

 男の目的は、あのロザリオの破壊ってこと? なぜ?


「…………」

「……壊れませんね」

「チッ」


 壊れなかった? 少しホッとする。けど、そんなに頑丈ってことなの?


「『奇跡』が込められているのは間違いなさそうです。『不壊』の奇跡というところでしょうか」


 また別の黒ローブの男がそう説明した。

 不壊、壊れないようにしているってこと? 先代教皇の遺した品だものね。


「仕方ねぇ。さっさと始めるぞ」


 そう言って男たちは、ロザリオを持って移動し始める。

 私とヒューバートは視線を合わせた。

 まだ彼らに気付かれてはいないようだけど……。


「……物凄くキナ臭いわね?」

「そうですね……。お嬢には帰っていただくのが良いと思いますが……」

「安全マージンを取ってる余裕はないと思う。何か一歩間違えると取り返しがつかなくなる気がするわ」

「……そうですか」


 引く気はない。戦闘員としては役に立つ自負がある。

 あとヒューバートだけでは事態を理解できないかもしれない。

 多少の原作知識を持つ私が居た方がいい。


「一緒に行くわよ」

「分かりました」


 ヒューバートもその辺りは理解しているのか。

 変にごねることなく、私と手を繋いだまま先へ進んだ。


 追いかけた男たちは、どうやら地下へと向かっていくようだ。

 バザーでロザリオを買った男と、黒ローブの男が3人。

 屋敷には他に人の気配はない。あまりにも怪し過ぎる。

 捜査に入れば、何かしら埃が出てきそうだ。


 そして、地下には。


「……魔法陣」


 怪しげな魔法陣が描かれた石の床。そして、謎の『祭壇』がある。

 だから、グラフィックで明らかに怪しいって分かるの、やめてくださる?

 現実だからね、ここ。


「……お嬢」

「なぁに、ヒューバート」

「なんとなく、俺も、アレは『とりあえず』で邪魔した方がいい気がしてきました」


 デスヨネー。

 え? なに? 異教徒とか、そういう系?

 日本人の前世があるためか、宗教的な異端だ、邪教だという意識は正直、薄くなっている。

 むしろ有名所以外の宗教全般を胡散臭い扱いしているぐらいだ。特に日本では。


 この国、そして周辺の国一帯も。女神を信仰する教会を国教に置いているのだけど。

 そちら方面で闇があったとしても不思議ではない、か。

 認められない教義の先代教皇が遺した遺産を破壊することで、何かしらのアイデンティティを確立したい?


 ……ウィクトリア王国って、そこまで宗教的な自由の権利とかなかった気がする。

 むしろ教会に破門されると困るぐらいの立ち位置だ。


 ただし、彼らが単なる異教徒だとするなら……。

 どうしても『別に悪いことじゃないんじゃない?』みたいな意識が、私にはある。

 宗教が異なるだけでは暴力を振るう気にはなれなかった。


 しかし、そうも言ってられない事態が起き始める。

 魔法陣の中心に『聖霊のロザリオ』が置かれたかと思えば、彼ら4人が何かの呪文を唱え始めて……。


 いやいやいや。これ、ダメなやつ。

 何かダメなやつ! 悪魔召喚とか、そっち系!? ウソでしょ!?

 あっという間に魔法陣から黒い煙が噴き出して!


「ヒューバート!」

「……はい!」


 これはもう見過ごせない。だから私たちは、その『儀式』を止めることにした。

 だけど、少しだけ動くのが遅かったみたい。


 黒い煙が結実し……、この場に『肉体』を作り始めたのだ。


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